一萬~刺激を追い求めて⑤~
「ふん…、貴様たちが最後か」
長蛇の列を待つこと15分、ようやく俺たちの出番が回ってきたので部室内に入ると、先程『敗北したら脱ぐ』宣言をした女性の先輩が待ち構えていた。
「お前らは、麻雀のルールを知っているか?」
…いきなり痛いところを突かれて言葉に詰まってしまう。 麻雀のルールは知りませんが、あなたの裸を見たくてやってきました、なんて言ったら蹴飛ばされるだろう。
「え、えーと…」
なんと言い返せばいいのか分からず視線を泳がせながら、隣りにいる雀に助けを求めるが「我、関せず」と言いたげな表情で無視されてしまう。 ――テメェも裸を拝みたいなら助けろやぁ! と心が叫びたがっていたが、グッとこらえる。
「じ、実は初心者です!」
――俺は賭けに出た。 この眼鏡を掛けた女性の先輩は、表面は口調が男らしくて凛としているが、実は内面は慈愛に満ちた天使のような心の持ち主であり、困っている人を見かけたら手とり足取り教えてくれる優しい先輩であることを。
「ほぅ…、麻雀のルールを知らないのにも関わらず、この私に勝負を挑みにきたのか?」
しかし現実はそう甘くない。
眼鏡先輩は、俺の鼻と鼻がくっつきそうなぐらいグッと近づいてガンを飛ばしていた。 先輩、これ以上近づくと――あっ、花のような甘い香りがする。
「ふっ。 この私に睨まれていながら、その余裕――面白い」
眼鏡先輩の髪からいい匂いがして、思わず口元を緩めた俺から何を感じ取ったのか知らないが、どうやら勝負をしてくれそうだ。
と思っていたが。
「この卓の上に、四枚の牌がある。 その中から、一枚選んで『東』を出してみろ。」
「東?」
麻雀というゲームには、方角が関係しているのだろうか? あっち向いてホイ、と似たようなゲームなのか…?
美女とあっち向いてホイ、か。 常に相手の胸元を意識してしまう俺は、ずっと下を見続けることだろう…まずい、それでは敵わない!
腕を組んで悩んでいると、裾をクイクイって引っ張られていたので振り向くと、雀が小声で耳打ちしてくる。
「竜伍、やめようよ。 4分の1なんて引けるはずないよ。 もし引けたとしても、初心者が敵うはずないから、帰ろうよ」
――こいつ、敵を前にして怖気づいたな…。 だが、甘い!
「俺はゲームでリセマラ不要と言われた漢…! 1%で排出される激レアを3回連続で引くなんて朝メシ前だ!!」
俺は雀の忠告を無視して、自分がコレだと思ったものを掴んで、裏返す――。
すると、表示されているものは――『東』。
「ふっ。 面白い…!」
眼鏡先輩はにニヤリと口元を歪めており、雀は信じられないといった表情で目を丸くしながら『東』の文字を見ていた。
「う、うそだ…! きっと全部、『東』の牌なんだよ!」
驚愕している雀は、裏になっている他の3枚の内、1枚をひっくり返すと――『南』の文字が記されていた。
「おいおい、この私がそんなつまらない小細工をするはずがないだろう?」
雀の疑り深い様子に呆れながら、眼鏡先輩も残り2枚の内、1枚をひっくり返して『西』という文字が現れる。
「そ、そんな…!」
顔を真っ青にした雀は項垂れる。
――こいつは、どんだけ俺の『運』をバカにしていたんだ…。 友人が自分に対する酷な評価をしているのを目の当たりにして、ちょっぴり落ち込む。
「さぁ、席につけ――ゲームを始めよう」
眼鏡先輩は邪悪な笑みを浮かべながら、そう告げる――戦いの火蓋が切って落とされた。




