双の狐
今回は書き溜めに貯めてたので長いです。
ベルゼニュートとの戦いから一夜明けて…
私たちは新たな仲間のアリスと"例の場所"を目指していた。
「サリエラお姉ちゃん、例の場所って遠いの?」
アリスがつかれたと言いたげに言う。
「さぁ?私は行った事が無いから知らんよ。」
「遠い…半分…まだ…」
「だってよ。てか、なんで私がお前に姉ちゃん扱いされてんだ?」
アリスは不思議そうに首を傾げて言う。
「んー…何となくアリスと同じにおいがしたから…イヤだったら辞めるけど…」
「なるほどね。まあ、嫌ではないけどなんでだろーなって思ってよ。」
私は化猫だから、もしかしたらアリスにも化猫の血が流れてるのかな…
でも、私より嗅覚が鋭いし…
ああ、その為の竜の遺伝子か…
いやでもなぁ…
リラは空を見ていた。
「姉様…」
リラは誰にも聞こえないくらいの小さな声でポツリと呟く。
何処へ行ってしまったのかも分からない人を思い空を見る。
姉様…何処へ行かれてしまわれたのですか…
姉様…リラは最近よく貴方の事を思い出します…
………と言う姉様にとてもよく似たヒトが居るのです。
姉様…リラは寂しゅうございます…
どれだけ彼女が姉様に似ていても姉様では無いのです…
姉様…貴方は…
「アリアール…」
誰かがリラの服の裾を引っ張った様な気がした…
リラは物思いにふけるのをやめて目の前を見る。
「どこ…」
見た事も無い景色がリラの前に広がっていた…
いや、この景色は…
「リラ…思い出…場所…似てる…」
リラは周囲を警戒しながらそのまま真っ直ぐ移動する。
ただひたすらに走る。
そして立ち止まって言う。
「同じ場所…」
リラは今度は行く方向を変えることにしてみる。
しばらく走っては向きを変えてを繰り返しているうちに進める方向を見つける。
「こっち…進める…」
リラはそのまま真っ直ぐ走って行く。
「こっちよアリアール…」
リラの後ろで声がする。
リラが振り返るとそこはかつて、自分が暮らしていた場所だと分かった。
森の中の小さな小屋の様な家…
これはまだヴェルエールの村が出来たばかりの頃の記憶の様だ…
「姉様!見てくだせー!アリアールはこんなでっかいお魚を獲ってきたんですのー!」
小さな九尾の女の子が嬉しそうにはしゃいで居た。
「フフッ…アリアールはお魚を獲るのが上手ですわね…今日はアリアールの好きなお魚のステーキにしましょうか?」
「さんせー!アリアールも姉様のお手伝いをしますのー!」
「フフッ…それじゃあ…アリアールには森の果実を採ってきてもらいましょうか…」
「うん!アリアール、たっくさん採って来ますの!」
「フフッ…楽しみにしてるますわ。」
リラはアリアールを追いかけて森へと急ぐ。
「このままじゃ…危ない…」
リラはアリアールを追いかけて進む。
「きゃあ!」
数メートル先で女の子の悲鳴が聞こえた。
リラはそのまま飛び蹴りをしながら言う。
「だめぇ!」
勢い良くリラの蹴りが炸裂し、女の子を襲っていた狼が勢い良く飛ぶ。
狼はそのまま体勢を立て直していた。
リラはその隙に女の子を抱き抱えて来た道を戻ろうと走る。
「死なせない…今度こそ…」
「貴方は…?」
「リラの事は後!しっかり掴まってる!」
「わ、わかりましたの!」
リラが全力で走っても狼の方が僅かに速かった。
初めはかなりあった狼との距離も徐々に縮まっていく。
そして、あろう事かリラは木の根っこに足を取られて転んでしまう。
狼は鋭く荒々しい爪を振り下ろす。
「何があっても守る!」
リラはアリアールを尻尾で包み込んでアリアールを守る。
狼の爪が目の前に迫る。
リラは顔の前で腕をクロスさせて身を守る。
「あおおおおおおー!」
リラは目を瞑り死を覚悟した。
しかし、リラにも女の子にも衝撃は来なかった。
「アリアール…よくぞ。ここまで成長しましたね。」
「姉様…!」
そこに居たのは美しい金髪の妖狐だった。
そしてそれは紛れもないあの時………はずの人だと分かった。
「アリアール、今の貴方はこの時代に居るはずはありません…が…」
妖狐は立ち上がる狼を見て言う。
「彼らのせいでここに来てしまったようですね…」
妖狐がそう言うと狼の背後から無数にも及ぶ群れが現れる。
「アリアール、一つだけ…私の秘術を貴方に教えますわ。こっちの貴方じゃ出来なかったけど、今の貴方にならこの秘術を扱えますわ。」
「姉様…!」
リラは知っている。
この後、姉様がどうなるかを…!
リラは妖狐を止めようとその先の未来を話そうとする…
しかし、妖狐は分かっていると言いたげにリラの頭を優しく撫でる。
「貴方が何を言おうとしてるのかはわかります…」
「姉様…」
「出来る事なら、私も貴方と一緒に生きていたいですわ。これまでも…そして、これからも!」
そう言うと妖狐の身体が光始める。
「でもね…私にだって守らねばならぬ家族が居るのです!アリアール…貴方と言う私に残された最後の家族を!」
「姉様!」
「アリアール!私の…アリシアの魂と融合しなさい!やり方は教えたはずよ!」
リラは妖狐の言う通りに秘術使う。
「我が魂とアリシアを結ぶ結の力よ…我らを1つとし、真なる力にて敵を打ち滅ぼせ!」
「アリシア・ヴェルエール!その声に従い、アリアール・ヴェルエールと共鳴します!」
光がリラたちを包み、2つの光が1つになる!
「アリアール…今まで黙っててごめんなさい…」
「何の事?」
「名前の事ですよ…」
そう言って俯く妖狐の様子を見てリラは言う。
「名前…間違えた事?」
「いいえ…あれが本当の名前なのですよ…私とアリアール…2人のね…」
「じゃあ…リラは…」
「そうですね…ヴェルエールさんと同じ血を持つ一族になります。」
そして、妖狐はリラの肩に手を置いて言う。
「竜人の子と化猫の子…あの子達はそれぞれ違いはあるけど、私たちよりより強くヴェルエールの血を受け継いでいます。だから、彼女たちを守ってほしいのです。私の代わりに…」
「それって…」
「そうですね。アリスもサリシアも強過ぎる力を宿しています。それゆえにリアラの軍勢に利用されてしまうかもしれません…もし、そんな事になれば、この世界は3日…いいえ、2日で全てが破壊されてしまうでしょう。」
つまり、その二人を守らなければリラの世界もこの世界も終わる…
ほんの一瞬かもしれないけど、姉様と一緒に居た世界が…
「アリアール…引き受けてくれますか?」
リラは迷う事なく言う。
「もちろんよ…姉様と過ごしたこの世界もリラたちの世界も終わらせない!」
「フフッ…私も貴方と共に過ごした世界を守りたいですわ。だから…」
「「共に戦おう!私たち(リラたち)の世界を救う為に!」」
光が消え、美しく輝く金髪と白銀の美しい九本の尻尾の妖狐がいた。
「我が名はアリシアール・ヴェルエール!お前達を倒す者だ!」
リラがそう言うと狼の軍勢が一斉にリラに飛びかかる。
「遅い!」
リラの九本の尻尾から放たれる鋭い突きで次々と串刺しとなる狼の軍勢。
貫いては消え、貫いては消え…
そのくり返しであった。
だが、狼共の中から一際大きな人狼がリラの尻尾を掴む。
そして、そのままリラを投げ飛ばす様にその尻尾を引く。
「しまっ?!」
リラは勢いよく地面に叩きつけられ、そのうえから人狼が飛びかかる!
リラが死を覚悟したその時…
「でぇい!」
勢いよく人狼の鮮血を飛び散らせながら、化猫の様な容姿の女の子がリラを人狼から避ける。
「あ、ありがと…」
「礼は後!すぐに体勢を整えろ!」
そう彼女が言うと人狼は人ならざるものの動きで襲いかかってくる。
「お姉さん、俺があいつを足止めするから強力な一撃を叩き込んでやれ!」
「う、うん?え?」
リラが戸惑っているうちに彼女が人狼に飛びかかっていき、その爪で切り刻むが人狼は鮮血を飛び散らせているにも関わらず、傷が全く無いようだった。
「そうか…こいつは…」
知っている…
こいつを私は知っている…!
今までのリラではこいつは倒せない…
「でも、今は…1人じゃない!姉様とリラなら出来る!」
(そうね。私たちなら出来るわ!)
そんな姉様の声が聞こえた気がした。
「お姉さんたち!話は後だ!来るぜ!」
「了解!」
人狼が闇に溶ける様に消える。
「そこだ!」
化猫の女の子が爪を突き出すと人狼が姿を現し、鮮血を滴らせる。
「お姉さんたち!俺の事は良いから、全力でこいつをぶっ飛ばせ!」
「でも…!」
「良いから!さっさとやれ!じゃないと死ぬぞ!」
リラは考える。
なんとか彼女を救う方法を…
「くっ…いつまでも抵抗しやがって…」
辛そうに人狼を止める化猫を救う手立ては…
(アリアール…)
…!姉様!
(アリアール、貴方には秘術を教えましたよね?)
うん。あれは使用者と対象の魂を共鳴させて対象と使用者の力を一つにする術だよね。
(実はその秘術にはこんな使い方もあるんですよ。)
…!これは…
(今の貴方でも少し厳しいかと思ったけど、今はそれどころじゃないですわ。私の力も使って成功させてくださいまし!)
わかった。リラ、やってみる!
リラは集中し、魂の波動を読み取る。
「くぅ…まだか…」
化猫の身体中がみちみちと嫌な音を立ていた。
リラは焦らず静かに心を研ぎ澄ます。
「グルル…」
人狼が化猫の腕を爪ごと叩き折ろうと腕を振り上げる。
「もうちょっと…大人しくしなさい!」
化猫の片足の爪が人狼の腕を切り落とす。
「ウォオオオオオオン!」
しかし、一度遠吠えをし、すぐに腕が再生する。
「見えたっ!」
リラは目を見開き、妖術で作りあげた巨大な光の球を出現させ、人狼に叩きつける!
「これが僕の秘術…裁きを下す光の球ー!」
リラがそう言うと光は激しく光り、目の前が真っ白に染まる。
「…貴様か…我を倒してくれたのは…」
光の中、先程の人狼がリラにゆっくりと近づきながら言う。
リラは身構える事もせずに言う。
「そうよ…」
「そうか…」
人狼はそれだけを言うと満足そうな表情を浮かべ、光の粒子となって空へ消える。
視界も元に戻る。
「ふぅ…終わった…」
「ふぃ〜…さすがに今回はヤバかったぜ…俺ももっと鍛えねぇとな!」
化猫の女の子はその場にドサッと倒れて楽しそうに笑いながら言う。
「フフッ…君、強いね…名前聞いて良いかな?」
「俺はサリナ・サリシアだぜ!よろしくな!」
「僕はアリシアール・ヴェルエールよ。よろしくね。サリナ…」
リラはがっちりとサリナと握手する。
すると突然視界が真っ白になる。
「ここが…お姉さん…いや、アリシアールの世界か…」
「そうなの?」
「うん。俺の能力は相手の世界に入る事も出来るからな。でも、さっきのもう一人のお姉さんはもう居ねぇみたいだな。」
「お姉さん…?」
リラが不思議そうに首を傾げるとサリナがニヤッと笑って言う。
「なんだよ。アリシアールは知らねぇのか?鈍感だなー」
少女が楽しそうにそう言うと世界が暗転し、元の世界へと戻る。
私はリラを見て言う。
「リラ、少し雰囲気変わったね!」
アリスも楽しそうに微笑みながら言う。
「なんだか、別の人みたいだね。」
リラは楽しそうにドヤ顔をして言う。
「今の僕は今までとは段違いだよっ!覚悟しててよね!」
思い出の森を抜けた3つの影は笑いながら先へと進んで行った。
サリナ・サリシア
種族:竜猫
詳細:竜の力をその身に秘めた化猫の里の生まれの元気な竜猫。
一人称は「俺」で活発で強いやつと戦って暴れるのが大好きな性格。
相手が強ければ強いほど燃えるらしい。
アリシア・ヴェルエール
種族:九尾
詳細:リラたち妖狐よりさらに強い力を持つ高位の妖狐で一族の中でずば抜けた妖術のセンスを持っていた。
普段の柔らかい物腰とは裏腹に、戦闘ではかなりの実力派で妖術と体術で敵対者を瞬時に倒す戦闘能力を秘めている。
唯一、魂の波長を感じる事によって、秘術が味方に当たらない様に出来る。
アリシアール・ヴェルエール
種族:九尾
詳細:リラとその姉のアリシアが秘術によって一つの存在となった姿。
通常の九尾よりも遥かに強い能力を持つ。
その能力は神の力にも匹敵する程である。
リラが主人格として身体を支配しているが、姉のアリシアが身体を動かすこともある為、敵としては非常に厄介な相手である。




