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在宅勤務で倒せ大魔王!~または30過ぎ無職うつ病魔法使いの異世界リハビリ生活~  作者: 於田縫紀
プレ・プロローグ 無職引きこもりからの脱出 あるいは面倒くさい設定の御説明
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プレ・プロローグ第4話 世界設定と勤務内容

「それでは早速説明から始めましょうか」

 辿り着いたのはすぐ隣の小部屋だった。

 いわゆる小会議室的な部屋だ。

 6人程度用の大机に椅子が6つ。

 向かい合わせに座るよう指示され、着席してすぐに説明が始まった。


「今回蓮沼さんにお願いするのは当社の基幹事業のひとつ、ネットワークゲーム用のサーバに展開している『アウカルナ』と呼ばれているゲーム世界群の調査及び維持になります。

 ところで蓮沼さんはオンラインゲームをやられた事がありますでしょうか」


 まずい、どう答えようか。

 一瞬考えた後。

「残念ながらあまり詳しく無いです」

 正直に答える。

 志村氏は頷いた。

「そちらの方が私達にとってはありがたいです。この『アウカルナ』は今までのオンラインゲームとはかなり異なったものを目指して作られたものですから。今までのオンラインゲームはゲームの構想を練り、舞台や登場人物を設定し、それらを配置した世界を作ってその世界の上で展開していました。しかし『アウカルナ』は全く違った作り方で世界を作りました。具体的には物理法則や設定条件を与えて世界を自然発生させ、その発生した世界の上でゲームを展開するというものです」


 ちょっと考える。

「まさかビッグバンから始めたわけですか」

「ええ。無論数値演算上でですが。実際には宇宙がある程度冷えるまでの間は宇宙全体スケールで大雑把に演算し、惑星系が出来た後から詳細な世界に対する演算を主に太陽系、それも地球に相当する惑星を中心に行うという形ですけれども。そうしないと容量がいくらあっても足りませんから」

 まあそうだよな。


「でもそうするとタイムスケールが大分違うのではないですか」

「その辺は演算速度を調整するなりして向こうの世界へアクセスできるようにしています。それにゲームを開始するとなると演算すべき事象が一気に増えますので自然と進行速度は遅くなります。現在のアウカルナ世界群のタイムスケールはこちらの3倍速程度です」

 なるほど。


「そうやってより自然な形で発生させた『アウカルナ』ですが、こちらが思ってもみなかった事象が発生してしまいました。

 このままですとこの『アウカルナ』世界群は内部時間あと数十年でコントロール不能になる可能性が高いのです」


「コントロール不能ですか」

 どういう意味が俺にはわからない。

 なのでそのまま聞き返してみる。

「ええ。無論我々は内部の事象一つ一つに全て関与しているわけではありません。プレイヤーとして送り込む人間は別として、それ以外は気象等自然現象や内部特定人物の思考操作によって世界を管理しています。

 ですがこれらの管理を拒絶し、世界の操作を妨害する存在が発生する可能性が高い。この世界を先行演算するプログラムからそのような警告がなされました。例えばこちらが操作を実施して台風を発生させようとしても、気温を操作するなり雲量を変える等して台風を発生させなくする。もしくは発生させた台風を弱体化させ消滅させたりする。そんな存在です。

 こちらではその存在を『大魔王』というコード名で呼んでいます」


 大魔王か。

 確かに創造主に歯向かう存在として正しいコード名だよな。

 でも待てよ。

「それが自然発生の存在であったとしても所詮は演算上での存在。でしたら内部演算から消去することは出来ないのですか」

 黙っていた方がいいと思っていても慣れないVR。

 なのでつい思った事が質問として出てしまう。

 あっやばい。そう思っても既に質問後だ。

 俺はただ落ち着いているふりをする事しか出来ない。


 志村氏は頷く。

 少なくとも表情は今の質問で機嫌を損ねてはいない模様だ。

 ちょっとほっとする。

「ええ。影響が少ないうちに大魔王の存在を消去する。それ以外に方法が無いだろうと我々も結論付けました。それが蓮沼さんにやって頂く仕事になります」

 そう来たか。

 でも俺はプログラマーの経験は無いぞ。

 営業やSEの真似事はさせられたこともある。

 でも基本は単なる事務屋系なんでも屋だったからな。

 やばい、手が震えそう。

 これはVRだVRだ! そう俺自身に言い聞かせる。

 少し回復した。

 薬が効いているせいもあるだろうけれど。


「それは具体的にはどのような方法で行うのでしょうか」

 直接聞いてみる。

「蓮沼さんにはプレイヤーと同様の方法で、この『アウカルナ』世界群のひとつにアクセスして頂きます。そこで登場人物を演じながら世界を監視していただきたいのです。つまりはゲームをプレイするのと同様です。無論権限はプレイヤーと若干異なりますけれども。

 無論実際に監視するのは蓮沼さんだけではありません。同様に監視業務を行う方を数十人単位で運用する予定になっております」

 なるほど。

 それだけ同じ仕事をやっている奴がいるなら心配いらないな。

 でも更に疑問はある。


「でしたらプレイヤーからの意見等でも同様な事は出来ないのでしょうか」

「残念ながらそれは難しいと判断しました」

 志村氏はそう言って続ける。

「まずゲームプレイヤーは何が起きても『それは運営の作為である』と思い込んでしまう傾向が強い。これはゲーム世界のみ都合よく作っていたこれまでのネットワークゲームの影響ですけれども。それにプレイヤーそのものの感覚も正しいかどうかわからない。おかしいと思うのはそのプレイヤーだけなのか、それとも本当に世界がおかしいのか。その判断がつきにくいのです。

 今回の採用では幅広くバランスの取れた知識をお持ちの方を選ばせて頂きました。ですので蓮沼さんはゲームプレイヤーと同様に中の世界を楽しみながら、明らかに世界として違和感を感じる部分を探し、定型のレポートで報告して頂く。それが業務の中心になります」


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