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一萬~番外編②~

 僕は子供の頃、お祖父ちゃんとその友達と一緒に麻雀をしたことがある。 そのおかげで、麻雀の基本ルールは大体把握しているつもりだ。


 余裕こいている眼鏡の先輩には悪いけど、早くアガるためにポンやチー(他人が『川』に捨てた牌を利用すること)を駆使して、勝利を掴んでみせる!


 竜伍が川に『イーソー』(緑色のトリの絵)を捨てたことを確認して、次の牌をツモる。 ――僕の手牌は。


 二向聴リャンシャンテン――アガるために必要な牌が残り3つの状態。


 配牌時にこの状態は、決して悪くない。 それに、僕の手牌には『發』(はつ)という字牌が三枚揃っている。


 字牌が三枚揃っていると、1イーハンが追加される(ポーカーでいえばワンペアのようなもの)。


 麻雀は1翻がないとアガれないというルールがある。 本来ならば、テンパイ(アガれる一つ前の状態)でリーチをかけることで1翻を獲得できる。


 けど、今の僕にはリーチをかける必要がない。 ――つまり、いくらでもポンやチーをしてもいいのだ(一回でもポンやチーをするとリーチをかけることはできない)。


 ――よし、充分勝目がある。


 そう思って、手牌にある『二萬』(にまん)を川に捨てると――。


「チー」


 突如、冷水を浴びせるような声に、えっ?、と目を丸くしながら固まってしまった。


 右に座っていた眼鏡の先輩は、「二萬」「三萬」「四萬」の順に牌を並べて、卓の右端へと流していた。 ――ま、まさか先輩もすでに1翻を持っているのか!?


『チー』は、左に座っている人が捨てた牌と自身が持っている牌が並んでいれば使用することができる(この場面では、眼鏡先輩が「三萬」と「四萬」を持っていた)。


 こちらの思い上がりを一蹴するかのように、彼女より先にアガるのは一筋縄ではいかないということがヒシヒシと伝わってきた。


 一方で、左に座っている竜伍は『チー』の意味が理解できていないのか、「チー? ……ハンターハ○ター?」とか意味不明な言葉を呟いていたが、無視しよう。


 眼鏡先輩は、牌をツモった後、何かに逡巡する様子もなく淡々と「イーソー」を川に捨てていた。 ――う、動きに無駄がない…!


 彼女の流れるような動作に、今まで幾つもの牌に触れてきたことが瞬時に理解できる。 彼女に勝利するには、生半可な気持ちでは勝てない!


 僕は助けを求めるように庭白さんを見る。 彼女は僕と目が合うと、僕の心中を察してくれたのか熟考したあと、「南」の牌を川に捨てる。


 ――違う…! 僕が待っている牌はそれじゃない…!


 次に、竜伍の手順となり、彼が捨てた牌に「萬」という文字が見えたので、緊張が走る。 ――僕の手牌には、「三萬」が二つ。 竜伍が「三萬」を捨ててくれれば…!


 牌を持つ竜伍の手がどいて、牌に書かれていた数字は――「一萬」。


 自分が欲しかったものではないと気付き、ガクッと落胆してしまう。 ――まずい、僕が「三萬」を二つ持っていて、眼鏡先輩の所に「三萬」が一つ…。 残り一つは…?


 幾つもの牌が連れ並んでいる『山』を見て背筋がゾッとする。 もし、山の一番奥に「三萬」が隠されているとしたら…?


 もしそうなら、僕の手牌の二向聴を崩して、待ち牌を変える必要がある。 そうすれば、当然、アガるために時間を要することになる。


 僕の番が回ってくる。


 一体どうすれば…? 僕は今一度、手牌の確認をする。 待ち牌は「三萬」、「リュウソー」or「キュウソー」、「サンピン」。


 ここで「三萬」が来るのを諦めるならば、待ち牌は「リュウソー」or「キュウソー」、「サンピン」、「サンピン」、「ゴピン」に切り替わる。


 二向聴が三向聴(アガリまで残り4枚必要)まで下がってしまうのだ。


 ――それでは眼鏡先輩に勝てる気がしない。


 僕はそう直感していた。 少なくとも彼女の手牌は二向聴以上になっている気がする。 責めなければ差が開くばかりだ。 ――そんなのは嫌だ…!


 賭けに出る。


 僕は先程ツモった牌「ヨンピン」を川に捨てる。 すると僕の前にある川には「二萬」と「ヨンピン」。 間に入る数字は「3」。


 これを庭白さんが見て気付いてくれるかどうか。 もし僕が「3」という牌を欲しがっていることに気付いたとしても、「サンソー」では意味がない。


 僕は勝負の行方を、庭白マリアさんに託したのだった――。




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