第2話 束の間の旅立ち
ライドはある満月の夜、部族の長のもとを訪れた。長はライドが来ることを分かっていたかのように目を閉じて大木の下で静かに座っていた。白髪の長い髪が、生きてきた命の長さを感じさせる。ライドは、長の前に立ち、少し緊張気味に告げた。
「「外」へ、、、行ってみたい。」その声は、静かながらもしっかりとした意思が宿っている。長がまだ目を閉じていたため、ライドは続けた。
「ここ以外の色んな世界を見て、色んな人と会って、色んなことをしてみたいんだ。」
長はゆっくりと目を開けた。そしてしばらく沈黙した後、口を開いた。
「ライドよ、それはならん。」ライドは驚いた。いつも優しい長の顔が厳しい表情に変わっていたからである。
「我らのお役目は知っているな?」長は鋭い眼光でライドを見た。
ライドは素直に頷いた。この部族に伝わる言い伝えだ、ライドも小さい時から繰り返し聞かされていた。長も頷き、話を続けた。
「ここは神聖な場所なのだ。。言い伝えにある通り、大昔、我々の偉大なご先祖、カルミナ様の元へ神様がやってきて、豊かな土地をくださった。その代わりにこの地を守るようにと命じられた。それから我々はずっとこの地を守り続けておる。。その甲斐あって、「外」に我々の存在はいまだに知られていない。・・・その役目を捨てて「外」へ行こうとする者、「外」へこの地の存在をばらす者、許すわけにはいかぬ。」
ライドは反論した。
「・・・でも、それはあくまで伝説だ。もし本当だとしても、それから何百年の時が経っていると思っている。時代が変わっていくのに、古い言葉を守ってきたばかりに俺らは「外」と隔離されてしまっている。・・・俺らは時代に置いていかれているんだ。今一度、「外」と交流を持ち、新しい風を呼ぶことが必要じゃないか!」熱くなるライドをよそに、長は少し笑いながら言った。
「ひょっひょっ・・・、やはりお前は頭が良い。しかし、お前のように主張する者、「外」へ出たいという者はこれまでも大勢いた。若い者なら一度は大きな世界に憧れて当然じゃ。お前は少し早すぎるがのぅ。。」長は間を置いて続けた。
「「外」の世界は、お前がどんな想像をしているか知らんが、こことは全く異なる空間が広がっておる。たくさんの国々、たくさんの人々、そして様々な文明、長い人類の歴史の中で、「外」の人々は、その文明を大いに発達させてきた。お前が見たこともないような不思議な物を彼らはたくさん持っている。」
「・・・では、尚更「外」と交流して、その文明にあやかるべきでは!?」ライドは至極当然の疑問を口にした。
「・・・「外」の者は強欲で、自分たちの利益を増やすことしか考えておらん。ずかずかと人の土地に押し入っては自分たちの文化を押し付け、土地を奪っていく。ここが彼らにばれたら、たくさんの「外」の者が訪れるようになり、ここの生活が、土地が、めちゃくちゃにされるであろう。」
「・・・確かに「外」の人は知らないけど、同じ人間だし、きちんと話し合えば・・」ライドの言葉を長が遮った。
「ならん!お前はここの役目を軽んじておるが、この土地は本当に特別な土地なのだ。「外」にはここのような土地はなく、多くの人々は飢えに苦しみ、時には争いを起こす。ここがばれたら、、我々のことなどお構いなしに、根こそぎ奪われるぞ。我々はお役目を忘れずにいたからこそ、平和で豊かな生活を送れているのだ。そして何より、我は部族の長として、お前をそんな危険な世界へ行かせるわけにはいかぬ。」この瞬間、ライドには長がこれまでよりとてつもなく大きく見えた。しかし、長の想いとは裏腹に、ライドの目に宿った輝きは消えなかった。
一体、「外」とはどのようなところなのか、ライドの胸の中に広がったのは、恐怖や役目を放棄することへの罪悪感、などではなく、更なる興味、だった。
「長よ。」突然、背後から声が聞こえた。アルだ。一体いつからいたのか、ライドと長は一斉にアルを見た。
「ライドを「外」へ行かせてやってくれ。」これには長が驚いた。
「アル、何を言う」アルが長を遮った。
「もう一度だけ言う、ライドを「外」へ行かせるんだ。」まるで会話をしているかのように、長とアルはしばらく見つめあった。
「まさか、この子が・・・?」アルは、長の言葉に静かに頷いた。長が頭をうなだれ、少し間をおいてから諦めたように告げた。
「ライドよ、「外」へ出ることを・・・許す。」
ライドは驚きの表情で長を見た。
「ただし、」長の口調が強くなった。
「我々の存在、この土地の場所を絶対にばらしてはならぬ。そして、期間は、、、1年。1年後、一度ここへ戻ってくるのだ。それが条件だ。」長の言葉には有無を言わせぬ力があった。
「よいな、ここがばれたら我らはおしまいだ、神から見放され、我々は路頭に迷う。お前のたった一言が、一族を路頭に迷わせる。そのことを絶対に忘れるな。」
アルのたった一言で態度を変えた長、育ての親アルは一体何者なのか。ライドは怪訝な顔でアルを見上げた。アルは不適な笑みを浮かべていた。
ライドは、その次の満月の夜、出発を決意した。出発の日、部族皆が見送りに来てくれた。アルは、ライドの目立つ肌を隠すためのパウダー状の粉をくれた。また「外」の服と少しの「カネ」というものをくれた。これが話に聞いていた「カネ」、ライドは小さな硬貨を見つめながら、胸が高まるのを感じた。ライドはそれらを全て身に付け、船へと乗り込んだ。
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