絶望を希望に
魔法を使うのが日常化している世界でも、魔法を一切使えない主人公のサクヤは、幼馴染のユキとレオンが心の支えだった。
身分が違うながらも、ユキのことが好きなサクヤは告白することが出来たが…
初めての小説なので、粗さがあると思いますが、楽しんで頂けたら幸せです。
「俺が欲しいのは、ただ一つ。お前だけだよ、」
そう、笑顔で手を伸ばしてきた幼馴染の顔を、ただ呆然と見ることしか少年には出来なかった。
時は、×××年。
この世界の人類は、皆いつからか魔法という不思議な力を扱得るようになった。魔法は、どんどん生活化し、力の強さで、身分も変わった。そんな世界に、黒の国と白の国という国があった。
黒の国は、黒魔法という攻撃的な力を扱う者が多く、他の国と戦いながら栄華を築き、
白の国は、緑豊かで、白魔法という守護的な力を持つ心優しい者たちの住む国だった。
黒と白の国は、お互いに友好関係を築いていた。
黒の国は、技術面や、魔法で、白の国の経済を助け、
白の国は、ほかの国に戦いに行く、黒の国の人間たちの援助を行っていた。
ずっと、この関係は続いていくと、皆思っていた。
あの日までは。
「あ、サクヤこっちだよ!」
「待ってよ、ユキ!」
白の国のある場所で、ユキと名乗る女の子が嬉しそうに男の子を呼んでいた。
男の子…サクヤは、このユキが好きだった。
優しくて、綺麗な彼女は、男女ともに愛されていた。
白く長い髪は彼女の純白さを表しているようだった。もちろん自分も好きな気持ちは同じだと、サクヤは思ったが、その気持ちはまだ伝えていない。
いつか、告白しようとは思っている。けれど、身分がそれを許してくれなかった。
彼女は守護魔法の中でも上位の癒しの力を持つ巫女でもある。そんな自分は、魔法を一つも持たないただの下民だ。
カースド制度なるものがあるならば、きっと奴隷だろう。そんな自分と、上位に当たるユキが付き合うなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない。
「どうしたのサクヤ?」
「あ、ううん…なんでもないよ、ユキ」
「ハハッ、サクヤ、ユキの奴に見惚れてたんだろ」
「バッ、バカ!何言ってんだよ、レオン!」
ユキに見惚れていたのは確かだ。そんな自分に揶揄ってきたのは、もう一人の幼馴染のレオンだった。
黒の短髪で、健康的な彼もまた、この国では人気者だった。誰とでも仲良く、カッコ良い彼のことが好きだという女の子たちをよくサクヤは見かけていた。しかも、魔法に長けていた。白の国には珍しい攻撃魔法を持っており、ユキと一緒にいれば、姫と王子様だという者もいる。言い得て妙である。
美しく、優しいユキと、カッコよくて、人望も力もあるレオン。そして、なんの力…魔法も持たない平凡な自分。
周りの人からも、なんでこの二人と仲がいいのか分からないとは、何度も言われた。偶にそれでひどい嫌がらせを受けたことがあった。
そんな時に、よく助けてくれたのが、レオンだった。
だけれど、優しく、いつも笑ってくれるレオンが唯一、怖い顔をするのがこの時だった。
その時よく言っていた。
「安心しろ、お前は俺が守ってやるから」
その言葉がほんの少しだけ怖かったのを覚えている。
「で、俺を置いてどこ行くつもりだったんだよ?サクヤ」
「ッあ、えと、」
「あのね、今日はサクヤと一緒にお買い物なの。レオンもどうかしら?」
「…あー、俺は今日はパス。」
「え?…なんでだよレオン」
驚いた。レオンなら断る事はないと思ってたから。
「いやーやらないと行けないことがあってな。」
「そっかぁ、なら仕方ないわね。いきましょう、サクヤ」
「あ、うん、またなレオン」
「…またな、か。」
二人の後ろ姿を見ながら呟くレオンの顔をこの時のサクヤは知りもしなかった。
「あーあ、レオンも来ればよかったのに」
「そうだね。…ねえユキ、聞いてもいいかい?」
「なあに、サクヤ?」
街から離れた後も、少し残念そうなユキに、サクヤはずっと聞きたかったことを口に出した。
「あのね、ユキは、レオンのことどう思ってるの?」
「どう、か…レオンは優しくてかっこいいよね。女の子たちみんなそう言ってるし。」
「あ、うん。そうなんだけど、…あの、ユキの気持ちが知りたいっていうか…」
焦れったい。ただ一言、ユキはレオンが好きなのか。それを聞きたいだけなのに。もし、ユキがレオンを好きだと言うならば、信頼しているレオンなら、と諦めがつくのに。
「…私?…私は…ちょっとだけレオンが怖い」
「!!!」
「あ、違うの、本当に偶に感じるだけ。ほら、偶に無言になる時があるから。でもそれ以外は好きだよ」
レオンが無言?自分といた時は、そんな姿一度も見たことがなかった。ただ優しく笑う彼の姿しか見たことがない。
「きっと、ユキと一緒にいて、緊張したんじゃない?」
「…そうかしら?」
「きっとそうだよ!ユキを嫌いになる奴なんていないよ!だってユキは優しくて、綺麗だし。僕も好きだよ!」
「え…」
「え…あ、!違、あの…」
言ってしまった。ユキが好きなのはずっと変わらない。それでも、まさか、こんな時にこんな事を言ってしまった。
なんだか恥ずかしくて、顔を赤らめてしまった。見れば、ユキは顔を逸らしている。これは嫌われたと絶望しそうだった。
「…の」
「え?ユキ?」
「……違う、の?」
「…あ、え?」
ちらりとユキを見れば、ユキも自分と同じくらい顔を赤らめていた。
「好きって言葉は嘘なの?」
「!違う。嘘じゃない!…僕は、ユキのこと好きだよ。ずっと」
「………」
「ユキ?」
やっと言えた。初めて会ったときからずっと好きだった彼女に。好きって。けど、彼女からの答えは返ってこない。
不安になる自分に、彼女は見惚れるくらい綺麗な笑顔を見せてくれた。
「あのね、私もサクヤに伝えたいことがあるの。でも今はダメね。」
「え!なんで?」
「サクヤに渡したい物もあるし、渡す時に教えてあげる!ってことで、風の道【ウィンド】!」
「あ、ちょっと、待ってユキ!」
彼女はそう言って、走りながら街に引き返した。レオン同様、魔法に長けているユキに敵うわけなく、一人、街に引き返すしかなかった。
たらればであるが、もしこの時、自分にも力があって、ユキと一緒に街に戻っていたら。何か未来が変わっていたかもしれない。
「…はぁ、やっと戻ってこれた…ずるいよユキ…魔法を使うなんて」
ゼェゼェと、息が絶え絶えになりながら街に戻ってきたサクヤは、1人ため息を吐いた。もし自分に魔法があれば、こんなに苦労する必要は無かったのだろう。
「…ッ、なんだよ、コレ」
着いた時には、街は火の海だった。ふと周りを見渡せば、人が一人、二人と倒れていた。いつも自分を妬んでいた女の子や、男の子。近所に住むご老人。近づけば、皆息をしていなかった。
「…ユキ、ユキはどこだ!」
どことなく嫌な予感がした。サクヤは、いつもユキがいたであろう、街の中心部にある噴水まで目指した。
「…っ、あれは、黒の…」
街の奥に走ると、生きている人間がいた。
けれど、白の国には見ない男たちだ。彼らは金銀、食料全て持っていた。
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