↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者と魔王の終末世界  作者: 竪川杼緯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/55

17.神の箱庭

 ゴエティアについてはこれで終了。あとはこれからどうするかだ。

「ミーティアちゃんは本当に独りで魔王退治に向かうのか?」

「だって私は勇者の役目をこなさないといけないですから。仕方ないです。それにルキさんたちは一緒には行ってくれないのでしょう?」

 ミーティアは言われたわけでもないのになんとなくそんな気がしていた。そもそも一緒に来るつもりがあれば予言書や魔術書を渡そうとはしないからだ。そのまま彼らが持っていて必要になったら取り出せば済む話なのだから。

 案の定マルキリスは素直に肯定した。

「俺たちには俺たちの役目があるからな。それを放り出してミーティアちゃんを手伝うわけにはいかないんでね。悪いな」

「いえルキさんたちにはじゅうぶんお世話になりました。おかげさまで切れなかった剣もじゅうぶんすぎるほどに使えるようになったみたいですし、使い方の基礎まで教わることができましたし」

 そのうえ馬にも乗れるようになった。

 世界的に食料が不足しているにもかかわらず食べきれないほどのおいしい料理を与えてもらえた。

 ほかにも気持ちよく体を清められるお風呂に、安心して休める寝台。贅沢すぎるほどのあれこれを数か月にわたって提供してもらえたのだからこれ以上を求めることをしてはならないのだとミーティアは自分に言い聞かせる。

 これ以上は。

 だから。

「だから明日ここを立ちます」

「そうか」

 そこに驚きはなかった。

 こうした会話の流れであったからか、そもそもそろそろとミーティアが思っていたからこそこの場が設けられたのか。きっかけはミーティアのちょっとした疑問ではあったにしても。

 明確な答えは得られなかったが、それでも唯一『一度も外れたことがない』という予言書に勇者が魔王を倒すと書かれていたのなら、勇者であるミーティアが魔王を倒せるということになる。

 それが完全な勝利なのか、相打ちなのかは不明だが。

 どちらにしろ世界の終焉に生き残れる人間は十四万四千人。そこに半端な一人はない。勇者が生き残れたのかどうかはこの数字だけではわからない。

 そしてあたかも勇者は一人だけと思わせておいて実ははっきりとは確定できないような表現。

 誰が書いたのかわからないが、あの予言書に遊ばれているとしか思えない。こうやって振り回されてしまっていることからしてだれも否定はできないだろう。むしろないほうがみんなのためだったかもしれない。

 勇者が魔王を倒すという予言どころかほとんどの書物に名前すら明記されることもなく、ただ『復元された予言書』だけにしかその存在を認められていない『勇者』。そしてそれほどまでに希薄な存在であるにもかかわらず誰もがその登場を待ちわびている。己が助かりたいがために。

 ヴォルケイノーはああ言ったが、魔王を倒したとしても十四万四千人しか生き残れないことなどほとんどの人が知らないのではないだろうか。

 それとも一般人は知らなくても『勇者』であれば知っていて当然なのだろうか。

 もしくは知っている団体でもあるのか。たしかに教会関係者であればそうした情報を持っているかもしれないが。

 とはいえ情報伝達経路を切断されてしまったうえに聖書や預言書もしくは予言書のたぐいはほとんど残っていないという状態では、一般人に詳細などまず伝わってはいないだろう。そうしてますます人々の頭の中にそれぞれが描いた正義のヒーローが生まれていくのだ。あたかも神によって最初から用意されていたかのごとく。己が生み出したものがばんにんに共通する認識だと思い込んで。

 それにしても解せない。

 黙示録には勇者が魔王を倒すとは書かれていないとヴォルケイノーが言い、けれども同じ口で『一度も外れたことがない』と言って取り出した『復元された予言書』には勇者が魔王を倒すと書かれていると言う。

 この意味するところはなんなのだろう。

 両親が人質に取られてさえいなければ。ミーティアとてあえて勇者としての務めを果たそうなどとは思わなかった。

 黙示録というものがありながら認められていない勇者の存在。定められていない魔王の先行き。

 あやふやな中で今のミーティアにわかることは、それでも勇者として魔王アバドンを退治するために底なしの穴へと向かうということ。

 ただそれしかない。

 神がなにを思ってこの脚本を書いて配役をしたのか、人間であるミーティアにはわかろうはずもない。けれど与えられた役目の中であがくことが救いになるというのならあがけるだけあがくしかない。

 むしろ『復元された予言書』にしか記されていないということは、勇者などに頼らずに日々を生き抜けという意味かも知れない。

 そのほうがいかにも神の試練という響きにあっている。

「神の箱庭か……」

「ん?」

 小さくつぶやいたミーティアの言葉を聞きつけたマルキリスが聞き返してきた。

 ミーティアはなんでもないというように小さく手を振った。

「あ、いえ。ただ、この世界はやっぱり神の箱庭なのかなーってふと思っただけです」

 もしかしたら脚本などはなにもなく、神はただ舞台を用意しただけかもしれない。

 創造主である神は生き物の足場となる世界を創造だけしてあとは自由を与えてくれていたのかもしれない。決定的ななにか。そうたとえば七つの封印を解かない限りは一切の干渉をしないと自身にルールを定めて。

(それならなんとなくわからなくもないわね……)

 どれだけ祈りをささげても神はなにもしてくれないという。これはなにかをしたくても定めによってできなかったともいえる。

 神とて万能ではない。

 そんな風に思えば多少はミーティアも肩の荷が下りた。

 どうやら無意識に微笑んでいたらしい。マルキリスが首をかしげながら尋ねてきた。

「どうしたんだ急に?」

「え?」

「今笑っただろう?」

「そうですか? すみません考え事をしていたのでよく覚えていないです」

 人差し指で軽く頭を掻きながらミーティアはちょこんと頭を下げた。

 マルキリスはそれは構わないと笑った。

「いや別に、なにかあったんじゃなけりゃそれで構わんが」

「ああ、なんだかちょっと気が抜けて」

 テーブルの上に用意された飲み物。ミーティアは温かいお茶を一口すする。

 両手で包むように容器を持てば掌から伝わる温もりがじんわりと全身へとまわっていく。

「神はこの世界を創造して箱庭を作ったけど、干渉はしなかった。それは自由を与えて生の楽しみを教えるため」

 そして人が七つの封印を解いて世界の終焉を選ぶまでは好きにさせてくれた。

 ぽつぽつとミーティアの口から言葉がこぼれ落ちる。静かな声音は囁きに似て、けれども聞く者の耳に確実に届いた。

 マルキリスとリベルトは顔を見合わせてから再びミーティアへと向き直る。

「誰かに聞いたのか?」

 穏やかな空気が漂う場をかき乱さぬようにか、タイミングを計ってそっと入り込んできたマルキリスの声はいつもの明るさが抑えられてはいたが温もりは変わりなかった。

 記憶を探るように首をかしげながら上目でどこでもない場所に視線を向けたミーティアは、ややあって首を軽く横に振った。

「誰かに聞いたことがあったかもしれないけれど思い出せないわ。ただふとそんな考えが浮かんだだけ」

「そうか。そんなことを考えておきながらそれでも勇者として旅立つのか?」

 ふっとどこか覚悟を決めたような笑みをミーティアは面に浮かべた。

「たしかに基礎は教わったけれども剣を扱えるとはとても言えないほどお粗末な腕だし、魔術魔法もまだまだ未熟だし。ほんと勇者だなんて恥ずかしくて名乗れない状態だけど」

 でも、と小さくつぶやいたミーティアは顔をあげてまっすぐマルキリスを見つめた。

「なにもしないまますべてをあきらめて投げ出すことはできないし、したくはないわ」

 両親が人質に取られている。

 けれどそれがなくとも最終的にはやはり旅立っていた気がする。

 勇者だからではなく、剣を授けられたからにはミーティアにだってできるなにかがあると信じて。

 あきらめて死にいくさに向かおうとするのではなく、死に急ぐのでもない。

 生きるために。生き抜くために、残された日々を精一杯使って勝てる方法を探ろうという気にもなってきた。

 ヴォルケイノーにマルキリス。リベルトにフルカルス。

 彼らに会って色々と教わったように、これから先もなにかしら学べるかもしれない。そのためには先に進まなくてはならない。とどまっていてはなにも得られないから。

「可能性は全くないわけじゃありませんから、できるだけのことはしてみます」

 なぜだかあふれてこようとする涙をこらえて、ミーティアは精一杯微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。