第1話 ライドの誕生
西暦2100年、今、まさに最後の国境が撤廃されようとしていた。「世界統一国家」の誕生である。その後、しばらくして紀元前より人類とともに発展してきた貨幣制度が崩壊、人民の頭からは「カネ」という概念が消え去るのである。
今から約40年前、西暦2060年、アフリカの奥地にある部族の中で、運命の赤ん坊が誕生した。赤ん坊の母親は生まれてすぐ原因不明の病で亡くなり、赤ん坊は、その地にいたアルという男に育てられた。赤ん坊は、ライドと名付けられ、元気にすくすくと成長した。部族の肌が浅黒い色に対し、ライドの肌は赤黒く目立つ色をしていた。そのために他の子どもからからかわれることも多かったが、ライドにはずば抜けた知性があり、からかわれることもすぐになくなった。
5歳になったライドは、ぼんやりとではあるが、自分の住んでいる場所が文明より遠く離れた場所にあることを自覚していた。部族の仲間やアルから「外」について様々な話を聞いていたからである。アルは部族の他のどの年寄りたちよりも「外」について詳しく、また「外」の様々な言語を話すことができた。ライドはその話を聞くたびに羨ましがった。自分もその景色を見たい、アルから言語を学びながら、ライドはいつしかそう思うようになった。
部族での生活は決して辛いものではなく、むしろ毎日が楽しかった。未だに狩猟採集を生業としていたが、豊かな自然に囲まれ、鳥や川魚、果物など、食に困ることはなかった。また、ときには部族の一部の者が遠い市場へと出向き、調味料や肉、服を作るための布など、魚と引き換えに様々な生活用品を手に入れてきた。しかし、「外」の世界に魅力されたライドは、月日が経つにつれ、「外」へ行くことへの憧れが増々強くなった。かくして、ライドはわずか9歳にして、部族を出ることを決意したのである。
ここまで読んでくださってありがとうございます。ライドの今後の軌跡をどうぞ見守ってください。