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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第二章: いきなり大物退治!

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002_03_魔物退治は楽じゃない#2

「わっ……!」


 銃声が響き、わたしの一歩先で土埃が上がったので、わたしは慌てて足を止めた。ちょっと、味方を撃とうとするってどういうことだ!


「やめるんだ。そのまま、あの二人が来るまで待とう」


「何で! 今チャンスじゃん」


 弱気な発言に、わたしは思わず強めに抗議した。


「だから俺達じゃ倒せない。俺の銃はダメージほぼゼロだ。で、初心者一人で倒せるとは思えない」


 カンはため息交じりに首を振る。そりゃあ、わたしは初心者で、強くないけどさ。だとしてもそのまま逃げるなんて。


「でも、何発か撃てば、何とかなるんじゃない? それに協力すればきっと! 倒せなくても、セイ達が来るまでにそれなりにダメージは与えておけるって!」


「……無駄に撃ちたくないんだ」


 わたしの意見に、彼は言うのを迷ったのか少し間を開けて答えた。


 無駄に、ってどういうこと? ああ、銃は弾が消耗品なんだっけ。撃てば撃っただけ、お金がかかるのか。どのくらいの値段か分からないけど、それは嫌だってこと?


「だったら、一人でやるからいいよ!」


「……落ち着いて。倒すときは一気にやった方がいい。下手にダメージ与えて暴れられても厄介だ。

 攻撃しなくても足止めって意味じゃ問題はないはずさ、トライホーンはすぐに逃げたりはしないだろうし、周りに他のプレイヤーもいないし」


 彼の答えた理由はもっともらしかった。HPが一定以下になると強力な攻撃を繰り出してくる、とか攻撃のパターンとしてありそうだ。それでセイ達が来る前に全滅とか、来た時に特殊攻撃が来るとか、そんなことになったら困る。


 トライホーンは、といえば、カンの言う通り今のところ逃げるでも攻撃するでもなく、様子を窺っている感じだ。周りに人もいないし、さっきのスイフトフェザーもいなくなってる。確かに無理に攻撃しなくても、セイ達が来るのを待てそうだ。ジョーも無理するなって言ってたし、その方がいいのかな。


 ううん……なんかちょっと言い訳がましい気もするけど、少し距離を取って様子を見つつ、どうしても逃げられそうになったりした場合は攻撃することにしよう。そう思って、わたしは待った。


 いつ攻撃されるかも分からないって状態で、いつでも動けるように、って構えながらずっと相手の様子を見続けるのは思ったより疲れる。きっと大して時間は経ってないと思うんだけど、長く感じる。それでいっそ攻撃された方がいいんじゃないか、なんて訳の分からない考えが浮かび始めたその時、


「とっととくたばれっ!!!」


 勇ましい叫び声とともにトライホーンの脇腹から鮮血が舞った。


「リン、遅くなってゴメン! ウチら来たからもう大丈夫だしっ! まかせて!」


 横から大きくジャンプしてトライホーンを斬りつけたのち、綺麗に着地したセイが力強く言った。続けて、前脚からも血しぶきが上がる。


「足止めご苦労様! 後は一気に片付けようぜ! リンも攻撃頼む!」


 こちらはジョーだ。二人に言われて、わたしも彼らのいる方に向かって走る。その勢いで思いっきりジャンプして、脇腹に斬りかかる。ざくりと鱗が裂け、血が流れた。


 もう一度、と思ったとき、トライホーンの尻尾が振り上げられるのが見えた。


「危ない! 避けて!!」


 すぐ、前のパーティーを全滅させた尻尾による攻撃が来るに違いないと思い、わたしは慌てて後ろに大きく飛びながら叫ぶ。


 叫び終わるが早いか、トライホーンの長い尾がそのすぐ横の空間を薙いだ。恐ろしい一撃……だけどあれ? 心なしかさっきより鈍い気がする。攻撃が効いているのか、それとも気のせいか。ジョーは大きくバックステップを踏んで躱したけど、ちょうどその時攻撃しようとしていたセイはまともにふっとばされていた。


「いっったぁああ……! よくもやったなぁ! ぶっ殺す!」


 立ち上がり素早く傷薬を使うと、再び大剣を握りしめ、宙を舞いトライホーンに斬りかかるセイ。再び血しぶきが上がる。


「セイ、まず足狙えって! それで転ばせて、急所を突く。大物倒すときの基本だろ!! 忘れんなよ!!!」


 半ば怒った様子で、ジョーがセイに叫んだ。あ、そういうものなんだ。それでジョーはさっきからハルバードでザクザク前脚を刺してたんだ。それなら、とわたしも一番近くの後脚を斬りつける。


「うぅ……そういうの、じみってかつまらんくね? ジョーとリンで攻撃してるし、いいじゃん!

 ……あーはいはい、わかってますよー」


 文句を言いつつも、ジョーの怒りのこもった視線に押され、セイは仕方なく大剣を横に薙いで、わたしと同じ後脚を切り付けた。トライホーンドラゴンは攻撃に咆哮を上げながらも、再び攻撃しようと、尻尾を振り上げようとする。あれ? さっきよりさらに動作がゆっくりだ。攻撃が効いてるっぽい! これなら……振り下ろされないようにできるんじゃない?


 わたしはトライホーンの尻尾を切り落とすべく、斧を振り上げ、助走をつけてジャンプする。そして、斧をまっすぐ、振り上げられたしっぽに向かって振り下ろす。どさりと音を立て、尻尾が地面に落ち、血が吹き上がる。やった! 切れた!! もしかして斧、意外と強い? レンタル屋のお姉さんのアドバイスに感謝しなくっちゃ。


「おー、リン、やるな!!」


 すかさずジョーが再び思いっきり前脚を突き刺し、後ろへ大きく飛ぶ。


「リン、やるじゃん!!」


 ほぼ同時にセイも後ろ脚を深く斬りつける。

尻尾を切り落とされ、二本の脚を傷つけられてバランスを崩したトライホーンの巨体がわたし達のいるほうに向かって倒れてくる。


「うぇえええっ!?」


 倒れるのは予想済みだったのか、余裕で避けるジョーを横目に、セイとわたしはぎりぎりで倒れてくる巨体を躱した。……と思ったけど、着地に失敗して、擦り傷ができていた。あと、トライホーンになぎ倒された背の高い草がバシッと顔に当たって痛かった。まあ、でも大したことはない。


「いいかげん、死ねぇっ!!!」


 セイは叫びながら、倒れたトライホーンに大剣を打ち下ろし、首を落とす。血が辺りに吹き上げ、あっという間に大きな血だまりができた。


「やったぁー!!!」


 返り血も気にすることなく、笑顔で飛び跳ねながらよろこぶセイ。あのグロさはあまり感じてないみたい。わたしが気にしすぎなのかなあ。


「ったく、もうちょっと効率的に狩れよな、セイ」


「えー、いいじゃん、倒したんだしぃ。

 あー、たのしかったぁ! っても、ちょっと動き鈍かったよねー。前の奴らが攻撃してたってのがなー。今度はイチから倒してやるし!」


「お前なぁ……。楽に稼げたんだし、ラッキーだろ」


 満足そうなセイにジョーはあきれ顔だ。それにしてもセイはものすごく攻撃的で、とにかく倒したいって感じだ。それに対してジョーは効率重視って感じかな。


「リン、いい攻撃だったぜ! それと、足止めありがとな! 結構やるじゃん!!」


 ポンポン、とわたしの肩を叩きながら、ジョーが満面の笑みで言った。


「あ……いや、こっちこそありがとう。ピンチだったから来てくれなかったらどうしようかと思った。

 でもとにかく、役に立てたみたいでよかった」


 わたしも悪い気はしなくて、つい頬が緩む。なんかそうやって認めてもらえるとうれしい。次も頑張ろうって思える。


「ま、でもホントよく頑張ってくれたよ。次の仕事もよろしくな!

 ……あ、ところで、カンは?」


「さあ……?」


 ジョーの質問に、わたしは首を傾げた。そういえばどこに行ったんだろう? ジョー達が来てから、一切見てない……っていうか、すっかり忘れてた。と思っていたら、後ろからふいに声がした。


「……ああ、ジョー。別途料金が2ホーラ必要だけど運送屋は手配していいかい? 角3本に……あれ、肉もか。珍しいな。とにかくそうなると運ぶのは大変だから」


 噂をすればなんとやら、いきなり現れてびっくりだ。


 けどその話だと、入手した素材を運ぶのにも課金されるってこと? 普通アイテムボックスという、何でもたくさん持ち運べちゃう便利システムがあるはずなのに。このアイテム用ヒップバッグはホントにただのバッグなんだ……。


「いいぜ」


 わりとどうでも良さそうにジョーが答えた。


「なら、手配させてもらうよ。回収はこっちでしておくから、先に戻っててくれて構わない」


「OK、それじゃ協会前集合で。じゃ、先に戻ろうぜ」


 ジョーに促され、わたしも一緒に戻ろうとしたら、セイにトン、と肩を叩いて呼び止められた。


「ねぇ、リン。カン、手伝ってあげなよ、ね?」


「え? あ……うん、わかった。そうだよね」


 何か含みのある笑顔のセイに気圧されて、わたしは思わずはいと返事してしまい、セイとジョーを見送ることになった。


 けど落ち着いて考えると、手伝えることなんてなかった。【免許(ライセンス)】なしで解体するとペナルティって探検家協会の人が言ってたし。


 ……あ。ひょっとしてわたし、邪魔だったのかな? まあ、二人プラス一人はちょっと気まずい。でも、あまり話すの好きじゃなさそうな人と二人っていうのもかなり気まずい。


 その気まずい相手の方をちらりと見ると、大振りのギザギザの刃の短刀で角を切り取っていた。結構あっさり切れるみたいだ。……って、あるじゃん、武器。あれで攻撃に参加してくれればよかったんじゃないの?


 などとまたもやもやしながら、ふとそこから視線を外し遠くを見た時、嫌なものが目に入った。素早く動く、緑色の集団。


 さっき逃げて行ったはずのスイフトフェザーが再び寄ってきていた。

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