002_04_二人っきりも楽じゃない
「カン! 危ない!!」
いつの間にやら近づいてきていた緑色で大型犬サイズ、鳥のようなドラゴンのような魔物、スイフトフェザーを追い払おうと、戦斧を手に慌てて駆け寄ろうとしたところで、
「待って! 大丈夫だから……多分」
と、またしても制止が掛かった。カンはスイフトフェザーを気にせずトライホーンの角を切り落としている。スイフトフェザーは、といえば襲い掛かってくるでもなく、トライホーンの死骸に群がり、ガツガツとつついていた。
あー、なんだろう、内臓っぽい何かが引きずり出されているような。うわあ……見るの、やめよう。
ええと……どういうこと? お食事中……? 魔物同士、食べたりするんだ……? この演出必要かな? とりあえずこれは、放っておいていいのかな? 頭の中にははてなマークしか浮かばないけど、攻撃されなそうだし、カンも攻撃しなくていいって言ってたから、よし、放っておこう。
「うーん……じゃあ、何か手伝えることある?」
「いや……あ、そうだ。全滅したパーティーがいたんだっけ? ならその装備の回収してきたら?」
わたしが尋ねると、カンは解体作業の手を止めることなく、というかこちらを見ることもなく、淡々と答えた。
「えっと、装備回収って?」
「……死亡や緊急帰還の場合、武器と一部のアイテムは落とすことになる。落としたものは自由に拾えて、拾った人の物になる。
レンタルか保険が掛かってる場合は返却すると少し礼金がもらえるし、購入品なら売ったり、自分で使ったりできる」
おお、何それ。いいじゃん! あの人達、結構ばっちり重装備だったし。
「了解! じゃ、探してくる!!」
トライホーンの周りを中心に草むらを探すと、飛ばされた鎧の人が持っていたっぽいひしゃげた盾と剣、それに槍二本が見つかった。でもそれ以外は見つからなかった。まあ、全身鎧はかわいくないし、重そうだから装備したくないし別にいいんだけど。
盾は壊れちゃってるけど、治せるのかな? 剣はありがたく使わせてもらって、槍は売るかな。あー、でも大型の魔物用に槍も残しておいた方がいいかな?
拾ったものの使いみちを考えてホクホクしていると、街の方向から馬車が近づいてきて、トライホーンの死骸から少し離れたところに止まった。カンが呼ぶって言ってた運送屋さんみたいだ。若干RPG風になっているものの、カラーリングやロゴなどは大手運送会社そのままの制服を着た人が、馬車から降りてこちらに走ってくる。
「積み荷はこちらの角と、そちらの方の武器でよろしいですね?
……はい、承りました」
角と拾った武器を馬車に積み込み、わたし達も荷台に乗り込んだ。
「では、出発しますよ。気を付けて下さいね。野生動物に襲われた場合は、対応お願いします!」
そう言って、運送屋さんは鞭を振った。魔物に襲われないといいんだけど。
それほどスピードは速くないけれど、屋根のない荷台を通り抜ける風が気持ちいい。馬車なんて乗ったことないから新鮮だ。魔物が寄ってくることもなく、広い草原の真ん中を駆け抜けていく。
でも少しして、あんまり変化の無い風景にさっそく飽きた。それで荷台の方に視線を戻すと、さっき拾った武器に目が留まった。
「そういえばこの武器って、わたしがもらって良かったの? 売って代金分けたりしなくていいの?」
よくよく考えたらわたしが独り占めっていうのも良くないんじゃないかな、と思い直してわたしは尋ねた。セイ達が文句を言ってくるとは思わないけど、一般的に言って嫌われるような行動は避けたいな。
「さっき言った通り、原則拾った人のものだから問題ない。最初に決めた分配は、あくまで仕事の報酬のみに適用さ。
不満ならパーティ組むときに拾得物の分配について取り決めておくべきで、今回は何もなかった。だから心配しなくても上級者がそこに文句を言うはずないさ。それに、大して金にならんだろうし」
「そっか。それならいいや。武器買わずにすんだからラッキー!」
「そう、ならよかった」
カンは銃の手入れをしながら、特に関心もなさそうに答えた。なんか、聞かれたことには答えるけどそれ以上はないっていうか、会話を続ける気がないっていうか。こんな事言うのもなんだけど、友達いるのかちょっと心配になる。
「でもそういえば、カンはジョーの友達なんだっけ? フォルトゥナではたまたま会ったって聞いたけど、リアルでも仲良いの?」
「友達か、殆ど話したこともない同じクラスの人間もそう呼ぶならそうだろうね。高一で同じクラスだったから……五年ぶりくらいか?
偶々センターで会って声掛けられたんだけど、よく俺のことなんか覚えてたよな。俺は誰だか判らなかったのに」
うーん、それはクラスメイト、かなぁ。やっぱり友達ってわけじゃないんだ。全然タイプ違うし、接点なさそうだし、会話もなかったしね。
カンは髪を染めたりしてる気配もないし、なんていうか地味な感じだから、高校の時からそんなに見た目が変わってなくてすぐ分かったんだろうな。
「けど、じゃあなんで今回一緒に来ることになったの?」
「向こうにしてみれば【解体】免許が必要だったんじゃないか? 素材取りに必要だけど、持っている人は少ないんだよ、大型向けは特に。まあ、免許取得にホーラも時間もかかるし、あまりやりたいことでもないだろうしね。
俺としてはまあ、理由はどうあれ折角誘って貰ったからね。後はジョーの言うギルド設立ってのも興味あるし」
彼は薄い笑顔を作ってそう答えた。利用されているって思ってるのかな? でもジョーはそんな風に考える人じゃないと思うけどな。それを彼に言っても仕方ないのかな。
「みんなでギルドとかそういうグループ作ってワイワイするの、楽しそうだよね!」
「……そうだね」
明るく言うわたしに、彼はそっけなく答えると銃の手入れを続けた。うーん……やっぱり会話が続かない。
仕方ない、会話はあきらめて、わたしも武器の手入れしようっと。借り物だし、きれいにしておかないとね。わたしはレンタル屋さんからもらった布を取り出し、斧にべっとりついた血糊をふき取る。
うわあ、あらためて見るとグロい。そして戦闘を思い出して気分が重くなる。みんな平気そうだったけど、そのうち慣れるかなあ。でも、皆と倒したって達成感は大きいし、ちゃんとついて行かなくちゃ。
「リンさんとセイさんはリアル友達なんだっけ。
この先も、一緒にこの手の仕事を請け負うのかい?」
武器の手入れをしながらちょっと今後を考えていたら、カンからそれを見透かしたかのようなタイミングで質問された。
「ホントはちょっと迷ってる。魔物退治、結構グロくて苦手かもだし。
けど、せっかく誘ってもらったし、一人じゃどうしていいかわかんないし、みんなで協力して何かするのってやっぱり楽しいし。
結局こういうのって友達と盛り上がってこそじゃない? だから早く慣れて、皆についていきたいなって」
「……そう」
半分は自分に言い聞かせるように答えると、カンは少しの間何か考えている様子だったけれど、結局はそっけない返事だけを返してきた。うう、特に話を拡げる気がないなら、どうして聞くんだろう?
彼の残念なコミュニケーション能力に困っているうちに、街の城壁が見えてきた。なんかちょっとテンション上がる。馬車は城門をくぐり、街の大通りをそのまま進んで、探検家協会前で止まった。
「あー、やっと来た!! おそーい!!」
「じゃ、さっさと換金しに行こうぜ」
協会前で待っていたセイ達が馬車に気づいてやって来た。みんなで馬車から角を下ろし、協会の素材買取カウンターに運ぶ。
「こちらのトライホーンドラゴンの角ですね、ありがとうございました。買取りの代金と、駆除の報酬を合わせて皆さんに分配しました。後は契約金も返還しましたので、ご確認お願いいたします」
係員さんにそう言われて確認してみると、20ホーラ振り込まれていた。
え、凄い。これ2万円として現金化できるんだよね? おおー、結構な収入。
「じゃあ、今回はこれで終了だな! みんな、ありがとう。よかったら次も一緒に行こうぜ!
さっきセイと見てたんだけど、大型の魔物退治の仕事があんま無くて、一番マシなのはテラーフェザーだった。ま、このメンバーなら丁度楽しく狩れるレベルだと思うし、どうだ?」
ジョーが笑顔で次の仕事を提案してくれた。テラーフェザーがどんなのか分からないけど、今回みたいな大物ではないっぽい。
「ウチ的にはちょとつまんないかもー。あいつすばやいからちょいめんどいしー。でもま、しゃーねーし」
セイは口を尖らせた。素早い魔物で、そんなに強くないってことかな。
「次の火曜の5時から7時なんだけど、リンもそんな時間講義なかったっしょ? いいよね?
今日もけっこうがんばってたしぃ、この調子ならもっとイケるんじゃね? ウチらもサポートするし! ね?」
バイトは……夜8時からだけど、わたしが行くセンターととバイト先って実は近いから7時までなら十分間に合う。
「うん、ありがとう。じゃあ、よろしくね」
セイも協力してくれるみたいだし、早く魔物退治に慣れて、みんなに貢献できるように頑張ろうっと。
「やったー! あ、カンは?」
「火曜の5時か……まあ、大丈夫」
「じゃ、決まり!」
「OK。それじゃ次回は火曜の5時で。また装備整えて同じトコに集合な!
そうだ、リン、もし使ってたら傷薬は必ず補充しておけよ。多めに買っといた方がいいぜ。
あと、次までに別に他の仕事とか受けても全然OKだから。じゃ、またな!」
そういって、ジョーは去っていった。ああ、そうだ。傷薬使い切っちゃったんだっけ。面倒見のいい人だなぁ。まだログアウト時間まで少し時間あるし、買いに行こうっと。あ、防具も買いたいな。後武器売ったりもしなきゃ。
「じゃ、火曜日ね!」
セイ、月曜は大学に来ない気なの? 出席取らない授業だから来ないんだろうな。って、それよりセイがログアウトする前に聞いておかなきゃいけないことが。
「セイ、ちょっと待って! 防具買いたいんだけど、お勧めってある?」
買う前にちゃんと経験者の意見を聞かなきゃ、と慌ててセイを呼び止める。
「えー。防具? ぶっちゃけ、わかんね。好きなショップの買えばいーと思う。ソリドゥスはウチらが普段買うような店いっぱいあるし」
彼女はくるりと振り向くと、あっけらかんとそう言った。えー? とわたしが眉根を寄せると、
「だってさ、防具の守備力もステータス化されてないし。武器は明らかにダメージ当てれんとかあるけど、防具はまぢ分からん感じ。
全身鎧とかのが強いらしいけど、ちょっと動きにくくなるし、試着して決める感じ。見た目コミで。
あ、ウチの装備はディムナマックールで買った」
そう彼女は説明してくれた。あー、そういう事か……。他のステータスと同じで守備力って数値もないんだ。デザインとか材質とかで良さそうなのを選ぶしかないのかな。
でもそういえば全身鎧の人、おもいっきりトライホーンドラゴンに吹っ飛ばされてたし、ひょっとして大型の魔物に対してはあんまり意味ないのかも。だったら見た目オンリーで選んじゃってもいいか。
ちなみにセイが買った、というのは普段彼女が着ているギャル系のブランドだ。そういうところも広告料取ってるんだろうな。
「そうなんだ。じゃあ何かかわいいの探してみる! セイ、ありがとね!」
お礼を言ってセイに手を振る。
せっかく報酬も入ったんだもん、初心者装備とお別れしたいよね!
ブランド名はノリと勢いなので気にしないで下さい
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