ミコミコ(3)
もうすぐ日が暮れる。
夕焼けが僕の部屋を赤く染める。その中に僕と綾篠さんは立ちつくしていた。『幽霊を作る』とは、一体どういう事なのか?僕には理解できない。そもそも僕にはそれを意図的にやっているわけじゃないし、できるわけでもない。綾篠さんの説明は分かるけれど僕にとっては全てが突然で、自分は巻き込まれたつもりだった。何もしてないのにミコが現れた。そんな感じだった。
「ミコは殺さないといけないのか?」
「いけないわけじゃないけれど、その方が良いわね」
ミコが僕の背中に隠れた。
「待て待て。もしも仮に僕が死んでしまったら、綾篠さんも同じように僕の生霊を生み出すかもしれないだろ?」
「いいえ。その時は私も死ぬわ」
「な、なるほど……」
「どうしてもバカ猫を消したくないのかしら?」
「綾篠さんこそ、どうしてもバカ猫を消したいのかな?」
「ええ」
マジかよ。
「じゃ、じゃあその方法を僕に教えてくれよ」
「なんで?」
「やはり、ここは自分で解決できないと!こういう事がこれからも起こりうるわけだろ?」
「そうね……。そうしましょう」
よし。とりあえずは時間を稼げる!
「まず制服を脱いで」
はい。脱ぎました。
「下も」
は、はい。さすがにパンツだと照れるな。
「シャツもよ」
半裸なんですけど!?
「次に私の制服のネクタイを取りなさい」
はい。でもこれが関係あるのか?
「つぎはスカートを……」
「ちょっと待てぇぇぇ!」
「どさくさに紛れて如何わしい事しようとしてないか!?」
「あら。如何わしい事しようとしてるのは浅木君じゃない」
「いや。如何わしい事させようとしてるだろ?」
「大事なのは浅木君?如何わしい事をしようとしているか、させようとしてるいるか。そういう問題じゃないわ」
「つまり、どういう事ですか?」
「したか。していないか。よ」
「終わってるじゃないか!」
綾篠さんがすとん。と、ベットに座った。
「こういう事ができる相手が常に浅木君の部屋にいると思うと、私は居ても立ってもいられないの。分かる?」
「あ、ああ」
相手は僕の生霊だがな。
「浅木君はこんな可愛い彼女が部屋にいるのに、手を出さないだなんて。よほど大切にしているか、女性的な魅力を感じていないか、男性的な部分が欠落しているか、童貞さながら勇気がないか、タイミングを探り過ぎて見失っているか、ホモよね」
「分かんないけど傷ついた気がするよ」
「半裸なうえに傷ついたなんて可哀想ね」
「半裸にしたのは綾篠さんでしょ!?」
綾篠さんはベットに仰向きに倒れた。そして目を瞑り呟く。
「私は今でもいいんだけれど」
いま!?
まて!僕!落ち着け!今なのか!?そうなのか!?
これまでこういう手口で何度も綾篠さんにからかわれてきたけれど、今回もそうなのか?いやどうなんだ!?わからない。
いやでも待て。丁度、僕は半裸だしそういう事なのか!?
いやいや!半裸にしたのは綾篠さんじゃないか。丁度とか意味わからないよ。完全に策略だよきっと。
「ここまで言ってもだめなのね」
綾篠さんが艶っぽいため息を吐いた。
今。なのか。
「あ、綾篠さん……確信するけれど、今でいいの?」
「……」
そこは無言なんだ!わからないよ。ちくしょう!
無言てなんだ!?否定しないという事は肯定か!?それとも無言の否定か!?こういう女子の察して感は本当にわからないよ!
いや!心を決めろ僕!
ダメでも好意を伝える理由でもあるんだ。たぶん。きっと。
「あ、綾篠さん……」
言葉を制すように綾篠さんが僕の唇に手を当てる。
「ごめんなさい。まだ準備が終わってなかったわ」
「えと、心の準備とか?」
「そんなもの10年前から終わってるわ」
「その時は6歳だよ!?」
「浅木君とそういう行為をするならば、ネイロンの鍵を使うべきだと思うのだけれど、その準備がまだ終わっていないの」
なにそれ。怖い。
「と、いう事で私はこれからその準備にとりかかるので帰ります。期待して待ってて頂戴。この際、バカ猫はどうでも良いわ」
どうでもいいんだ。
そう言い残すと颯爽と綾篠さんは帰って行った。とりあえずミコは助かった。今後僕らはどうなってしまうんだろうか。。
暗転