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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第一章: いまから探検開始!
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001_02_魔物退治が謎リアル

「ホーンドラゴン、森によくいるって書いてあるけど……あっち?」


 【探検用情報端末(エクスプローラ・ギア)】のクエストの案内には主に森に生息とあるので、わたしは遠くに見える鬱蒼とした森を指差した。


「うん。よし、行ってみようぜぃ!」


 大剣を担いで結構なスピードで走りだしたセイを慌てて追いかける。映像はリアルだけど、こんな動きができる辺り、やっぱりゲームなんだとふと思った。


 フィールドには他の探検家も結構いた。魔物を倒している人はいなくて――というか、魔物自体も見当たらなくて――、ほとんどの人は屈みこんで何かを探していた。セイが言ってた、採集クエストをやってるのかな。


 彼らは時折顔を上げて、チラチラとこちらを見てきた。気になるなー、と思ったら別にわたしを見てるわけじゃなかった。視線の先はセイだ。ただでさえかわいくて目立つのに、更にビスチェにミニスカート、なんてRPGコスプレで大剣担いでるんだから、そりゃあ見ちゃうよね。なんて納得しながら走るうちに、森にたどり着いた。


「この辺探せばいい、ってことだね! よおし! 頑張るぞ!!」


 森を走り回り、ホーンドラゴンを探す。木々の向こう側、やや離れたところに、さっき表示された画像と同じ頭に角のある、緑色の小さな――といっても大型犬くらいの大きさだけど――ドラゴンを見つけた。こいつだ! しかもラッキーなことに、こちらには気付いていない。


 さっき教わった通りにクロスボウに矢を番え、狙いを定め……たところで気づかれ、ドラゴンがパッと走りだす。わたしは慌ててトリガーを引く。ヒュッと風切音がして、矢はホーンドラゴンの後ろ側、高さは少し上を飛んでいった。


 うう、思いっきり外れた……。


 めげずに二射目を撃とうと弦を張る間に見えなくなってしまった。


「ってかリン、クロスボウ使うとかありえんし! 当たらんし、連射できんからハズレ武器っしょ」


 セイがケラケラと笑った。


「受付の人が勧めてくれたんだけど、ハズレなんだ。それなら教えといてほしかったなあ。でも練習の時はちゃんと的に当たったのに。動いてるとダメなのかな?

 っていうか、命中率とかどうなってるの? キャラクターメイキング無かったけど、ステータスは? スキルは?」


 ふと気になって、ついついセイを問い詰める。すると、


「このゲーム、そーゆーのないから」


 セイは冷めた目で首を振った。えっと……ステータスとかスキルとかはない、ってことは……素のわたしってこと? それなのに魔物を倒せ、っていうの? 何そのいらないリアリティ!


「まだ時間あるし、ガンバレ! 剣で直接攻撃のがいーよ!!」


 セイが軽い調子でそう言ってわたしの背中を叩いた。そうだ、ちゃんと魔物退治しとかないと、ゲーム続けられないかもしれないんだよね。せっかく憧れのVRMMORPGなんだから、絶対続けたい。



 先輩探検家(セイ)のアドバイスに従って近づいて剣で仕留めることにしよう。でもまずはホーンドラゴンを見つけなきゃ。よし、気持ちを切り替えていこう。


 今度こそ、絶対倒すぞ、と気合を入れなおし、木の根に引っかからないように気を付けつつドラゴン探して再び森を走り回る。するとしばらくして、大きな木の根元にいるのを見つけられた。


 こっそり近づいてざくっと奇襲しよう。ハズレ武器のクロスボウは一度置いて、わたしは木の影から影へ静かに移動し、ターゲットの後ろに回り込む。


 気合を入れて両手で剣を握る。そして一気に木の影から飛び出し、剣を振り上げ、ホーンドラゴンめがけて思いっきり振り下ろす。


 ざくり、と、剣がドラゴンの背を裂いた。けど鱗に阻まれたのか傷は浅い。もう一発、当てなくちゃ。私は急いで剣を引く。ドラゴンの傷口から真っ赤な血がどろりと流れた。


 両手に残る何か固いものを切ったという感触といい、血といい、物凄くリアルだ。こんなにリアルにする必要、あるかなぁ? 結構グロいし何だかクラクラする。


 集中力の切れた、その瞬間。


 傷を負ったドラゴンがその角をこちらに向け、突進してきた。わたしは慌てて横に飛ぶ。でもとっさのことでバランスが取れず、地面に転がった。ホーンドラゴンは少し離れたところで急ブレーキをかけていた。またこちらに向かってくるつもりかな。わたしは急いで起き上がろうと手をついたのだけれど。


「痛っ……!」


 よけたつもりだったけど角が掠ったみたいだ。見ると左腕が赤く染まっていて、軽く痺れるような感じがする。立ち上がって、剣を握りなおすけれど、さっきより剣が重く感じられる。もう一度振れるか、ちょっと自信がない。


「傷薬、もらったっしょ? すぐ使わんと攻撃力落ちてヤバイから!」


 セイのアドバイスに従い急いでバッグから傷薬を取り出し、蓋を開け輝く粉をばさっと――そんなつもりは無かったけど一気に全部出てきた――傷口に振り掛けると痺れが消えた。回復したってことかな? わたしのHPとか分からないから、何とも言えない。


 回復している隙にホーンドラゴンが体をこちらに向け、再び突進しようと足を踏み鳴らす。でもくらうわけにはいかない。早くとどめを刺さないと。でも、後どのくらいで倒せるんだろう? 敵のHPゲージとか、そういえば見当たらない。


 でもそんなこと気にしてちゃだめだ。攻撃してればそのうち倒せるはず。とにかく倒さないと。わたしはダッシュしてドラゴンの斜め後ろに回り込む。そしてすっかり元通りになった――先ほど赤く染まっていた部分もいつの間にか戻っていた――腕で剣を構え、さっき切ったところめがけてもう一度剣を突き立てる。


 断末魔の悲鳴と血しぶきをあげながら、ホーンドラゴンは崩れ落ちた。


 はぁ、はぁ……。息が荒くなり、鼓動が速くなっている気がする。でもやった! 何とか倒せた!


「おー! やるじゃん!! これで体験クエストクリアだね!」


 セイが笑顔で駆け寄ってきた。パン、と彼女とハイタッチする。ふと視線を落としたら、足元に血だまりが出来ていた。うう……なんで死骸がそのままなんだ。グロい。


「あ、ラッキー! ウチの獲物もいたし!」


 叫ぶや否や、戸惑うわたしをよそに彼女は駆け出した。彼女の視線の先に、赤茶色で四本足のやや背の低いドラゴンが歩いていた。


 ドラゴンに逃げる暇を与えず、セイは手にした巨大な鉄の塊を振り回した。重い刃物が繰り出す威力はすさまじく、ドラゴンを叩き斬っただけでなく、近くを飛び跳ねていた尾の長い、玉虫色の綺麗な小さい鳥型の魔物も巻き込んで倒していた。


「よっしゃー! ……あれ? アラーム? なんで??? ウソ? まぢ? やべえ!」


 喜んだのも束の間、セイは急におろおろと慌てて周りを見回した。アラームなんてわたしには聞こえない。セイだけに聞こえてるみたいだ。


 一体、何が起きたんだろう?

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