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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第二章: いきなり大物退治!

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002_06_現実世界も楽じゃない

 さて、FXで稼いだら次はバイトだ。駅近くのビルにあるFXのセンターから出て、バイト先のファミレスがある繁華街の方へ向かう。その途中で、ふいに聞き覚えのある甘ったるい声が耳に飛び込んできた。


「もぅ! なにやってたのぉ!? さむいのに、まちくたびれちゃったよぉ。

 ってかおくれちゃうよ。これからじゅーよーなイベントでしょぉ?」


 茶色の髪をした小柄で童顔の女が口を尖らせ、がっちり盛られた目で遅れてやってきた男の顔を見上げながら、その肩をじゃれるように平手で打った。


「悪ぃ、ちょっと店長に捕まっちゃってさ。でもまだ余裕だろ」


 染め直したような不自然な黒髪の、あっさり塩顔の痩せた男は、叩かれた時に落ちかけたギターケースを肩にかけ直しながら、笑って軽く謝った。


 二人とも、わたしがよく知っている相手だ。だけど、こんな風に親し気に接しているなんて知らなかった。


「じゃ、はやくいこっ!」


 女が弾んだ声でそう言って、男の手を取るとこっちに近づいてきた。わたしは思わず、見つからないように急いで会社帰りっぽい人々の間に紛れこんだ。多分、気づかれてはいないはず……って、何でこんなにわたしが慌ててるんだろう?


 二人とも、わたしのバイト先の人だ。


 女の方は江指(えさし) ねね。年はわたしの一つ下、相当な天然で、仕事の覚えも悪くてバイト中は結構困らされてる。正直言って同じシフトには入りたくない。


 男の方は成田(なりた) 行雄(ゆきお)。年はわたしの一つ上で、頼れるバイトのリーダーだ。でもってわたしの彼氏のはずなのに。


 最近連絡があんまり来なかったけど。浮気してるんじゃないか、とかセイに相談もしたけど。でもよりによって、その相手が彼女だなんて!


 ……いやいや、単にバイト帰りで一緒なだけとかかもしれないし。彼女は結構色んな人にベタベタした感じだから、特別な意味はないのかも。


 さっき一緒にいるのを見た瞬間に問いただせばよかったのかな。何で隠れちゃったんだか。


 あー、やっぱり気になる。黙ってるのも性に合わないし、もうメッセージを送っちゃおう。


――駅の近くでねねちゃんと一緒にいるのを見たんだけど、どういう事?


 ストレート過ぎて引かれそうな気もするけど、他に浮かばない。今は後の事は考えない。返事が来てから考えよう。こうやってもやもやしているよりずっとマシ! よし、送っちゃえ!


 さ、もう考えない、考えない。次はバイトに集中しなきゃ!


---


 注文を間違えたり、配膳が滞ったりしないよう気を付けながら、やや狭い店内のテーブルの間をすり抜けホールとキッチンを往復する。


 土曜日の夜のファミレスは余計なことを考えなくて済むくらいには忙しかった。っていうより一緒に働く店長が店長なのにグダグダで、ちょいちょい余計な仕事を入れてくれたりしたおかげでむしろかなり大変だった。


 とはいえ、他のスタッフさん達と連携してカバーするのに必死で、それ以外考えられないっていう状況は今のわたしにはよかったのかも。


 夕食のピークも過ぎて若干空席が目立ち始めたころ、ようやくバイトが終わった。ふう……疲れた。奥でまかないを食べたら、少し落ち着いてきた。4時間働いて、時給は1100円だから4400円か。


 今日、FXでどのくらい儲かったんだっけ? 報酬が20ホーラで、拾ったものを売った分が9ホーラ。そこからメンテナンス代1ホーラ、傷薬が20ホーラ、後宿代が5ホーラだから、差し引き3ホーラ? それって3000円分だから、じゃあ時給1500円!? 2時間ゲームしてただけなのに、バイトより時給いいじゃん。もうバイト辞めてゲームで頑張ったほうが良いかなあ?


 いやいや、そんなのダメだ。まじめに働く方が大切だよね。現実を捨てちゃいけない。さて、おなかも落ち着いたし、バカな事考えてないでそろそろ帰ろう。



 家に向かう電車の中でふと思い出してスマホを見たら、ずいぶん前に行雄からメッセージが返ってきていた。わたしがバイト中で返事できなかったから、何件か未読のまま溜まっている。


――確かにそのとき、ねねと一緒にいたけど、あれはバイトでの相談で、だよ。店長からなんか付きまとわれてるらしくて。


 行雄はバイトのリーダーで、ぶっちゃけ一番仕事もできるし、周りへの気遣いもできるから、わたしを含めみんなに頼られてるんだよね。だからそういうこともあるか。


 そういえばわたしも、バイトはじめたばっかりの時はたくさん相談に乗ってもらったな。最近は慣れてきたし、一通りこなせるようになったから、あんまりそういうこともなくなったけど。


――ホントごめんな。そんな風に誤解されるようなことになって。最近就活の準備とか、バンドの活動とか忙しかったし、バイトのシフトも合わなかったから全然連絡できなかったし、寂しい思いさせて悪かったよ。


 そう、行雄は色々忙しいんだ。特に就活なんて、将来がかかってるから大事に決まってる。きっとわたしが気にしすぎたんだ。行雄の事情も考えなきゃいけなかったのに、ワガママすぎた。


――ちょっと先になっちゃうけど、クリスマスのイルミネーションとプロジェクションマッピングのショーが始まったら、一緒に見に行かないか? 去年の情報とか見ると、結構評判いいみたいだし


 クリスマスのプロジェクションマッピングショーって、去年セイがすごく良かった、って言ってたっけ。今年はさらにパワーアップするってニュースになってたし、それはぜひ行きたい!


 さっそく行こう、と返事をする。後、疑ってゴメン、とも謝っておいた。


 連絡、取ってみてよかった。バイトの疲れも吹っ飛ぶくらい嬉しかった。久しぶりに行雄と出かけるの、楽しみだな。


 電車の中だっていうのにちょっとニヤニヤしてしまう。やばいやばい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第二章まで拝読しました。 ひと味違うVRMMOものという印象を受けました。隙あらば課金させる、金の亡じ……アグレッシブな運営の方針が生々しかったです(笑)。 ゲーム内での報酬が、現実の通貨…
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