005_01_金と名誉とタイラント#1
「よ、ジョー。どうも駆除はあまり進んでねぇらしいぜ。ったく、困ったもんだ」
イベントの集合場所にいたのはトゲトゲした鈍い金色の騎士っぽい全身鎧に、胸の部分にキマイラと剣をモチーフにした紋章が描かれた深緑のサーコートを重ね、波打つ刀身の大剣――フランベルジュっていうんだっけ――を手にした二十代半ばくらいの男性だった。トップをツンツンに立てたツーブロックの金髪で、目つきが悪く、ひげを生やしたガタイの良いザ・ワイルド系。全身に自信が漲ってる感じで強そうだ。
「でもさ、シン、考えようによっちゃいい事なんじゃん? 僕らにもまだ仕事があってさあ。みんなが倒しちゃってたら、つまんないじゃん!」
金に近い茶色のふわっとカールした髪をした、中性的なというか、女の子と見間違えるような線の細い美少年――そう見えるだけで、実年齢はゲームの規約から言って少なくともわたしと同い年以上のはずだけど――がクスクスと笑った。シン、て呼ばれたワイルド系に比べると軽装な金の部分鎧に、彼と同じ深緑のサーコートを重ねて着ている。この二人は同じギルドってことみたい。他にも同じ格好の人達が数人いた。
ジョーと知り合いっぽいけど、一体この人達は誰だろう?
「シンさん、タクさん、それで、ここまでの状況はどうなんですか?」
「詳細はこれからそこの【紅蓮の雄牛】に聞くところだ。おめーらが来んの待ってたんだよ。二回同じ話を聞くのも時間のムダだしな」
シンさんは面倒くさそうに言うと、近くに気まずそうに立っている赤いマントの集団を顎で示した。紅蓮の雄牛ってギルドの名前だよね。紅蓮とかちょっと……いやかなり中二感あるなあ。
「フェザー系が意外に多くて……。素早いし、すぐ逃げるしで中々駆除ができなくって……。ホント、すいません!」
申し訳なさそうに、というよりは怒られるのを恐れている様子で赤いマントの男が頭を下げ、そしてちらりと上目遣いに様子を窺う。シンさんは冷めた表情で、タクさんはにやにやと蔑むような笑みを浮かべてそれを見ている。
「まー仕方ねぇよなぁ。あいつら弱いが、倒すのは案外面倒だってのは皆承知してるさ。なんも対策してねぇなら倒すのはキツいわなぁ」
シンさんは唇の端を吊り上げ、ポンポン、と男の肩を叩いた。
「そ……そうなんですよ! あ、でもそれ以外は結構狩りました。後はフェザー系さえなんとかして貰えたら!」
怒られる、と思っていなかったのがそうではなく、自分の状況を理解してくれているような言葉をかけてくれた、と思ったのか、やや安心したように明るい顔でシンさんにすがる赤いマントの男。シンさんが軽く舌打ちしたのが聞こえたけれど、彼はそれを聞き逃したみたいだった。
シンさんは肩をすくめ、タクさんはクスクスと笑っている。余裕がないからなのか、当の男は気づいてないみたいだけど、これはきついなあ。思いっきり馬鹿にしてる感じ。
「結構狩れた、ねえ……。ああ、分かった。ま、後は俺らに任せとけって。じゃ、ご苦労さん。お前らもう帰っていいから」
シンさんは追い払うかのように、つまらなそうに手を振った。赤いマントの男達は、「ありがとうございました!」とか頭を下げて、去ろうとする。
「ちょ、待って。ねぇ、タイラントってもう出た? 誰か倒しちゃってんの?」
セイが彼らを引き留めて尋ねた。こんな修羅場な雰囲気の中、よく聞けるなあ。セイの強敵倒したい欲ってすごい。
「え? タイラントドラゴンですか? 僕らは見なかったっす。倒したって話も聞いてないっすね」
男は首を横に振った。
「まぢ? じゃこれからかもしれんってこと? これから行くエリアにいるかな? 楽しみー」
セイは嬉しそうだった。リカや他のメンバーも目を輝かせていたし、ジョーでさえちょっとワクワクしている感じだ。みんなやっぱり倒したいんだね。わたしも頑張らなきゃ。
「出たらいいよねえ。せっかく今、ここでなら何でも狩っていいってルールなんだもんねえ! どのくらい強いのかな? 楽しみだよね、シン」
「鱗とか貴重品っつー話だしな。つーかタク、遊ばねえできっちり仕事しろよ!」
同じく嬉しそうなタクさんを、シンさんがたしなめた。ここもセイとジョーみたいな感じっぽい。
シンさんは探検用情報端末を取り出し、画面を見ながら少し考えると、
「フェザー系か。確かに逃げられても厄介だからな。この先に川と崖がある。そこにやつらを上手く追い込んで、まとめて倒すぞ。
追い込むポイントはここだ。俺らはこっちから、お前らはこっちからフェザー共を徐々に包囲だ! 状況は逐次報告すること。いいな!」
空中にマップを表示させ、それをわたし達に見せながら指示した。おお、なんかかっこいい機能あるんだなあ。
「了解!」
元気よく答え、わたし達は一旦彼らと別れ、指示された方に向かう。
「ところで、シンさんとタクさんだっけ、強そうだったけど何者なの? ジョーの知り合いっぽいけど」
途中、気になっていたことをセイに聞いてみた。
「えー、リン、知らないのぉ? ソリドゥス金騎士団だよ!
シンとタクって金騎士団の団長と副団長。現・最強、つーしょーゴールデンコンビ!! 超有名だから!!!」
彼女はものすごく呆れた顔でわたしを見た。ジョーもちょっと困った顔をしている。
そっか、ソリドゥス金騎士団だから金の鎧を着てたのか。そういえばスターリング銀騎士団も銀の鎧だったし。けど最強、かあ。確かに特にシンさんとか強そうな感じだったもんな。
「あ、そんなのが来るってことはさ、やっぱこの時間にタイラント出るんじゃね!?」
セイはそうひらめいたみたいで、目を輝かせ嬉しそうにジョーの方を見た。
「わかんねーけど、騎士団だけ何か事前に情報掴んでるって可能性はあるよな。警戒しといた方がいいのは確かだ。
だけど今は、あいつらに追い付いて、魔物狩りをしっかりこなすことに集中。遅れを取るわけにはいかねーからな!」
ジョーが前を走る金騎士の背中をキッと睨みつけながら速度を上げた。いつか彼らを超えてトップを取ってやる、という意気込みが感じられた。
金騎士団は何だかキツそうな人達だし、ジョーもそれに触発されてなのかちょっとピリピリしてる気がする。でもわたしも頑張ってついていかなくっちゃ!
---
「向こう側から攻撃して、ポイントに追い込むぞ。倒せるなら倒して構わねえ。別方向に行きそうなら、リカ、矢で威嚇頼む!」
「オッケー!」
そうやってわたし達は魔物を倒しつつ、ポイントに追い込んでいく。作戦、上手くいってるみたいだ、と少し安心したところに、突如セイが声をあげた。
「あ、ヤバイ。あっち、何かいる! リン、あいつら倒しに行くよ!」
包囲の外側、川べりに灰色の二足歩行の中型ドラゴンを見つけたセイがわたしの手を引っ張り駆け出した。
「あ、ちょっと、セイ!? 勝手にそんな方に行って! ねえ、まずいんじゃないの!?」
「みんないるし、こっちは大丈夫っしょ! それよりあいつらだって。
ってか後ろから襲われたらヤバくね? 今のうちに倒しといた方がよくね!?」
抗議もむなしく、セイはぐいぐいわたしを引っ張っる。新しいドラゴンを倒したいだけなんじゃ、とちょっと思ったけど、後ろから襲われるってのは確かにリスクではある。っていうか、紅蓮の雄牛! フェザー系以外倒したんじゃなかったの? まったく、もう!
「じゃ、ジョー、後ヨロシク!」
聞こえなかったのかそれでいいと思ったのか、もう止められないと悟ったのか、ジョーは何も言わなかった。どうしよう、と思っていたらジョーと目が合った。彼は一緒に行け、というように彼女を顎で指す。無茶しないように、見張ってろってことかな。仕方ない。わたしは彼女の後を追った。
「うそ、まぢで!?」
生物図鑑でストーンドラゴン、と示された灰色のドラゴンの、小さな黒い角状の突起がびっしりついた頭に大剣を振り下ろして、セイが驚きの声を上げた。
え? どういうこと? ストーン……もしかしてとっても石頭?
セイの大剣でダメなんだし、頭は狙っちゃダメだ。わたしはドラゴンの横に回り込み、頭と同じ様な黒い突起の生えた首筋を狙い剣を振り下ろす。すっと赤い筋が走ったけれど、あんまりダメージは与えられていないみたい。そして傷つけられたことでなのか、ストーンドラゴンはわたしの方をギロリ、とその灰色の瞳でにらんできた。
「セイ、横から首狙って! それなら攻撃通った! けどわたしの剣だとダメージにならないみたいだから、お願い!」
わたしは盾を構えて攻撃にそなえつつ、セイにそう叫んだ。ストーンドラゴンが頭を下げわたしの方に頭突きしようと地面を蹴ったところに、
「死ねえ!!!」
セイが思いきり、大剣を叩きつけた。ざくりと大きく首筋を切り裂かれ、ストーンドラゴンは激しく血を吹き上げて倒れた。セイ、やっぱりすごいなあ。わたし、ほとんど活躍してない……。このサイズの魔物も倒せないなんて、剣は思ったより攻撃力不足だ。
「うーん、攻撃きかんかったときはビビったけど、それだけかなー。なんかあっさり倒せちゃったし。なんか期待ハズレってカンジぃ。
ってかウチが強すぎ、かなー!?」
彼女はストーンドラゴンの死骸を見下ろして得意気に大きな胸をそらせた。
「じゃあ、戻ろうよ。ちゃんと向こう、手伝わなきゃ……え?」
戻ろうと後ろを振り返って驚いた。スイフトフェザーとテラーフェザーがわたし達を囲んでいて、戻れなくなっていた。
いつもお読み頂きありがとうございます。
今後の改善のため、忌憚のない評価・感想等頂けますと幸いです。




