六萬~始まりの終わりは、新たなるはじまり⑧~
最終局――南二局目。 親番は順先輩。
…まずい。 俺は今窮地に立たされている。
順先輩と俺の点差は1万点ほど。 この差を埋めるために、連荘すればいい――という方法ではダメだ。 なぜなら、この最終局は順先輩が親番のため、俺が一度でもアガると終了してしまうのだ。
つまり、この一局だけで逆転しなけらばならない…!
そうなると必然的に、俺に残された手段は『国士無双』を狙うほかなかった――しかし、相手は順先輩だ。 どうすれば……。
俺は尚も思案するが、結論がでないまま牌が配り終わる――そして俺の手牌は、国士無双のテンパイしている状態だった――。
やはり俺にはこれしか…!
藁にすがる思いで、一縷の希望を抱きながら国士無双という一発逆転の役満を狙う。 俺は、不必要である「四萬」を河に捨てる――。
「ポン」
虎視眈々と俺の捨牌に狙いを定めていた順先輩。 彼女の冷たい声が静寂な空気を切り裂く――やはり、邪魔してくるか…!
次に山から取った牌は「さんぴん」。 これもツモ切りとして、河に捨てると――。
「カン」
順先輩の「鳴き」が再び炸裂する。 俺の手牌とは反対に、順先輩は順当に完成形へと近づけている――俺はやっぱり、この人に勝てないのか…?
半年間、先輩たちにみっちりシゴかれて麻雀のことを色々教えてもらったけど、結局『最強』には敵わない――ん? 待てよ……。
本当に1万点の差を埋めるためには、『国士無双』だけか…?
俺は、半年間習ってきた麻雀のことを思い出す――ポン、チー、カン、ツモ、ロン、リーチ、役満、点棒、山、河、……ん、山? ――ああ、その手があったか!
やっと見つけた――山には『宝』が隠されていたことを…!
俺は口元に柔らかい笑みを湛えながら、河に「北」と書かれた牌を捨てる――。
「ほう…? 国士無双はヤメて、私に勝つ算段でもあるのか?」
興味深そうに俺の顔をじっと見つめる先輩――そんなに見られたら照れます……。 ドギマギした俺は、思わず順先輩の視線から逸らしてしまう。
「ふん、まぁいい…。 どのみち、私が先にアガれば関係ない」
そうだ――結局、俺の策略も順先輩より早くアガらなければ勝利は掴めないのだった。
俺が国士無双を狙うのをやめたため、順先輩はポンやチーなどが容易ではなくなった。 こうなると互いの狙いは一つ。
山から、どれだけ必要な牌をツモれるかが勝利のカギとなる――!
俺は「二萬」、「ななぴん」、「伍萬」、「リャンソー」、「はちぴん」、「七萬」、「中」、「サンソー」の順にツモっていく――そして、その間に順先輩はツモった牌でカンを二回していた。
もしかして、順先輩の狙いは――!
「…四槓子でも狙っているんですか?」
「――ん? 何を言ってるのか、分からないな」
こっちの質問をはぐらかす順先輩は、白い歯を覗かせて笑っていた――本当にこの人は、実力の底が計りきれない。
まさか、この土壇場で『国士無双』と同じ役満である『四槓子』(カンを四回使用して完成させる形)を狙っているのだから。
――そんなの喰らったら、俺の下着は木っ端微塵だ。
この寒い中で、全裸で外を徘徊するなんて絶対嫌だ――そんな俺に同感してくれたのか山からツモった牌は「三萬」だった。
俺は、にっと不吉な笑みをひけらかす。
「リーチ!」




