二萬~麻雀部結成~
ああ、鳥はなんて自由なのだろう。 綺麗な青空を翼で飛び回り、好きな場所へと赴くことができる。 オスはメスがいる電線の上にとまり、くちばしをつつき合いながらイチャついているではないか。 ――なぜ人間同士では複雑なのだろうか。
男性が女性に寄り添っても、大抵は気持ち悪がられ距離を取られるのがオチだというのに……今のこの状況のように。
「キモ! 男子のあのいやらしい目つき…。 爆ぜればいいのに」「女の敵」「勝利すれば女性の裸が見れるからって、知りもしない麻雀をやるなんて…不潔」「去勢するべき」「ウチのクラスの男子、ほぼ全員行ったらしいわよ」「不潔、変態、去勢」
……こんな感じに、俺たちのクラス『1-C』は男子と女子が敵対している。 ただの言い争いなら中学生の頃も何度かあった。 けど俺たちはもう高校生。
発育している女子高校生達は、自分たちの身の危険を改めて認識したようで、男子達との距離を遠ざけているのだ――今のように。
まるで海を割ったモーゼの奇跡のように、教室に並べられている机は真っ二つに別れてしまっている。 廊下側に近い方が女子の派閥で、窓に近いほうが男子の派閥となっている。 どうやら女子達が、廊下側に陣地を作ったわけは、孕まされないようにいつでも逃げられるためだとか……。 泣いてもいいだろうか。
授業中もこんな状態だった為、教科書を音読している国語の教師は、モーゼが海を割った空間を何度も往復する羽目になり、参加者が一人だけのパリコレのようで不憫だった。
そして放課後になると女子達は――はぐれ○タルのように、瞬時に教室から飛び出し、逃げ去っていった。 ……俺たちはこれからも経験値を得る機会はないのだろうか。 少し涙が流れた。
ああ、雛鳥に餌を与えているあの鳥たちの優しさを見習って欲しいものだ……。
「――ご! ――竜伍ってば!」
窓の外を見ながら物思いにふけていると、隣で叫んでいる声が聞こえたのでそちらの方を振り向くと、雀がいた…鳥ではない方の。
「もう! さっきから呼んでいるのに、無視しないでよ!」
頬を膨らませながらまくし立てる雀。 どうやら授業が終わった後、1-Bからすぐにこの教室へと駆け寄ったらしい。
「どうしたんだ、雀? ――俺は今、ヒトは鳥になれるか思考錯誤している最中だってのに。」
「はぁ、なにそれ…? もう! 意味分からないこと言ってないで、早く行こうよ!」
「ん? どこに行くんだ?」
「将棋部!!」
雀は顔を真っ赤にして怒りながら、俺の腕を引っ張り将棋部の部室へと連れ出そうとしていた。 ――ああ、そういえばそんな約束もしてたっけ。
興味を惹かれる部活はあったのだが、あんなに豪語しておいて赤っ恥をかいてしまった手前、麻雀同好会の先輩達に合わせる顔などなかった。
――楽しかったんだけどな……。
ルールはあまり理解できていなかったが、四人対戦で、一人の強者に勝つために味方と協力して(俺は何もできなかったけど)点数を奪い合うというゲームに俺は惹かれていた。
…もう一度やりたかったな。 と、俺がふと思った瞬間。
1-Cクラスの扉が、勢いよく外から開けられた。