四萬~合宿編[菅崎雀]②~
僕の父親と竜伍の父親は、昔からの知り合いだった。 けど、二人が住んでいる場所は遠くてあまり会う機会がなかった。
そんなある日、僕の父親が仕事の都合で群馬に住むことになり、僕も一緒に行くことになった――そして、久しぶりに再会した僕と竜伍の父親は「家族を連れて温泉に行こう」という話になり、旅館に行くことになる。
ぼくが8歳のころだった――そこで初めて竜伍と出会う。
ぼくは子供の頃、気が小さくて友達も少なかったから、知らない男の子と話すきっかけが分からなかった。 彼から逃げるように、せっかく旅館に来ているのだから、母親と温泉に入りたいと思っていたのだが、両親は竜伍のお父さんたちと仲良く話していて、ぼくの立ち入る隙はなかった。
ぼくはむくれて、一人で温泉を楽しんでこようと『女湯』に入ろうとすると僕と同じくらいの年の子に呼び止めれらる――それが竜伍だった。
「おい、おまえ! おとこなのに、そっちにはいっちゃだめなんだぞ!」
「えっ、えっ?」
知りもしない人に突然手を引っ張られて、ぼくは訳がわからなかった。 なんでぼくは『おんな』なのに『男湯』に連れて行かれているのかも意味不明だった。
どうやら、ぼくがショートヘアだったので勘違いしたらしい。
「おまえなぁ、だめだぞ…! おんなゆを、のぞきたいっていう気持ちはすげえわかる…! だけど、るーるをまもらなきゃ、大人になれないんだぞ?」
いま君のせいでルールを破ることになっているとは、人見知りのぼくには到底言えるはずもなく、彼は男湯の着替え室で堂々とすっぽんぽんになっていた。
「ほら、お前もはやくぬげよ!」
「え、え~!?」
ぼくの言い分を聞こうとしない彼は、はやく温泉に入りたいようで元気よく駆け足をしながら、ぼくが服を脱ぐのを待っていた。
「あ、あとでちゃんと行くから、さきいっといて…!」
異性の前で裸になれるはずもなく、ぼくは彼を先に温泉へと促していた――彼はなにやら、言いたそうだったがしぶしぶ従ってくれた。
ほっ、と安心したぼくは、どうやって男湯から抜け出すかを考えたが、彼を裏切ったら後でどんな目に遭うか…そう考えると反抗するのが怖くなり、ぼくは恐る恐る服を脱いでいく――そして、おんなだとバレないように、腰周りにタオルを巻いて隠す。
「おー! やっときたかー!」
こっちの事情を知らない男の子は、ぼくを見つけると元気よく手を振っていた。
「なんだぁ、おまえ。 ちん○ん見せるのが、そんなにはずかしいのかぁ?」
元よりないのだが、ぼくは思いっきり頷き、恥ずかしくて見せられないということを伝える――本当の意味で、見せられないのだから。
「まぁいいや! ろてんぶろ入ろうぜ! ここから、でっけぇやまがみえるからすげえんだぜ!?」
男の子は再び、ぼくの手を掴んで引っ張っていく――。
ここから僕と竜伍は仲良くなり、友達の関係になる――彼はまだ僕が『男の子』だと思い込んでいるので、今の関係を壊したくない僕は、今も『男の子』であり続けるのだった――。
「――そういうわけで、僕と竜伍は友達の関係です。 それ以上でもそれ以下でもありません!」
つい、間違いとはいえ子供の頃、男女で温泉に入ってしまったというエピソードを暴露してしまった自分は、恥ずかしさのあまりこの場から立ち去ろうと椅子をガララと引いて立つ――すると。
むにっ、と尻を揉まれていた――。
「…………」
僕は絶句しながら、ギギギと首を動かしながら振り向くと、そこには竜伍が立っており「よ、よぉ。 お前と俺の仲だろ――?」とぎこちない笑顔を浮かべていた。
どこの世界に友達同士で尻をもみ合う奴らがいるんだ――そして、マリアさん達に誤解されないようにしていたのに、この仕打ちはなんだ――?
そう思った僕は怒りのあまり、反射的に竜伍の顔に回し蹴りをしてしまい、彼は体をビク、ビクさせながら気を失っていた――。




