012_06_過去の想いを読み取ろう#1
「ああ、やっと来たね。あの部屋にあったものだけど、ひとまずざっと調査は終わったよ。君達が見つけたノートも、一応解読出来た。大分欠けちゃってはいるけどね。どうやら彼の日記だったみたいだよ。ま、君の探検用情報端末に送ったから読んでみてよ。君の意見、聞かせてほしくてさ」
今後どうするかを話し合う、という事でログインすると、拠点にはさも当然のように椅子を占めるレイさんがいただけだった。わたしが入ってきたのに気づくと、彼はホワイトボードからわたしの方に視線を移し、意味ありげに笑ってそう言った。
【超越者】の日記なんて、一体何が書いてあったんだろう? とにかく読んでみよう。わたしはギアを取り出し、レイさんからのメッセージを開く。
送られてきた日記は文章がところどころ欠けているし、日記という事で書いてある内容も日によってまちまちで、どうでも良さそうな事とか、ホントにプライベートな事――彼女に渡すプレゼントをどうしようかとか――も結構あった。何か関係ありそうなところ、見つけないと。
「ええと……。『たとえ転移計画が成功したとしても――成功するか疑わしいものだが――、竜人である彼女を連れて行くことは……だろう。やはり、制御装置の欠陥を直さねば。それが……の解決策でないにしても』 あ、これ、彼女って写真の、ミライのご先祖様の事かな。転移計画っていうのは良く分からないけど、ずっと彼女と一緒にいるために制御装置を直そう、ってこと……。制御装置……それって遺跡の事だっけ」
【超越者】達は破壊神――この島の火山の事、らしい――を制御することが出来て、その制御装置が遺跡じゃないか、って前に聞いたような気がする。ホワイトボードにメモってないかとそっちを見ると、レイさんと目が合った。
「そうそう。超越者は火山からエネルギーを取り出しつつ、噴火を抑制していた。その装置が遺跡だね。でも、噴火を抑制できなくなってきたどころか、どうやらその装置が噴火に悪影響を及ぼしているらしいことが分かっちゃったんだね。破壊神が暴走した、ってミライちゃんが言ってたでしょ? で、この男はそれは装置に欠陥があるからで、欠陥を直せば良いって考えているみたいだね」
レイさんはこくこくとうなずいた。やっぱりそうなんだ。確か竜人達の伝説では、超越者達は『見て見ぬふりをした』、って言ってたけど、ちゃんと直そうとしてたんだ!
じゃあ直そうとして、どうだったんだろう? わたしは何か書いていないか、更に読み進める。
「あ、この辺かな。『まさか欠陥を見つけるより先に、転移計画に目途が立とうとは。これで皆一気に転移側に傾く。制御装置の解析事業に対する予算と人員の削減は免れ……。困ったものだ、後少し…………彼女のためにも、諦めるわけにはいかない』 あれ? 結局ダメだってことなのかな? でも、諦めないって言ってるし……」
わたしはさらに画面をスクロールして、制御装置を直せたのか、そして二人がどうなったのかを探す。
「ん……?『ここ数日、彼女の調子が悪い。食欲がなく、時々吐き気を訴え、情緒不安定だ。しきりに……に帰してくれとせがんでくる。何度も説得……だった。一体どうしたのだろう? 別れたくは……。仕方ない……もう一度会える……彼女に……を渡そう』 あれ? 女の人の方が帰りたいって言って、男の方が折れた感じ? これってもしかして……ううん、でも分からないな。理由はともかく、何かを渡して……あ、きっと別れるときにあのペンダントを渡したんだ!」
ミライのご先祖様はここでペンダントを持って竜人側に帰ってきて、そのペンダントが今に伝わってるんだ。何だか感慨深いなあ。でも別れちゃって、それでどうなったのかな?
そういえば竜人の伝説だと、超越者達を倒して遺跡を封印したわけだよね。その辺も何か、書かれているのかな? 今まで聞いた話がちょっとずつ繋がっていくのにドキドキしながら読み進める。
「お、これ? 『負けた。御終いだ。あんな原始的……やはり数なのか。知識と技術が如何にあろうと、子供が生まれなく……新しい力を得られぬ……滅ぶしかないのか? 彼らは制御装置から……を奪い……停止させてしまった。そんなことをしても一時しのぎにしかならないというのに。漸く見つかりそうだった……私の努力も……もう……だろう。否、まだ私は生きている。恐らく、いや絶対に彼女も。ならば……ためにも、欠陥を……火山を安定させねば。……を印刷しておいて良かった。これでもう少し考えられる。もう少しだ、もう……』
そっか。ミライとツバサに聞いた建国の伝説も、超越者から見たらこうなるんだ。でもこの感じだと、まだ方法は見つかってないってことだよね。うーん、日記はここで途切れてるけど、この男は竜人達のところに封印を解いてもらいに行ったわけだから、この後方法を見つけたってことだと思うけど……」
「多分ね。ここでノートの方が尽きてるんだよ。恐らく彼は方法を発見した後、次のノートに書いて、それは最期まで手元に持っていたんじゃないかな」
わたしの疑問に、レイさんが軽くうなずいた。
「だけど結局、竜人達には信じてもらえなくて、処刑されちゃったんだ……。彼女にも会えずに……。彼女と一緒に安全な世界で暮らせるように、頑張ってたのに……」
その結末を思うと、胸が締め付けられた。この人も、竜人達も、きっとみんなそれぞれが安全な暮らしを求めて、自分が一番いいと思うことをしていたのに、かみ合わなくて、ホントに解決できる方法は取られなかったんだ。誰が悪いってわけじゃないのに……。
「でも、この人は方法を見つけたんですよね。で、きっとあの図……の完成版が何か重要な手がかりなんですよね。じゃあ今度こそ、この人がやろうとしてたことをやり遂げて、破滅を防がないと!」
大切なのはこの先どうするかなんだ、って気持ちを切り替えて、わたしは高らかに宣言する。
「……そう考えるんだね。面白い。君は本当に良い子だね。……ああ、別に皮肉じゃないよ、本心からそう思ってるさ。そういうところ、好きだよ」
わたしのすぐそばで――いつの間に来たんだろう――、珍しく優し気に微笑む美形のそんな一言に、
「うゎぇえあぁ!?」
そういう意味じゃないって分かっていてもついついどぎまぎしてしまって、女子力ゼロの変な声が出た。レイさんは椅子から飛び上がり後ずさるわたしに苦笑した。
「やだなあ、そんな露骨に嫌がらなくてもいいのに。僕は結構見た目も収入もいいから、優良物件だと思うんだけどなあ」
「いやそんなこと言っちゃうその性格が」
思わず本音が口を突いた。さっきのは嫌がってたわけじゃなくて驚いただけだったんだけど、やっぱりちょっと距離を置きたいかも。……まあいいや。性格がアレな美形の事は放っておこうっと。
「さて、と。次はツバサに話を聞きに行こうか。いくつか彼にも聞いておきたいことがあるしね」
レイさんはわたしのツッコミはさらっとスルーして、そういうと、さっさと扉の方へ向かった。わたしも後を追って部屋を出る。
中庭でわたし達はツバサを見つけることができた。できたんだけど……。




