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一萬~刺激を追い求めて⑥~

「あのー、ところで麻雀って三人でできるもんなんすか?」


 俺が席につくと、右に雀が座り、対面の椅子に眼鏡先輩が腰を掛けたので、左の席が一つ余っていた。 それを見て疑問に思ったのだ。


「ああ、そうだったな。 ――マリー! 来てくれ、あと一勝負だけ頼む!」


「ハーイ!」


 眼鏡先輩が部室の奥に向かって呼びかけると、女性の声が聴こえてきた。 すると、カーテンで仕切られていた向こう側から、人がやってくる。 ――なぜ、部室にカーテンがあるのだろう?


「紹介しよう。 四人目だ」


庭白にわしろマリアです。 ヨロシクお願いします」


「あっ、橋本竜伍です」


「…菅崎です」


 庭白さんという女性が、ペコリと綺麗にお辞儀するものだから、つられて俺と雀も自己紹介をする。


 庭白マリアという人は、髪が桃色で優しそうな色合いをしており、肌は冬の雪化粧のように白かった。 そして何より目を引かれるのは、圧倒的な胸の大きさ。 ブラウスのボタンでは抑えることができないのか、大きく開襟されており、胸の谷間が視界に入ってくる。


「ちょっと、竜伍! 見すぎ!」


 隣の席に居た雀に注意されて、ハッと我に返る。 危うく谷間というブラックホールに吸い込まれそうだったぜ。


 俺が谷間をガン見してしまったせいか、庭白さんは顔を赤くしながら胸の上に両手を重ねていた。 その仕草がとても可愛らしい。


「ふっ。 それじゃあ、四人揃ったわけだし麻雀を始めよう」


 対面に座っている眼鏡先輩のその一言により、先程まで和やかだった空気が一変して、頬をちくちく刺されてる感じがする。


「――じゃあ、相手は初心者だから順序よく解説しながらゲームを進行していこうか」


 向かい側に座っている先輩と目が合い、お願いします、という思いでコクリと頷く。 すると、先輩は嫌そうな顔をすることもなく丁寧に説明してくれた。


「本来ならば、まず始めに『山』というものを各自作らないといけないが、この卓は『全自動卓』といって、すでに『山』は作られている」


 眼鏡先輩は、一人一人の前に置かれている上下17枚(計34枚)のまとまりを『山』と呼ぶことを教えてくれる。


「次に、東に座るお前がサイコロ2つを転がす」


 小さいサイコロを俺に渡して、振れ、と合図を送ってくる。 数字の出目が高い方がいいのか低いほうがいいのか分からないが、とりあえず言われたようにホイっと軽く投げる。


 出目は――『5』、『4』。


「合計は『9』だな。 じゃあお前から順に、左回りに1から数えていく。」


「1」と俺が言い、「2」と雀が数える。 次に眼鏡先輩が「3」と数えて、庭白さんが「4」と口にする。 ――誰か、3の倍数でアホにならねぇかな。


 そんなことを考えながら、数字を数えていくと、俺のところで「9」になった。


「じゃあ、目の前に置かれている『山』の左から、9列以降の『ぱい』を4枚ずつ取ってくれ」


「…ぱい?」


 ぱい、という単語が妙に引っ掛かっていると、眼鏡先輩がこの『山』の一つ一つを形成しているのが『牌』と呼ぶことを教えてくれた。 一つ摘んで触ってみると、白くてスベスベしている。 なんかエロいな。


「なるほど…。 これが『牌』か」


 納得した俺は、『ぱい』を目の前から4枚ずつ取って、自分だけが見れるように『牌』を並べていく。 するとこれもまた先程のように左回りに4枚ずつ取っていくらしい。 これを三回繰り返したところで眼鏡先輩がストップの合図をかける。


「次は、1枚ずつ『牌』を取ってくれ」


 コクリと頷いた俺が1枚取ると、再び左回りに各自1枚ずつ取っていく。 一周すると、再び眼鏡先輩が声を掛ける。


「よし、これで各自『牌』が13枚になったな。 ――最後に、東に座るお前から牌を取ることでようやくゲーム開始だ。」


「あっ、はい」


 眼鏡先輩が促したように、牌を一つ取ろうとする。 だが、「待て」と先輩に合図されて俺の腕は宙で止まる。


「その前に、貴様たち初心者のために勝利条件を変更する。 …そうだな、本来ならば各自持ち点を削り合って順位を決めるゲームなんだが、初心者に点数計算は難しいだろう。」


 眼鏡先輩は、ふむと言った感じで腕を組みながら思案していた。


「――特別ルールだ。 お前たちが協力して一回でも私より早くアガれたら勝利だ」


「「えっ!?」」


 雀と俺の驚愕した声が部室内に響き渡る。


「そ、それって一回でもアガれば――」


「ああ、裸になってやろう」


 マジか…!? 突然やってきたビッグウェーブという大チャンスの到来に、俺は体を震わせながらゴクリと固唾を呑む。


 よし、と意気込んだ俺は平常心を装いながら、震える手をなんとか動かして山から牌を1枚取る。 すると手持ちの牌が14枚になる…。


「…これからどうしろと?」


 何をすればアガれるのか分からない俺は、視線を眼鏡先輩に向けると、


「言ったはずだぞ。 『お前たち』で私を倒せと――その中にマリーも入っている」


 眼鏡先輩はこれ以上は助言しないという姿勢を顕にしていた。 ――てかこの人、俺たち3人と相手にしても勝つ自信があるのか!?


 それともただ単に脱ぎたいのだろうか? という淡い期待を抱いたが、その想いは見当違いだとすぐにわかった。 対面に座る眼鏡先輩の闘気のような迫力は、決して最初から敗北を考えている人間では出せるものではない。


 ――こちらも全力で戦わなければやられる。


 そう感じた俺は視線を左に泳がすと、庭白さんとバッチリ目があった。 すると彼女はニッコリ笑って、


「麻雀で勝つためにはね、同じ絵柄の牌を二つと、数字の並び順もしくは同じ絵柄の牌を三枚ずつ三組作れば勝てるんだよ。」


 なるほど、と思い自分の手持ちの牌(手牌と言うらしい)を見てみるが…、どれがなんの数字なのか分からない。 かろうじて『一萬』とか『九萬』は漢字の数字が書かれているから分かるが。


「あのー、この緑色のトリ? みたいなやつはなんですかね?」


「あー…、その緑は『ソウズ』っていうグループで、トリさんは『1』を表しているんだよ。 ちなみに『ソウズ』は竹のような絵が掘られているでしょ? その本数と数字は同じだからね。」


 可愛らしい口調で解説してくれる庭白さんは、きっと女教師のコスプレとか似合うだろうなぁ。と鼻の下を伸ばしていたら、


「竜伍のバカっ! なんで、自分が持っている牌を教えるのさ!?」


 …確かに。 今のやり取りで、眼鏡先輩に俺が緑のトリさんを持っていることがバレた! くそー、と後悔していると、庭白さんが助言してくれる。


「そのトリさんは、『川』に捨てて切り替えるといいかもよ?」


「かわ?」


「そ。 この卓の中心のこと。 牌を捨てて、次に新たな牌を引くことで手牌の完成形を常に変形させることができるんだよ。」


 なんだろ、麻雀って『山』があったり『川』があったり…キャンプでもするのだろうか。 俺は庭白さんと二泊三日がしたい。


 手とり足取り優しく教えてくれる先輩に感謝しながら、自分の手牌を見てみると――。


「なんだよ、これ!?」


 思わず大声で叫んでしまい、三人が驚愕して目を丸くしながら俺をじっと見つめていた。 あっ、と自分の失態に気付いた俺は、開いていた口を手で覆い、もう一度手牌の確認をする。


(えーと、ソウズの竹の本数と数字は同じ扱いだから、きっとこの丸が描かれてる牌も同じはず…)


 すると俺の手牌は、「1」「9」が幾つもあり、それに加えて方角の書かれた牌がバラバラに並んでいた。


「え、えーと…。 ちなみにこの『ソウズ』の1と漢字で書かれてる『一』って同じ扱いには――」


「できません」


 質問を言い切る前に、キッパリと庭白さんに否定されてしまう。


「じゃ、じゃあ数字の並び順って「八」「九」「一」でも…」


「それもダメです」


 庭白さんは人差し指を重ねて小さなバッテンを作っていた。 ああ、可愛いなぁ…って和んでいる場合ではない!


 俺の手牌は見事に一つたりとも被ることはなく、並び順の牌すら持ち合わせていなかったのだ。


「大丈夫? 顔色真っ青だけど…」


 上目遣いで俺を心配そうに庭白さんが見つめてくる。 ――い、言えない…、あまりにも手牌が悪すぎるからもう一度やり直しましょう、なんて…。


「だ、大丈夫ですよ。 俺はこのトリを川に捨てますね」


 ああ、俺はなんて無力なんだ。 スマフォゲームのガチャで1%の激レアを三回連続で引けると豪語したのに、このザマとは…。



 燃えたよ…真っ白に……。 燃えつきた…真っ白な灰に……。



 ――こうして、俺こと橋本竜伍は『負け』が確定したのだった。




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