005_06_赤字補填はどうするの
「え? お金、払ったの!?」
イベントの後、セイと話そうとやって来たカフェで、わたしは思わず大きな声をあげてしまった。だって、ゲームオーバーで発生した赤字をポン、と支払うなんて、どんだけ金持ちなんだ、って話だ。もしかしたらわたしより少なかったのかもしれないけど。
「え? もしかしてバイト受けたの? まぢで?? ありえんし!」
驚きの声をあげたわたしに、セイが大きな目を丸くした。単純な驚きの後、若干呆れたような、非難するような視線が感じられたので、
「だって20万だよ? 払えないよそんなの。
しかも運営から紹介されたバイト、結構時給いいよ。1時間1ホーラって時給2000円だよ?
普通にバイトするのの2倍弱なんだから、バイトでそれだけ稼いで穴埋めするよりいいじゃん!」
と、自己弁護した。ゲームオーバーしたわたしに係員のお姉さんが冷たく告げたマイナス額は96ホーラ、イコール19万2千円、イコールバイト4か月分弱だった。一括で払え、なんて払えないことは無いけど辛いな、と思っていたら、運営がテストプレイのバイトを紹介してくれた。何か楽しそうだし、お金払わなくていいなら、と思って選んだんだけど。
セイは何だか馬鹿にしたようにふぅ、とため息をつき、
「もー、だめだなぁ。あれはバイトじゃなくてぇ、強制労働ってゆわれてるんだよぉ?」
ちっちっち、と指を振った。何だかおかしな単語が出てきたなあ。
「強制労働? でもバイト内容聞いた限りは――」
言いかけたわたしを、甘く幸せないい匂いが遮った。ウェイトレスさんがスイーツセットを二つ持ってやってきた。危ない、バイト内容は言っちゃだめって言われてたんだった。ナイスタイミング!
「ザッハトルテです」
ウェイトレスさんはセイの前にきめ細かいチョコレート色のスポンジの表面を、つややかな黒い光沢のチョコでコーティングしたシックなケーキを置いた。黒いケーキの脇には真っ白な生クリームがたっぷり添えられている。白と黒のコントラストがとってもキレイ。
「カイザーシュマーレンです」
名前がかっこいいから頼んだカイザーなんとかは、粉砂糖がたっぷりふりかけられた、一口大にちぎられた黄金色のパンケーキっぽいものだった。横に黄色いトロリとしたソースが添えられている。リンゴのソースっぽい。
ソースをつけて一口ほおばると、パンケーキの甘味とバターのコクに、リンゴソースの酸味が絶妙にマッチして幸せな気分が広がった。表面はカリッと、中はふんわりな食感もいい。そうだ、しっかり味わわなきゃ。借金で大変なのに、誘惑に負けてケーキセット頼んじゃったんだから。
「えっと、それで何だっけ? 強制労働ってどういうこと?」
「バイトしてたつもりが、そのうち地下帝国に送られて働かされて、レクリエーションとかゆってバクチさせられてさらに借金負わされるらしーよ。
強制労働から戻ってきた人はいないってウワサ」
セイがザッハトルテをフォークで切りながら言った。地下帝国ってなんなんだろう? それにバクチとか。突然違う世界の話になってる気がする。だけど、そんなことより気になるのは。
「誰から聞いたの、それ?」
大体バイトの内容は口外するなって言われているのに。おかしいじゃないか。戻ってきた人がいないなら、それこそ分からないはずなのに。
「えぇ? そういうウワサ? みんな知ってるって」
ザッハトルテを口に運びながら、セイがさも当然、というように答えた。
「いい加減だなぁ……」
「どーせウチはそんなんやらんからきょーみねーし。そんなもんじゃね?」
セイはわたしの抗議には取り合わず、しれっとそう答えた。
「んー、このザッハトルテ、なんか違くね? コーティングのチョコ、じゃりってするし。間に挟まってるのもチョコじゃなくてなんかすっぱいし。生クリームは甘くないし……。うー、外した。おカネないときだってゆーのに!
ってか、リン、時給がいいってゆっても全部返すまでにはかなり時間がいるっしょ? その間にギルドで仕事受ければそんなのよりもっと稼げんじゃん?
だからひとまず払ってゲームに戻って、それでガンガン稼いだほうがトクじゃね?」
眉根を寄せてひとしきり文句を言った後、彼女はわたしの方をじっと見た。
う……。まあ、それはわたしも考えたよ。でも仕事だって儲かるときは確かに儲かったけど、そうでないときも結構あったんだよね。いつも順調に儲かるとは限らない。
宿代はいらなくなったけど、割引が利くようになったとは言え傷薬は自腹だから、一個でも使うと赤字になっちゃう場合もあるし。
「確かに返しきるまでに百時間近く働かなきゃだから、毎日最大に入れても二か月近く掛かっちゃって大変だけど……」
言いながら、それってずいぶん長いな、と気が付いた。二か月近くいなかったら、わたしなんて、忘れられちゃうかも。
ってあれ? それはそれでまずくない? 帰ってきたら居場所がない、みたいな。
「リンも強制労働なんてしないで早く戻ってきてよ。これからタイラントの分取り戻して、どんどんギルド大きくするんだし。
それにタイラントドラゴン横から倒してった奴も捕まえて倒さんと! ってかあいつ、どこの誰よ!? まぢ許せんし!!」
セイはあの時の事を思い出して、怒り心頭という感じだった。確かにあの男の事も気になる。何か雰囲気が遺跡の少女に似てたし、シンさん達の様子からしても何かありそうだ。セイみたいに倒したい、なんて事はないけど、もう一度会ってみたい。
色々考えると、早く戻った方がよさそうだな。
「そうだね。なるべく早く戻れるように頑張る。みんなにおいてかれるのもやだし」
よし、とりあえず申し込んじゃった分の一回はアルバイトに行こう。で、それが終わったら覚悟を決めて残りのお金を払うことにしよっと。
頑張るぞ!
いつもお読み頂きありがとうございます。
これで本章は終わり、次からは借金返済に励む中で、まさかの再会です。楽しんで頂ければ幸いです。
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