006_02_地下帝国でもう一度
目を覚ますとVR装置のふた……は見えないな。ここ、どこだろう? 暗い洞窟のような場所だけど。
わたしが落ちた後に閉じてしまったのか、地面の裂け目は見えなかった。どうやって戻ったらいいんだろう?
「おーい、誰かー!! 助けてー!!!」
しばらく叫んでいたけれど、いっこうに誰も気づいてくれなかった。緊急帰還しようにもホーラがないから使えない。
……え? まさかセイの言ってた地下帝国に落とされた??
どうしよう。ええい、くよくよしていても仕方ない。探検用情報端末の懐中電灯アプリは使えるみたいだから、これで出口を探して探検してみよう。きっと、進んでいけばそのうち何かしら見つかるはず……だよね。そう信じてとにかく進む。
進んでいくと、何だかものすごく変な感じがしてきた。洞窟って感じじゃない。天井も高いし、壁だってツルツルしている。人工物って感じで、やっぱりセイが正しかったんじゃないか、なんて弱気になってしまう。
でも、なーんかどっかで見たような気がする光景、なんだよね……。
あ、そうだ。この雰囲気、ソリドゥス南の遺跡だ。とすると、ここも何かの遺跡? 工事現場の地下に実はあったとかなのかな? ひょっとするとこれ、工事してたら地下の遺跡が見つかりました、とかそういうイベントだったり?
じゃあもしかして、わたしが最初の発見者? だとしたら何かお宝とかあるかな? 見つけたら、借金から抜け出せるかな?
あ、遺跡って発見するだけでもいいんだっけ? だったら無事に戻ってここのこと報告すれば一気に借金返せちゃう??
そんな妄想に舞い上がって、小躍りしながら進んでいると、途中でわたしのものではない足音が混じっていることに気がついた。
誰か、いる……?
誰かが助けに来てくれたのか、それとも南の遺跡の時みたいにテラーフェザーとかなのか、別のなにかか……。敵か味方か分からないし怖いけど、とにかく近づいて、確かめてみよう。
足音を立てないようにゆっくりと、慎重に、忍び足ですすむ。もうひとつの足音はこっちに近づいて来ているようだったけど、不意に消えた。いなくなったのか、向こうも気づいたのか。どっちだろう?
もし敵だったら武器もないし大ピンチな訳だけど……。でもここでじっとしてても始まらない。もし足音が気のせいだったり、いなくなったりしてたらラッキーだし、そうじゃなかったらなんとかするしかない。とにかく今は進もう。
そう決めて、ライトを高く掲げて進む。角を曲がったところで、チラチラゆらめく炎が近づいてくるのが見えた。たいまつ、かなあ? でもそんなの持ってるってことは、魔物じゃなくて人ってことだよね。
よし、声を掛けてみよう。
「誰!? もしかして救助の人?」
声を掛けたけど返事はなかった。顔を見るには少し遠いので、わたしは思いきって近づく。向こうもそうすることにしたらしく、明かりまでの距離が徐々に縮まっていく。
「え……?」
姿が見える距離まで近づいたところで、驚きと困惑がわたしの口から思わず漏れた。明かりの主は救助の人なんかではなかった。敵意にあふれた、大きな紫の目がこちらを睨みつけている。ソリドゥス南の遺跡の遺跡で最後に見たのと同じ目だ。
だけど、ソリドゥス南の遺跡で見た時よりもずっとおどろおどろしい雰囲気で、まるでこの世を呪う悪霊のようだった。それでちょっと戸惑った。体はやつれ、白い肌は汚れや傷がつき、まとった白いワンピースもボロボロだ。伸びるに任せた白い髪には枝や落ち葉が絡み、腕を覆う羽根は汚れて潰れ、所々抜けている。
見間違いではないよね、とわたしは思わず目をこすった。彼女の口が動くのが見え、女性のような声が聞こえた。だけど全く聞き取れない。聞いたことのない言葉だった。
「ねえ、あなたは誰!? ソリドゥス南の遺跡にもいたよね!? 一体ここで何を?」
とにかく彼女に問いかける。すると彼女はギロリとこちらを睨みつけ、また何か言った。でもやっぱり、何を言っているか分からない。
とりあえずわたしの言葉に反応したっぽいんだけど、彼女がわたしの言葉を理解しているとは思えなかった。続けて彼女がやや苛立った様子で何か言ったけれど、やっぱりさっぱり分からない。
「いったい何なの!?」
困惑を振り払おうと大声で叫ぶ。すると、彼女は唇の端を歪め、わたしには取り合わずきゅっと素早く横に曲がった。見ると脇道があり、走る彼女の後ろ姿が遠ざかっていく。
そういえば、彼女に何となく雰囲気の似た、タイラントドラゴンを倒した男の言葉も聞き取れなかった。多分彼らは何か別の種族で、その言葉は聞き取れないとか、またそういうムダにリアルな設定って事なんじゃないかな? おお、冴えてるわたし! ナイス推理!
「待って!」
通じないと思いつつも呼び掛けながら、慌てて彼女の後を追う。たどり着いたのはそこそこ大きな部屋だった。部屋の中央に置かれた祭壇の向こう側に、紫の瞳に薄汚れた白い羽根の少女が立っていた。
「ちょっと――」
わたしを遮り少女は何か言うと、ゾッとするような冷たい笑みを浮かべた。そしてすうっと祭壇に吸い込まれていった。
「え? 消えた? どうなってるの!!」
わたしは祭壇に駆け寄り、辺りを見回す。ふと下を見たら、
「何、この穴……?」
彼女が立っていた場所にぽっかり開いた穴を見つけた。のぞきこむと、下に向かって遠ざかる彼女が見えた。飛び降りて追う? でももしかして落下ダメージで死んじゃうかなあ?
「ああ、良かった。居た居た」
迷っていたら、不意に後ろから男性の声がした。
驚いて振り返ると、青い羽根帽子の探検家協会の制服を着た男性が立っていた。青い羽根だけど、ギルド設立の時の人とは違った。でもどっかで見たような顔だった。っていうかめっちゃ美形。会ってたら忘れないと思うんだけど。
「地割れに飲まれて行方不明になった人がいるって聞いてさ。ログアウトにもなってなかったから探したよ。どうもバグみたいだから、僕が回収に来たってわけ。さ、帰――」
急に男の声も姿も消えた。というか、ソリドゥス南の遺跡の時と同じようにいきなり全ての感覚がふっと消えてしまった。
読んで下さっている方、いつも有難うございます。
話の転換点でもありますので、良かったら感想聞かせて頂けると嬉しいです。




