三萬~新生雀士現る⑧~
「――ねぇ、アンタ『ゼロサムゲーム』って知ってる?」
「…? えっと…」
確か、ゲームの参加者がそれぞれに選択する行動が何であれ、得失点の合計がゼロになる…っていうゲーム理論だっけ?
「それと同じで、私たち人間にある『運』の総量も決まっていて、『幸運』と『不幸』が均等になるよう運命づけられている――」
つまり、何が言いたいんだ…?
俺は『☆ゼロ★』の言葉の意味が理解できず、首を傾げていると――ある異変が起こっていることに気付いた。
「えっ、コレは……!?」
スマフォの画面を見てみると、東風戦の第一局の2本場(俺が『親』でアガった為、連荘している)で『☆ゼロ★』が既にアガっていた。
――『国士無双』で。
「はぁ…!? そんな、バカな!?」
俺が先程、アガった手牌と同じだった――しかも、ちょっと待て。 この東風戦の第一局の2本場…まだ、俺の手番が2回周ってきてない。
つまり、『☆ゼロ★』は一巡で『国士無双』を完成させたってことだから――『地和』もついてくる…ってことは、W役満!?
スマフォの画面に表記されている『☆ゼロ★』が獲得した点数は、『64000』点だった。 しかも、俺が『親』番の時にアガられたので、64000点の内訳は、親が32000点、子が16000点払わなければならない――。
現在の順位は、『☆ゼロ★』73000点、『ファイブドラゴン』41000点、『昨日、離婚しました』ー7000点、『明日から本気出す!』ー7000点。
「アンタの『国士無双』っていう『幸運』は、アタシの『国士無双』で『不幸』になり、『ゼロ』となった――アンタの負けよ」
麻雀の対戦は、誰かの持ち点が『0』点以下になれば強制的に試合終了となる。 俺は、たった二局で『☆ゼロ★』に負けたのだった…。
「こんなの、納得できるかよ!? ゼロサムゲーム? はぁ!? その理論だったら、お前が勝利するのはおかしいだろ!!」
そうだ、ゼロサムゲームは『参加者』全員の得失点が『0』になるという理論なのだ――だったら、この麻雀勝負は全員が引き分けにならないと、その理論は正しくはない…!
「はっ…、言ったでしょ? 私は、『交通事故』に遭って『全てを失った』って――つまり、私は常に『不幸』という『マイナス』からスタートする……ここまで言えば、アンタみたいな馬鹿でも分かるでしょ?」
つまり…『☆ゼロ★』だけは、常に『幸運』だけを得ることができるってことか…?
「そんなの……」
「そう、私に勝てる人は誰一人いないのよ――残念だったわね、『ファイブドラゴン』さん」
そう言った彼女は、負傷した左足を松葉杖で支えながら屋上を去ろうとする。 そして、屋上の扉に手を掛けた後、くるりと振り返り口を開く。
「そうそう、私が勝ったらなんでも言うことを聞く…だったわね。 なら、今後――『私の前に現れないで』」
彼女は屋上の風でなびく髪の毛を払いながら、冷たい声音でそう言い残して、バタンと扉を閉めて屋上を後にした――。
「……くそっ!」
俺は、無力で弱い自分に腹が立って、地面を拳で殴る――胸の苦しみと同じくらい、拳がジンジンとしていた。




