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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第十章: ゆるゆる休息時間!

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010_05_二人の間のすれ違い#3

「フン、精強な黒雲の事なんてどうでも良いのよ! で、黎明の翼、こんなところに一体何の用かしら!?」


  マドカさんとツバサの間に何もなかった――っていうか、システムのバグが引き起こした完全な誤解だった――ことに喜んでいるはずなのに、そんなことは絶対に認めずミライはプンスカしていた。というか、むしろ喜んでいることを隠すために、余計にキツくなってるのかも。ホント素直じゃないなあ。


「黒雲に、君と料理を作ったから食べに来ないかと誘われたのだ。丁度腹も減っていたから有難く頂こうと思ったのだが……」


 ツバサはすっかり困った様子で、ミライとわたしをかわるがわる見た。こんな顔、するんだなあ。戦ってる時の恐ろしく強い姿からは想像できないな。ツバサには悪いけどちょっと微笑ましく思っちゃった。


「黒雲に食事に誘われた? 私は誘っていないわ。帝国の高貴な御方に差し上げるような食事なんてここには無いもの!」


 ツン、と冷たく言うと彼女は大股にかまどの方に歩いていき、さっきローラーで潰して作った白いペーストを薄く丸く延ばすと、かまどの上に乗せられた溶岩焼きプレートのような黒い板にべしゃっと張り付けた。


「黒雲、先に食卓に着いていなさい。直ぐに焼きあがるから」


 ミライはさっきプレートに乗せたペーストをひっくり返してさっと焼き、それをお皿に取り、次の一枚を同じようにプレートに乗せた。うーん、完全にまた元のツンツンモードに戻っちゃったな。どうしよう。ツバサのために作ってたはずなのに。これじゃ意味ないよ。


「でもミライ、ツバサも食べたいって言ってるし、だいたい元々は彼――」


「あら、私が作ったのは……作ったのは……そう、貴女達に振舞うためよ!

 そうよ……日頃世話になっているのもあるし、ええと……どうやら貴女達は――ここの周りにいる黒雲も――、私達の生活全般に興味があるみたいだし。ほ……ほら、丁度いいでしょう?」


 ミライはせっせと少し厚手のクレープ――それよりトルティーヤの方が近いかな――を焼きながら何だかちょっと、いやかなり慌てた様子で言い訳がましく答え、それをごまかすかのようにぎこちない笑顔を浮かべた。それはむしろツバサのために作った、って言ってるようなものだよ。けど、でも絶対認めないよね。困ったなあ。


「でもミライさん、悪いけど俺達は食べられないんだ。破壊神の尖兵たる我々に、現世の食事は必要ないから。だから将軍だけなんだ、食べられるのは」


 珍しくカンが助けてくれた。もっともらしい理由だけど、それだとわたし達が食べれなくなっちゃうじゃん! けど、仕方ない。ミライとツバサを仲直りさせる方が大事だ。


「そう……そうなんだよ。残すの、もったいないし、ね?」


 わたしはちょっぴりぎこちない笑顔で小首をかしげ、ミライの顔を覗きこむ。わたしの食欲なんかより、二人の今後の方がずっと大事に決まってるんだから、と再度自分に言い聞かせる。ミライ、これで折れてくれるといいな。


「そ……そう。フン、なら仕方ないわね。折角貴女達に取ってきてもらった食料を無駄にするわけにはいかないわ。

 舌の肥えた方のお口には合わないでしょうけど、用意しますので少々お待ちを、将軍閣下」


 ミライはツンと横を向くと、食卓――ちゃぶ台のような低いもので、床に座るスタイルだ――の方を指した。ツバサは苦笑いをしつつ座った。よし、何とか二人で食事するようにはできた。できたけど……。


「カン、ありがとう。おかげで二人で食べてくれるようにはなったみたい。けどさ……ホントはわたしも異世界料理食べたかったな。もうちょっと、他の方法なかったの?」


 感謝と、ほんのちょっと残念な気持ちを込めて彼に言うと、彼は思いっきり眉間にしわを寄せた。何を言ってるんだ、って顔だ。


「え? さっき言ったじゃないか、食べられないって。大体この体のエネルギー源は食物じゃないから食べる必要はない。だから消化、なんて機能も無くて食べられない。五感の内、味覚と嗅覚は実装されていないはず」


 そう言われてみれば、味はともかく匂いって全く分からなかった。今まで全然意識してなかったけど、さっき香辛料の匂いが分からなかったのはそのせいか!


「でも、何で? せっかくのフルダイブなんだから、全部実現すればいいのに」


「さっきも言ったように食事をとる必要はないし、毒なんかの影響も受けない。だから味も匂いも感じなくても支障はあまりないからじゃないか? 寧ろ匂いなんてあったら支障をきたしそうだ。血やら腐臭やら何やら」


 彼は淡々とそんな答えを返した。うーん……確かにこの世界にはそんな臭いがあふれてそうだ。そんなの嗅ぎたくない。でもミライの料理の味は知りたかったな。


 そんなやりとりをしている間に、ミライが食事の準備を終えたようだった。彼女はスイフトフェザーと豆の煮込み料理と、トルティーヤのような薄焼きのパンを食卓に運ぶと、ツバサの向かいに座った。


 食べないけれど、わたし達も一緒に食卓を囲むことにした。聞きたいこともあるしね。


「へー、そうやって食べるんだ。美味しそう。で、どう? どんな味? 美味しい?」


 トルティーヤもどきに煮込み料理を乗せ、くるりと巻いて黙々と食べる二人を見ながらわたしは明るく尋ねた。せっかく久しぶりに囲んだ食卓に会話がないのもな、と思ったのもあるけど、ホントは自分が気になったから、って方が大きい。せめて味の感想くらい聞きたいよね。


「ああ、旨いぞ。それに懐かしい味だ。もう一度食べられるとは思わなかった。

 ……帝国に併合されて以来、私の生活は全て帝国の様式になったからな」


 ツバサが薄く笑った。ミライは何も言わなかった。


「帝国に併合……。ねえ、良かったら、一体、何があったのか話してくれないかな? 思い出したくないことかも、しれないけど」


 聞いていいのか迷ったけれど、わたしは意を決して尋ねた。聞いておかないと先に進めないと思うんだ。


 ツバサはちらりと何も言わないミライを見ると、ゆっくりと息を吐き、そしてわたしに視線を向けた。彼の金色の瞳に、少しだけ翳りが見えた気がした。

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