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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第一章: いまから探検開始!
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001_06_専用カフェが素敵すぎ

「ここ、ここ。カフェ・フォルトゥナ! プレイヤー専用のカフェだよぉ」


 珍しくセイが出る――出席を取るからなんだけど――英語の授業の後、彼女に連れて来られたのは、つい最近オープンした複合商業施設の最上階にあるカフェだった。思った通り、セイが行こうと言ったカフェが、運営の人が言っていたゲームの話をする専用の場所だった。でも、そんな感じじゃなくて普通にめちゃくちゃおしゃれなカフェだ。


 入り口付近にカフェカウンターがあり、お店の人がエスプレッソを淹れたりラテアートを頑張っていたりする。奥の方はオープンキッチンになっていて、シェフがパスタとソースをフライパンで揺すっている。


 カウンターに行くと、イタリアンなメニューが並んでいた。今週はイタリアフェアらしい。


「何にする? えっとぉ、ウチはランチセットでカルボナーラとぉ、カフェラテ!」


 セイが笑顔で注文した。800円のランチセットはメインとドリンクを選べるみたい。


「じゃあ、ランプ……レドット? のパニーノと、カプチーノお願いします」


 メニューにあった中で一番名前がカッコいいので選んでみた。まあパニーノなんだろうけど、中に何がはさまれているかはわからない。でも特に嫌いなものとかないし、多分大丈夫。


「出来上がりましたらお席にお持ちしますので、お好きなお席でしばらくお待ち下さい」


 せっかくの見晴らしを堪能しようと、わたしたちは光が差し込む大きなガラス窓に近い席を取った。この雰囲気、デートとかなら凄くいいかも。ここにいる大半の人は男性のグループだけど。


「てかどうよ、FX? ……あ、Fortuna(フォルトゥナ) eXplorer(エクスプローラ)の公式略称だし」


 何で投資の話? と怪訝な顔を向けたわたしに、セイが付け足してくれた。


「何か良くも悪くもリアルだよね。風景が綺麗なのはいいけど、魔物退治とかはリアル過ぎてむしろグロ注意だし、強くなる仕組みも現実的すぎて辛いなあ。だからちょっと、実は異世界転移しちゃってるとかかと思った。でもちゃんと無事に戻れたし、違うけど」


 冗談ぽく笑いながらセイに答えると、セイは足をばたつかせ、お腹を抱えてひとしきり大笑いした。


「ウケる! 転移とかそんなんありえんし! ちゃんとカンタンにもどってこれるし、それにケガしたって、腕なくなったって傷薬でピピっとなおるし。死んだって別に永遠にゲームから出られんとかないし!」


 いや、わたしもそんな事は無いって分かってるけどさ……。軽い冗談なのに。でもセイは一瞬でもそう妄想しなかったのかなあ。みんなちょっとくらい頭をよぎるものかな、と思ったんだけど。


「そういえば、次のクエストの内容って?」


 何だか居心地が悪かったので、わたしは話題を変えた。クエストの内容、昨日時間が無くて聞けなかったから、聞いとかないと。


「トライホーンドラゴン退治だぜぃ! 最近狩ってよくなった魔物だから、ウチらもまだ倒したことないけど、報酬かなりいいし!!

 同じランクの魔物ならジョーと二人で狩ったことあるから、多分イケるっしょ!!」


 倒したことない魔物に初心者のわたしを連れていって大丈夫なのか、と思ったけど、セイは自信たっぷりだった。とは言っても、セイ達についてくだけなんてイヤだし、わたしも頑張らなきゃ。


「ウチらギルド設立目指してんだー。ガチで条件きびしーギルドマスター(ギルマス)免許(ライセンス)はジョーがクリアしたから、あと設立資金だけなんだよね。

 だからガンガン強い魔物狩って稼がんと!!」


 セイはキラキラと目を輝かせて言った。ジョー、っていうのはセイの彼氏の名前で、彼女との会話では一番よく出てくる。会ったことはないけど、セイと同じサークルの同級生で、近くの有名私大に通ってるらしい。けど、そんなキビシイ条件クリアしてるなんて、セイの彼氏はすごいみたい。セイがはりきってるのは、彼のためなんだろうな。



「お待たせしました、カルボナーラセットと、ランプレドットのパニーノセットです」


 そんな話をしているうちに、頼んだランチが運ばれてきた。


「お、来た来た! ウマそー!!」


 セイのカルボナーラはなめらかなソースに厚切りのベーコン、そこに粗挽きの黒コショウが降られているごくオーソドックスな感じで、とてもおいしそうだ。


「いただきまーす!」


 で、わたしのは……ロゴ入りの包み紙を開くと、ごつごつした丸いパンに、煮込まれているっぽい沢山の謎肉片と、謎の緑色のソースが挟まれているハンバーガーくらいの大きさの謎サンドが現れた。なんだろう、肉……見た目的に内臓系かなあ? ぜんぜん味の想像がつかない。


「うっわー、なにそれ?」


 スプーンとフォークでソースが濃厚に絡むパスタを巻き取りながら、わたしの料理に眉をひそめてセイが尋ねてきた。まあ、確かにそのリアクションも仕方ない見た目だけど。


「ランプ……何だっけ? のパニーノ」


 もう名前が思い出せないけど、とりあえず食べてみよう。セイがちょっと気持ち悪いものを見るような目で見ているのは気にせず、包み紙を持って思いっきりかぶりつく。


 小麦の風味豊かなプレーンなパンは、中身のモツの旨味が溶け込んだ煮汁を吸い込んで外はカリッと、中はしっとりしていて、柔らかくとろけるように煮込まれたモツといい感じの一体感だ。そしてモツはこってりしているんだけど、緑色のソースの爽やかな風味と、あとちょっぴり入っていたらしい唐辛子の辛みが全体を引き締めていて、意外にあっさりでいくらでも食べられる感じ。


「やばい、これ、見た目がちょっと微妙なのと、中身がたっぷり過ぎてちょっと食べづらいけどめっちゃおいしい!」


 と、答えつつ口元に垂れてきた煮汁を拭う。ちょっともったいないなあ。


「えー、そうなの? それ、具は何? え、モツ系? ウチ好きくないし。

 ってゆーか、よくそーゆーナゾのものたのむ気になるよねー」


 セイは残念ながらネガティブな反応だった。おいしいのに。まあ、内臓系はダメな人はだめだものね。


「ええ? でもさ、なんか変な名前のメニューとかって気になるじゃん! 食べたことないもの、食べてみたいっていうか。知らないもの、気になるっていうか。好奇心、かな」


「えー。ハズレ引きたくなくね? フツーにおいしーの選べばよくね?」


 セイは理解できない、と首を振ると、普通に当たりなカルボナーラを口に運んだ。


 だけど、おしゃれなだけじゃなくて、料理のクオリティもすごく高い! 恐るべし、カフェ・フォルトゥナ。しばらくゲームの話は中断して、わたし達はおいしい食事に集中する。



「ところで、土曜日は誰が来るの?」


 食べ終えて、カプチーノを片手にセイに尋ねる。彼女は大体いつも彼氏と一緒にいるから、きっと土曜日もそうじゃないかな。でもセイと、その彼氏と、わたし――ベテランのカップルに初心者一人の三人――だったら色々気まずい。


「ジョーと、後もう一人、ジョーの高校んときの友達が来るらしーよ。なんかホントたまたま、ジョーがセンターで会ったんだってさー。ウチは会ったことないケド、いい人だといいね!

 そーだ、いい人だったら乗り換えちゃえば? なんか彼氏と上手くいってないとかゆってなかったっけ? 最近連絡あんまり取れない、とか。浮気されてる、とか」


 スマホに目を落として、たぶん誰か――ジョーかもしれない――にメッセージを打ちながら、セイがさらっと言った。確かに前に、そんな悩みをセイに聞いてもらったけど。


「確かに最近あんまり連絡できてないけど、浮気かどうかはわかんないし。乗り換えよう、なんて思ってないし。

 そうだ、行雄も誘えばいいじゃん! わたしのことはセイが誘ってくれたんだよね? 説明には無かったけど、誘うのに条件とかあるの?」


 行雄――ちょっと疎遠になってるわたしの彼氏――はゲーム好きだから、誘ったら喜ぶんじゃないかとひらめいた。一緒にプレイできたら距離もまた近づけられると思うんだ。


「チュートリアル別で、クエストとかで100ホーラ以上稼いだら誘えるようになるよ。

 ってかウチらギルドのメンバー募集してっから、新しい人は大歓迎!

 ウチらと魔物退治してたらそんくらいすぐ稼げるし。リン、それでガンバったらいいんじゃね?」


「よし、それだ! 頑張るから、よろしくね!」


 チュートリアルだけで10ホーラだったわけだし、セイの言う通り、結構すぐいけるんじゃないかな。決意も新たに、色々ゲームのことを聞いているうちにすっかり時間がたってしまった。この後、夜はバイトもある事だし、そろそろ帰ると切り出そうとしたら、セイがふいに立ち上がって入り口の方に手を振った。


 見ると、白のパーカーの上にカーキのMA-1を重ね着して、黒いスキニーパンツに黒いワークブーツをはいた、長身で細身の爽やかなイケメンが立っていた。もしかして。


「あ、ジョー、こっちこっち!」


 やっぱりそうだ、噂のジョーさん。セイに呼ばれ、こっちにやってきた。


 やや長めのふわっとした茶髪、きりっとした細めの眉にぱっちりくっきりした目。わたしを含め殆どの女性が好みかどうかは別にしてもかっこいいって言うと思う。


「よ、セイ。……あ、その子?」


 わたしをちらりと見て、彼はセイに尋ねた。


「そそ。リンだよ。ウチの親友。土曜日いっしょにトライホーン狩りに行くから」


 セイが答えると、


「はじめまして。市橋(いちはし) 譲治(じょうじ)です。ジョーって呼んで。

 参加してくれてありがとね。土曜はよろしく。いきなり大物退治で悪いけど、オレらもサポートするからそんな心配しなくていーよ。一緒に頑張ろうぜ!」


 ジョーはにっこり微笑んだ。イケメンな上に凄くいい人そうだ。


「ええと、祖父江(そぶえ) (りん)です。こちらこそ誘ってくれてありがとう。始めたばっかりだし迷惑かけるかもだけど……頑張るからよろしくね」


 そんな彼にちょっと緊張しながら会釈する。ジョーも会釈すると、なんか高そうな、多分ブランドものの腕時計をちらりと見た。


「セイ、そろそろ……」


「あ、ごめーん、リン。というわけでウチら今からちょっとフォルトゥナ行ってくるから!

 えっと、土曜日は4人でトライホーンドラゴンを退治しに行くから、ソリドゥスの【勝利の門】前に、装備を整えて集合、だぜぃ! じゃーね!!

 リンも次、彼氏の勧誘に向けてガンバレ!!」


 さっと荷物をまとめ、セイは席を立つと、軽く手を振った。


「おっけー、じゃ、またね」


 楽しそうな二人の背中を見送る。わたしもあんな感じになれたらいいな。そのために次、頑張って稼がなくちゃ!


 ……と、その前にバイトだった。

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