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妖しの彼女  作者: 鎖
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まだらなお姫様(2)


私にはもはや精神的干渉をする力は残っていない。つまり口頭で綾篠との男女関係をそそのかす以外に方法はない。私は頃合を見計らって行動に出た。浅木がいつものように机に向かい、勉強しているその時だ。


「御主人、ちょっとよろしいですか?」

「どうしたの?」


浅木は机に向かったまま言葉を返す。仮にも霊体である私がとり憑いている、更にこうして姿をさらしているのにも関わらず、こうも冷静というか、無頓着に対応できるものか!?

もしかしたら、こいつは只者ではないかもしれない。


「御主人は綾篠様とお付き合いなされてますね?」

「そうだね」

「今のお付き合いに満足していますか?」

「してるけど...何かな?」


してるんだ。そうなのね。年頃の男の子ならもっと女の子に妄想を抱くものじゃないの?というか抱いて下さい。湧き上がる疑念。無視できない疑惑。もしかして、浅木は女の子にあまり興味がない人間では?実際、交友関係はある。でも肉体関係には興味がないという人間もいると聞いた事がある。もしくは、綾篠サイドが強引に関係を持っているだけなのでは?浅木は嫌々いまの状態にあるのかもしれない。しかし、そんな事・・・。


(十分にあり得るよね!)


自宅は監視されているし、学校でも見張られている。会話も互いの優劣を感じさせるものばかりだし、普通の高校生の付き合い方とはまるで違う。これで喜ぶ人間なんていないよね。もしかして御主人は綾篠という監獄に囚われた憐れな囚人なのでは?そう、何かしらの弱みを握られているのもかしれない。しかし、ここで本末転倒の仮説に私は気付いた。


(もしかして既に童貞を卒業している?)


これでは今の現状に満足していてもおかしくない。まずはこれを正さねばならない。


「御主人・・・童貞ですか?」

「はぁ!?そうだけど・・・」


もっと。突きつめる必要がある。


「そうなんですね。お付き合いしているけど、あまり興味がないですか?」

「うーん・・・綾篠さんそういうの苦手そうだし」


綾篠さんそういうの苦手そう。という答え!

浅木自身は興味を持っている!綾篠が苦手そうには見えないが、そこは問題ではない。要は浅木本人がそういう気でムラムラしてくれたらいいのだ。けど待って。慌てるな私。ここは落ち着いて巻き餌をバラ巻く事が大事よ。


「綾篠さん、あまり魅力的ではないですから」

「僕には十分過ぎる程、魅力的に見えるけど」

「でも、強引に迫る程ではないですよね?」

「強引に・・・?あの綾篠さんに?」


空気が凍りつく瞬間を私は感じた。


「嫌がる綾篠さんを強引に迫ったら・・・」

「迫ったら・・・?」


「僕も君も死ぬ」


意味不明。


「僕には分かる。そんな事をすれば全身18箇所の刺傷が内臓に達して僕は死ぬ」


綾篠七海という女!仮にも彼氏が強引に迫っただけで、全身18箇所も刺すだろうか!?いや刺すよね。あの女はそういう女だよね。完全に誤算、浅木が死ねば当然、宿主を失った私は生きては行けない。どうして童貞の話から命のやりとりに発展したのか理解に苦しむけど、この状況はうまく利用できる。


「では御主人は一生童貞ですね」

「別にそんな...急ぐわけじゃ...」

「16~20才の童貞率は65%です」

「なっ...バカな...」

「つまり3人に1人以上は...済です」



済≫越えられない壁≫童貞



「でも!僕は彼女がいるし可能性はあるはず!」

「御主人、それこそ罠です」

「罠!?」

「現状、綾篠様と関係を持つことは不可能です。更に別れる事も不可能。浮気をする事も不可能となれば万事休す。脱童貞のささやかな可能性も断たれている状況です」

「そんな...」


絶望。それは望みを絶たれると書いてそう読む。

彼女がいない状態では絶望しない。なぜなら望みすらないからだ。彼女がいるのに関係を持てない。望みを持った上でそれを絶たれる現状こそが絶望そのものだった。


「御主人、まだ勝機はあります。涙を拭いて」

「泣いてないよ」

「綾篠様を口説きましょう」


口説く。


古来より男女間でとり行う営業!昔も今も女は口説き文句に弱い。脳の作りが男性より遥かに感覚的なものであるため、言葉をイメージとして捉える。男性が貴方は石より強そうだ!と言われたらバカにされてると思うでしょう。しかし、女性は月より綺麗だと言われたら嬉しいのだ。この感性は男性には欠如している。が、それゆえ一歩進んだ技術を持てばその営業は十分に成功する可能性がある。


「御主人は色々と経験不足ですよね?」

「...はい」

「言葉を選ぶ必要はございません」

「というと?」

「好きだよ。と何度でも伝えながら」

「...ながら?」

「ゆっくりと」

「ゆっくりと?」




「脱がしましょう」



そして物語はここから加速していく。


もちろん変な方向へ。








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