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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第二章: いきなり大物退治!
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002_01_探検仲間に不安あり

 ベッドから跳ね起きて部屋の中を見渡すと、そこは前回ログアウトした時の宿屋の一室だった。どうもずっと寝てた、って設定みたい。


 装備を整えて勝利の門に集合だっけ。急がなきゃ。宿屋のおかみさんの気を付けて行ってらっしゃい、という声を背に、宿屋を飛び出す。



「いらっしゃいませ。……あ、はい、初心者用のレンタルクーポンのご利用ですね? ではこちらへどうぞ」


 NPCらしきエプロンを付けた可愛らしい女性にクーポンを出すと、彼女は店の奥へ案内してくれた。そこで前と同じ防具を受け取り、装備する。


「次は武器ですが、今日はどのようなお仕事をされる予定ですか?」


「トライホーンドラゴン退治です」


「でしたら、こちらの戦斧はいかがでしょうか?」


 お姉さんが勧めてくれたのは、長い柄のついた、大きな両刃の斧だった。えー……これ力だけが自慢のやられ役的最初の敵幹部か、登場マップ以外一度も出撃させてもらえない味方が持ってる奴じゃない? やだなー。


「えっと、剣とかがいいんですけど」


 どうせならかっこいい王道系の武器がいいな、と思って答えると、お姉さんは少し困った顔をした。


「剣ですと軽すぎて、トライホーンドラゴンに対してダメージを与えられませんよ。大型の生物には、基本的に大型の武器でないといけません。

 大剣なら良いのですが、レンタル品ではご用意がなくて」


 彼女は申し訳なさそうに説明してくれた。そっか……でもダメージ与えられない武器を持っていっても迷惑なだけか。それにあんまり迷ってる時間もない。仕事に適したものとして進めてくれたんだから、きっと使いやすいんだろう。


「じゃあ、それでお願いします」


 と言うと、お姉さんはほっとした顔で戦斧と大きな布を渡してくれた。


「えっと、この布は何ですか?」


「血糊を拭くものです。サービスでお付けしております。ちゃんと手入れしないと切れ味が落ちますので気を付けて下さい」


 ええ? なにそれ。そのリアルさ、いる?


「後、注意事項としまして、武器を破損したりなくしたりした場合は弁償して頂きますのでお気をつけ下さい」


 布に戸惑うわたしに、お姉さんは更にキビシイ注意事項を告げた。ことあるごとにお金をむしりとろうとするシステムだ。でも負けるもんか。


 ともかく装備も手に入れたし、集合場所に急ごう。まだ少し時間はあるけど、最初から遅刻したりしたら印象悪くなるよね。わたしは斧を担いで、勝利の門へと走った。


 門の近くにはいくつかのグループがいた。待ち合わせスポットらしくて人が多い。探してみたけどセイはまだいないみたいだ。


 と思ってたらジョーっぽい人を見つけた。ハルバードを持ち、黒い金属製のブレストアーマーとガントレット、グリーブを着けた騎士っぽい感じのイケメン。カフェ・フォルトゥナで見た顔だ。その隣に腕組みをして立っている村人はセイが言ってたジョーの友達かな? なんて見てたらイケメンと目が合った。こっちに向かって手を振っている。


「リンだよね? カフェ・フォルトゥナではどうも。ジョーです。無事合流できてよかった。装備も大型向けでバッチリじゃん。今日はよろしく」


「こちらこそよろしく。トライホーンドラゴン退治って言ったらお店の人にこの装備勧められて、言う通りにしたんだけど、これで大丈夫ならよかった。

 ところで、セイはまだ?」


「ああ。あいつ、ちょっと時間にルーズなトコあるからなー」


 ジョーはため息をついた。セイの遅刻癖は彼氏に対してもらしい。困ったもんだ。


「あ、そうそう、今回はこの中で一番経験があるオレがパーティリーダーってことでよろしく。オレの指示に従って、な?

 はは、そんなに細かいこと言う気はねーし安心しなって。あくまで、危険を避けるために最低限必要なことだけだから」


 そういいながらにこりと微笑み、ガントレットを着けた右手を差し出すジョー。ちゃんと気遣ってくれるなんて、見た目だけじゃなくて性格もイケメンか。


「こちらこそ、よろしく」


 と握手したところに、聞き覚えのある声が響いた。


「えー、みんなもう来てんじゃん! はっやー」


 セイだ。


「お前が遅ぇんだよ! ダッシュ!!」


「えーーー、ひっどー!!」


 ジョーに叱られて、セイはそう叫びながら、細い体に似つかわしくない大剣を背負ってしぶしぶ走ってくる。


「こんにちはー。セイでーす。あ、リンももう来てたんだ。迷子になってるかと思ったのにぃ。

 で、えーっと、そっちの地味な村人がジョーの友達? あれぇ? ってか【解体】持ってるってヒトっしょ? まぢ? 初心者???」


 最初にログインしたときの服装のままの、ジョーの隣の地味な村人を見てセイが訝しんだ。わたしのような革鎧すらないけど大丈夫なのかな?


「……カンです。よろしく。初心者ってわけではないけど、防具買ってなくて」


 と、カンと名乗った村人はセイとは対照的にそっけなく答えた。背はジョーより少し高く、割とがっちりしてて、短い黒髪。ぱっと見スポーツマンぽいように見える……かと思ったけどよく見るとそんな爽やかさはなくて、死んだ魚のような目をしている。この感じ、うちのダメ兄貴にちょっと似てる。引きこもってたりする人だろうか? あ、でも引き込もってたらそもそもこのゲームできないか。


「ってか、武器は銃? そんなハズレ武器買うから防具買えんくなるんじゃね?」


 セイはカンが背負っている猟銃っぽいものを見ながら、ちょっと馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「そうかもね」


 そんなセイの態度をカンは特に気にした様子もなく、曖昧にうなずいただけだった。その反応にセイはつまらなそうだ。


「ま、武器屋で攻撃力とか命中率とか、その手のデータ表示されねえからな。強そうだと思った武器がコスト高くて威力が低いハズレってこともあんだよな。

 オレもそこまで情報持ってるわけじゃねえけど、次買うなら相談には乗るぜ」


 ポンポン、とカンの肩を叩き、慰めるようにジョーが言った。銃って強そうなイメージだけど、二人の話だと違うみたい。ハズレに気をつけなきゃ。武器を買うときは、ちゃんと詳しい人に相談しよう。


「有難う。機会があれば宜しく。

 ジョーの言う通り、この銃はさして威力は無いから、トライホーンは相手に出来ないかな。とは言え、今回俺は解体係ってことだし、別段問題はないだろ?」


 彼は淡々と言って、ジョーの方を見た。


「ま、問題ねーよ。そこは期待してねーし。

 しっかしやる気ねぇのは相変わらずなのな、お前。やらねぇってことだけは全力でアピールすんの、どういうつもりなんだよ……」


 あきれた様子でジョーがため息をついた。ジョーは問題ないって言ったけど、倒せないって分かってるなら、倒せる武器をレンタルすればいいのに。なんでそんなやる気ないんだろう。大丈夫かなあ?


「ま、大体自己紹介も済んだし早く行こうぜ。今日は前に言った通り、トライホーンドラゴン退治と角の回収だ。

 ってことで、各自の契約金と報酬は表示されてる通りだから、問題なかったらOK押して」


 もやもやするわたしをよそに、ジョーはそう提案するとこちらをぐるりと見まわした。それに慌てて画面を見ると、契約金1ホーラ、報酬10ホーラの表示が出ていた。ちょっと色々、わからない。と困っていたらジョーが察してくれたみたいで、


「……ああ、仕事受けるときは報酬の10%の契約金がいってさ、仕事に失敗したら没収。で、そこに表示されているのがリンの分つーこと」


 と、初心者のために説明してくれた。いい人だ。金額は多いのか少ないのかわからないけど、受けるしかないよね。


 ということで、OKボタンを押す。誰も異論はなかったらしくて、仕事を受注しました、とのメッセージがすぐに表示された。


「OK。じゃあ今から移動して、出現エリアに行ったら各自トライホーンドラゴンを探して、見つけたら連絡。連絡があったらすぐに駆け付けること。見つけた奴は無理せず、逃がさないようにだけ頼むぜ!」


 了解、と皆口々に言い勝利の門から出発する。効率よく見つけるためにバラバラに探すことになったから、しばらく単独行動だ。ちょっと不安。見つけたらとにかく他の人を呼んで、無理しないようにするってことでいいんだよね。


 よし、頑張ろうっと。


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