五萬~復活の「H」⑤~
俺の圧勝だった。
見事に作戦が成功したのだから、笑いが止まらない。
彼女の『ゼロサムゲーム』は一見、最強にも思えるような特性だが、裏技を使えば対処することができる――たとえば、おみくじを引くとしよう。
一度目に大吉を引いたとする。 すると、彼女のゼロサムゲーム理論だと次に引くのは大凶となる――だが一回目で大吉を引けば、二回目を引く必要はない。 つまりはそういうことだった。
相手をゼロにして強制的にゲームを終了させれば奴の干渉を受けることはない。
あえてもう一度言おう――俺の圧勝だった。
「ふあはははははは!」
ガララララ!!
俺が高らかに笑っていると、勢いよく教室の扉が開かれる。 扉の前にいたのは『☆ゼロ★』だった――そして彼女は俺を見つけるなり勢いよく接近してくる。
「アンタ、ざっけんじゃないわよ…! あんな不意打ちで、私に勝ったつもり!? もう一回よ、もう一度私と勝負しなさいよ…!」
「いて、いててっ!?」
松葉杖の先端でビンタするかのように俺に八つ当たりしてくる『☆ゼロ★』――てか、なんで『復活のH』が俺だと分かったんだ…?
「はぁ!? あんなダッサイ名前つけれんのアンタだけでしょ!? それにバカの一つ覚えのように、国士無双使ってくる奴なんて、嫌でも分かるわよ!」
俺の質問に呆れた『☆ゼロ★』は、ますますヒートアップして俺の骨にヒビを入れんばかりに松葉杖で猛追してくる――ここまでされると、もはやイジメだろ…。
耐え切れなくなった俺は、彼女が持っていた松葉杖の先端を掴んで攻撃を止めさせる。
「いてて…。 てか、二度と俺に会わないんじゃなかったのか?」
前回、『☆ゼロ★』に勝負を持ちかけて敗北した俺は、彼女に『私の前に現れないで』――と言われた事を思い出す。
「はぁ…? この私がわざわざ来てやってるんだから関係ないわよ――もちろん約束通り、これからもアンタは私の前に現れないでよね!」
ダメだこりゃ…今の彼女には、何を言っても反発されてしまう――ん? 約束…?
「そういえば、俺が勝ったら『麻雀部に入部する』――って約束覚えてるよなぁ…?」
俺は悪代官のように忌々しいまでに顔を笑いの形に歪める。 すると彼女は焦ったように動揺しながら反論してくる。
「そ、それは…! あれよ! まだ一勝一敗だからノーカンよ!」
むう…なかなかしぶとい――どうすれば、彼女を麻雀部に入部させられるか…。
「――じゃあさ、三回目の勝負はゲームじゃなくて、全自動卓で麻雀しようぜ」
俺はそう言って、彼女の手を取ろうとすると――。
「ちょっ…! 気安く触らないでよね!」
まるで虫に触れられたかのように、手を振り払う『☆ゼロ★』……泣いてもいいだろうか。
俺はガックリと項垂れながら、重たい足取りで部室へと向かう――すると、少し離れたところから俺の後をついてくる『☆ゼロ★』。
「勘違いしないでよね! アンタと決着をつけるためんだから…!」
顔を真っ赤にしながら、聞いてもいない理由を勝手に述べる『☆ゼロ★』――そんな彼女を見た俺は、思わずこぼれそうになる笑いを噛み殺してそっと顔を背ける。
――そうだ。 彼女は「部活」に入ってもいないのに、わざわざ放課後残ってまで麻雀の対戦相手を探していたのだ。
きっと彼女は、最初からこうなることを望んでいたのではないだろうか――?
俺はそう思いながら、桐竜高等学校麻雀部の部室へと一緒に足を運ぶのだった。




