灰色の海に投げた指輪は冬の陽に鈍く光った。
べたべたした潮風を受けながら、私は銀色の指輪を投げ捨てた。
遊びだと勘違いしたのか、サムが銀色の軌跡を目掛け私の脇を弾丸の様に突っ切り、高く跳ぶ。
大喜びで指輪をくわえて駆けて来た愛犬の頭を撫でて、いっそ小気味よい程ヨダレまみれのソレを、力いっぱいまた海に投げる。
その私の薬指には昔あなたのくれたビーズの指輪がはまっている。
私はこれがあればいい。
あんな指輪サムが飽きるまでおもちゃにして、気が済んだら捨てよう。
「……バカ」
綺麗なままの思い出だったら良かったのに。
噛み締めた唇は、潮風と同じようにしょっぱかった。