二萬~麻雀部結成④~
「ふふ…、じゃあ勝負する4人を決めようか」
生徒会長はそう言うと、俺はふと疑問に思った。 4人の内、生徒会長と俺が2人なのは確定してるとして、後の2人は誰なのか――この場にいるのは「眼鏡先輩」、「庭白マリア」、「菅崎雀」。
そうすると麻雀同好会から2人を選出するしかなく、必然的に1対3の図式が出来上がる。 ――あれ? これ圧勝できるんじゃね?
俺は極限の恐怖から解放されて、喜びのあまり感涙していた――生徒会長の次の言葉を聞くまでは。
「こっちは2人いるから、麻雀同好会からもう一人メンバーを選出してくれ…もちろん、貧相メガネはダメだ」
…聞き間違いだろうか。 今、生徒会長は『2人』いると言わなかったか…? そう言えば、さっきから生徒会長は『私たち』と言っていた。 もう一人は一体何処に――?
「おいで、ペス!」
ペス? 生徒会室で犬でも飼っているのだろうかと思ったが事実は違った。 …できれば、間違いであって欲しかった。
そこには、俺にとってはお馴染みの顔の『石岡くん』が四つん這いになっていた。
「い、石岡くん…? ど、どうしてこんなところに…?」
「は、橋本氏…! たすけてくれぇ…!」
今まで生徒会長が使っていた机が邪魔で見えなかったが、どうやら石岡くんは四つん這いで生徒会長の椅子がわりになっていたそうだ。
「どうして、石岡くんはそんなことをしてるんだ…?」
訳が分からない。 何をすれば人間は、椅子の代用として強制されるハメになるのか…。
「うぅ、聞いてくれ…。 ボクは前川様に踏まれたり、蔑まされたりすることを目的とした、ファンクラブを結成するために、生徒会長に許可を取ろうとしたんだ…」
そんな部活、誰も入らねぇよ!
「そしたら、そんなふざけた部活を認める訳にはいかないと、生徒会長に否定されたんだ…。 だけど、ボクは諦めなかった。 いかにこの部が素晴らしいかを熱弁したら、生徒会長に勝負を挑まれたんだ」
石岡くんが神妙な面持ちで喋るので、俺は思わずゴクリ、と生唾を呑む――。
「勝負の内容は――『全校生徒に、前川先生に踏まれたいかのアンケートをして、踏まれたいと答える生徒が1割いるかどうか』――という勝負だったんだ」
くだらねぇアンケートだな!
「ボクは核心していたよ――負けるはずがないって」
石岡くんには、もっと世界の常識を学んで欲しいです。
「だけど、ボクは負けてしまったんだ……! 全校生徒400人中、『3人』しかいなかったんだ…!」
逆に、その3人の顔が見てみたい。
「ボクは勝負に負けた罰として、生徒会長の奴隷になってしまったんだ……! クッ…! ボクの背中に座っていいのは、前川様だけだったのに!!」
そっち!? 石岡くんの怒りのポイント、そっちなんだ!?
「ふふ…。 どうやら、ウチのペスと君は知り合いのようだね」
できれば、こんな変な人とクラスメイトという黒歴史は抹消したいところだが、石岡くんがエサをもらおうとしている犬のような瞳でこちらを見ていたので、俺は仕方なく頷く。
「ふふ…。 ウチのペスはちゃんと躾てあるから、ちゃんと命令を聞いてくれるのさ――『お手』!『お座り』!『チン○ン』!」
生徒会長の次々と繰り出される指示に逆らうことなく、ペス――『石岡くん』は従順にポーズを取っていた…いや、そりゃあ人間だからね? あと、石岡くんもなんで『チン○ン』でドヤ顔しているんだ?
だが、今のやり取りで理解できた――あのチームワーク?に勝つためには、こちらもチームワークで対抗するしかない…!
「俺と一緒に戦ってくれ…!」
そう言って俺は、麻雀同好会の一人に視線を向ける。