二萬~麻雀部結成③~
「えっ? なんで生徒会室に行くんですか?」
俺は素朴な疑問を眼鏡先輩にするのだが、彼女は「黙ってついてこい」としか告げず、俺たちは訳も分からないまま先輩の後についていく。
階段で四階まで上った後、右に曲がり、数歩あるいたところで、左手にあるのが生徒会室だった――そこで俺たちは足を止める。 すると、眼鏡先輩は扉をノックもせず、豪快に開けていた。
「高宮城はいるか!?」
扉をバン、と開けると一人、上座にいる男性は眼鏡先輩の突然の訪問に、書類に目を通していた作業を中止して、こちらの方を見ながら深いため息を吐いていた。
「ふー、やれやれ。 ノックもできない原始人がこの学校に通っているなんて、由々しき問題だな。」
「はっ。 高宮城こそ、そんなに規律に縛られてはハゲるぞ」
「ハハ! 私のことは生徒会長と呼べと言っているだろう。 それとこのキューティクルな髪がハゲるわけがない!」
二人は険悪のムードの中、俺たちの存在に気付いた高宮城という生徒会長は、首を傾げて眼鏡先輩に質問する。
「ところで一体何の用だ?」
「ふっ、聞いて驚くな。 この二人は麻雀同好会の入部希望者だ!」
「な、なんだと…!? あの野蛮で美しくない遊戯をしたいとでも言うのか…!? 二人とも正気か…?」
高宮城という男性に質問された俺たちは、呆気にとられながらもコクリと頷く。 すると、どうだと言わんばかりに眼鏡先輩が誇らしげに胸を張る。
「ふふ。 これで同好会から部へと昇格させてもらうぞ」
あー…、なるほど。 なぜ俺たちが生徒会室に訪れたのかやっと理解できた。 確か、桐竜高等学校では正式に部を認めるには部員が4人以上いるのが原則で、それから顧問を雇うという規律だったはずだ。
「くっ…! どうせ貴様が、貧相な体を見せるからという理由で、洗脳しているだけだろう…!」
歯が割れるほどキツく奥歯を噛みしめる生徒会長は俺たち二人を睨んでいたが、突如憑き物が落ちたかのように、柔和な笑みを浮かべる。 ――なぜだろう、いま寒気がしたような…。
「ハハハ! いいだろう、麻雀同好会の部への昇格を認めよう――ただし、私たちに勝てたらの話だ」
「なん、だと?」
生徒会長の唐突な提案に、眉根を寄せて睨む眼鏡先輩。 それを生徒会長は無視して、言葉を続ける。
「麻雀で私たちに勝てれば、麻雀部の設立を認める。 そして貴様らが敗北すれば――『裸』になってもらう!」
な、なんだと!? ――コイツ、さっき柔和な笑みを浮かべたのは俺たち…否、後ろにいた庭白マリアさんの裸を見るためか…!?
こちらが勝てば麻雀部の設立。 こちらが負ければマリアさんの裸が見れる。 ――なんて素晴らしい提案なんだ…!
「ふっ。 そんな提案、誰が呑むというのだ。 こちらは、貴様の大好きな規律を守って4人揃えたのだ。 文句を言われる筋合いは――」
「その勝負――受けて立つ!!」
俺は、眼鏡先輩の正論をかき消すかのように、声を張り上げて生徒会長が提案してきた賭けの勝負を受諾する。
「ちょっ、竜伍!? なに言ってるのさ!?」
「何って、俺たちは麻雀部を作ろうとしている――ならば、麻雀の実力で勝ち取るしかないだろう…!」
俺は精悍な面持ちで雀に告げる――きっと今の俺は、ラオウを倒せるほど漢の目をしているだろう。 たとえ99%勝ち目がなくても……、1%あれば…戦うのが俺の宿命だ!
「竜伍…! やはり、私の目は正しかったようだな…、思いっきり暴れてこい!」
眼鏡先輩は俺の熱いパトスを受け止め、激励をしながら俺の背中を叩いて生徒会長の前へと送り出してくれた。
「いい…! 実にいい……! 君のような男がやってくるのを待ちわびていた…!」
生徒会長は俺と対峙すると、獲物を見つめるような鋭い視線で俺の体を舐めまわすように眺めていた…。 ――あれ? もしかして、この人って……
「あぁ、ぜひ君の裸が見てみたい…!!」
ハメられた――否、ハメられる……! 俺はなんてバカなことをしたんだ……! この人は、正真正銘――『ゲイ』だ!
いやぁあぁああぁあぁあぁあぁぁぁあああああああああぁあぁあぁあああああああああああああああぁあぁあああああああああああああーーーー!
俺の心が叫びたがっている。