012_02_金騎士団の目論見は
「おいおいタク、何やってんだよ。威勢よく飛び出した割にやられてんじゃねえか! 全く、余計な事で仕事増やしやがって! 私怨で目的忘れてんじゃねえよ!」
忌々しげに、でも余裕たっぷりに、見下した感じ全開でそう言って現れたのは、何の意味があるのか分からないトゲトゲのついた金色の全身鎧に身を包み、金色のトップ部分の髪をツンツンに立てたワイルド系の男、金騎士団団長のシンさんだった。その後ろから、わたし達を取り囲むように、鈍い金色の鎧に、キマイラと剣の紋章が描かれた深緑のサーコートを着た集団が現れた。
「シン! ごめーん! でもやっぱ、倒しといた方が後々いいかなーと思って」
タクさんが金に近い茶色のふわっとカールした頭を自分で小突きながら、ペロリと舌を出した。うーん……ほとんど女の子に見える美少年なら、ギリギリ許される、のかなあ。それを見たシンさんは、呆れたようにため息を吐くと、タクさんの事は無視してわたし達を一瞥した。
「よお、こんなところで会うとは奇遇だな!」
肩に担いだ、むしろ鉄塊と言った方が正しい馬鹿でかい大剣でコツ、コツ、と肩を叩きながらシンさんがニヤリと嗤った。奇遇って、襲って来ておいて何言ってんだ! と思うんだけど、それ以上になーんか違和感を感じるなあ。何だろう?
「そっか! 武器だ。セイが持ってたみたいな大剣に変わってる。っていうか、シンさんの武器ってたしか……」
わたしはツバサの方を振り返る。そうだ、どっかで見たな、と思ってたんだけど、ツバサが今持ってるフランベルジュはシンさんが装備してたやつだ!
じゃあタイラントドラゴン戦のとき、ツバサがやって来てわたし達がゲームオーバーした後、結局シンさんはツバサと戦って負けた、って事なのかな。さっき私怨とか言ってたから、タクさんもかもしれないな。なんだ、最強コンビも意外と――
そんなわたしの推理は、「ちっ……」と後ろから聞こえてきた思いっきり大きな舌打ちに中断された。
「そうか、保険か。奇遇でも何でもないわけだ。彼の行き先をずっと追跡していた、と。
それにしても武器に保険を掛けるなんて、最強も随分用心深いものですね。いや、その驕らない姿勢があればこその最強ですか」
トゲのある言葉で応じながらも、カンの表情に余裕はなく、苦々しさがありありと浮かんでいた。保険? どういう事だろう?
「あ! 保険のオプションにあった、追跡機能! ツバサが持っているのはシンさんのだったフランベルジュで、それを追いかけてここに来たってこと!?」
そういえばこの間すっかり忘れてた武器の保険を申し込みに行ったとき、そんな説明を受けたな、と思い出す。シンさんは答える代わりにニヤリと嗤った。じゃあ、やっぱりそうなのか。
「しかし、三つの騎士団筆頭、みんなの憧れ、ソリドゥス金騎士団も随分困窮なさっているようですね、墓荒らしなんぞに手を出すとは。大体遺跡からの物の持ち出しは禁止のはずでしょう?」
カンが精一杯の皮肉を込めて言った。墓荒らし……それって、英雄の墓から宝剣を盗んだの、金騎士団だってこと?
「ハッ! 俺らを一般プレイヤーと一緒にすんじゃねえよ。三騎士団筆頭だからよ、運営から特別な任務も任されてんだよ。残りの使えねえ馬鹿どもに代わってなあ! そうっすよねえ?」
シンさんは、余裕たっぷりに答えると後を振り返った。
「全く、墓荒らしとは心外だな。これは滅びゆく文明の保護という一つの偉大な事業だというのに」
黄金鎧の間をかき分けて、青い羽根のついた白い帽子に白い短いマント――レイさんと同じ運営、開発部の制服――をまとった、30半ばくらいの冷酷なエリート風の男が近づいてきた。見たことある。リスクオンの設立の時にいたショウさんだ。レイさんが帝国側のことは彼が仕切っているって言ってたから、金騎士団といるのも不思議じゃない。だけど、偉大な事業なんて何言ってるの!?
「こっちの宝物を持ち帰って売り飛ばすつもりなんでしょ? シンさんだって前に、ゲートを広げて物を持ち帰るのはお金のためだ、って言ってたじゃないですか! 結局のところ竜人達の物を勝手に奪ってお金儲けを企んでるだけなのに、どこが文明の保護なんですか!!」
全く悪い事をしているという自覚なんてなく、むしろカッコよく、自信たっぷりに、良いことだと言い切ったショウさんに、わたしはストレートに疑問をぶつける。ショウさん、そして脇に控えるシンさんやタクさん他金騎士団メンバーも、心の底から見下した嘲笑を浮かべた。
「竜人達の物? また穏健派の金科玉条、現地人の尊重か。今はそんなことを言っている場合ではないのだよ。戦火に、噴火、このままに奴らの思うままにさせておけば貴重な文化財が灰燼に帰すのだ。どちらが重要かなど自ずと分かろうというものだが。まあ、燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、ということか」
ショウさんはやれやれ、とでもいうようにため息をついた。ちょいちょい何言ってるのか分からなかったけど、馬鹿にされたことは分かった。確かにこれから起きる戦争や噴火――破壊神の復活――で色々なものが失われてしまうかもしれない。だからそこから保護する、っていうのは分かる。でもね。
「戦争を煽ってるのも、噴火を早めようとしているのも強硬派でしょ!? 自分で破壊しようとしておいて、保護だなんておかしい!」
言ってることとやってる事が違うんだよ。だからきっと、それは聞こえの良い建前で、本音はやっぱり略奪してお金を稼ぎたいだけなんだと思う。だけど、わたしの指摘にショウさんはなんら余裕の表情を崩すことはなかった。「どうせ言っても分からないだろうが」とは言葉にこそしなかったけれど、表情からそれをばっちり滲みださせて、
「どちらにしろ、我々が手を貸さずともいずれ起きることだ。レイやお前達は何か嗅ぎまわっているようだが、それも行き詰っているのだろう? 優先度を考え、筋の悪い手は捨てて、いまいま必要な対応に人的資源を割くべきだ。
……大体あいつの勝手には、上だって眉を顰めてる。馬鹿は下らない事を考えずに黙って命令に従うか、さもなくば……消えるべきだ!」
と言い放った。言い方も言ってることも腹立つ!! 何なのこの人! 自分とその味方以外ゴミとか考えてるタイプ!?
「何、言ってるんですか!! 優先度? 遺産だけじゃなくて、今の彼らの生活だって壊しちゃいけないんです!! いずれ起きることかもしれないけど、防ぐ手立ては――」
「何するの! 放してっ!!」
ショウさんに対するわたしの抗議は、突然響き渡ったミライの悲鳴にかき消された。
え? 何? 一体何が起きたの!? 確かにわたし、ヒートアップしてあんまり周りが見えてなかったけど、とりあえず金騎士団が動いた様子はない。それにツバサやカンなら、野生動物とか他のプレイヤーとか近づいてきたら気づくはずだよね。じゃあ、一体誰が? とにかく状況を確かめなきゃと、わたしは悲鳴のした方に目を向ける。
「大人しくしてもらえるかい? でないと手元が狂わないとも限らないから」
わたし達からも金騎士団からも少し離れたところで、ミライが首筋に大振りの解体用ナイフを突きつけられていた。
どうして、こんなことになっちゃったんだろう?




