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妖しの彼女  作者: 鎖
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ミコミコ(2)



霊は『いる』ものではなくて、『ある』もの。



    アヤシノカノジョ



これがミコの霊じゃない?


そんな事はない。なぜならミコと僕しか知りえない過去も知っているし、その生活も共有してきた。それに今まで出逢ってきた霊ともミコはぜんぜん違う。全くの無害そのものじゃないか。


「な、なにを言ってるんだよ綾篠さん。どう見てもミコじゃないか」


ため息をつきながら綾篠さんは蔑んだ目を向ける。


「これのどこがミコちゃんなのかしら?」


そうだ。どう見ても幼女。ミコではない。でもミコの霊である事には間違いないはずだ。


「だって、僕とミコしか知りえない事だって知ってるんだよ」

「そう。ならそのバカ猫に聞くわ。浅木君と出会ったきっかけは?」


綾篠さんが僕の隣で俯くミコに問いかける。


「雨の日。お兄ちゃんに拾ってもらった」

「ほ、ほら。間違いなくミコなんだよ」

「では・・・」


「それ以前はどこで何をして生きていたのかしら?」


ミコはその問いに答えられず僕のシャツの裾をぎゅっと握った。


綾篠さんの問いが宙に浮いたまま、続ける。


「バカ猫には答えられないわね。そうね。だって、もともとないんだもの」

「もともとない。って・・・」

「浅木君。犬の霊は犬の形、猫の霊は猫の形。ではどうしてミコちゃんが人の姿してると思う?」


それは以前にミコから答えを聞いている。なぜミコは幼女の姿なのか。それは僕のミコに対するイメージなんだとか。寿命を全うしたミコは言うなればおばあちゃんだ、しかし僕のミコはそんな感じだ。



そこまで綾篠さんに質問されてハッと気付いた。


「もしかして・・・ミコは僕の幽霊なのか・・・?」


正確には僕のミコに対するイメージが生み出した幽霊。つまり、この幽霊にミコ本人は全く関係ない。ただ僕の想いが作った幻だ。だからこそ綾篠さんの言う『ミコちゃんの幽霊じゃない』のだろう。


「そう。これは幽霊なんかじゃない。浅木君あなたの生霊。ミコちゃんが死んだ悲しみが生んだ架空の存在。それに対して何か感情を持つ事は決して良い事ではないわ。本当にミコちゃんは死んだその時にもういなくなっている。分かるでしょう?」


綾篠さんがゆっくりとミコを指さす。


「そのバカ猫は浅木君の幼女好きの変態的妄想の権化でしかない」

「それは言いすぎじゃ・・・ミコを殺すのか?」


綾篠さんが黙って頷く。


「生霊は少なからず人に影響を及ぼす。浅木君がこんな猫耳幼女変態志向になってしまったら大変だもの。ちゃんと正しく容姿端麗ヤンデレ変態女子高生好きに教育するためには、このバカ猫の存在は邪魔よ」

「た、正しく・・・?」


その正しさが正当なものかは分からないけれど、いま綾篠さんがミコを殺す理由は問題じゃない。ミコは殺されるべきか否か。問題はそこだ。僕自身の気持ちは家族をまた失うのは寂しい。しかし、それが間違っている事は頭では理解している。これはもうミコではない。だからこそ分からなくなってしまう。


「バカ猫を抹殺する理由の概ねはそこだけれど浅木君。それだけじゃないの」


ミコから僕に視線を移す。


「生霊はそんな珍しいものじゃないの。特別な霊感なんて物がなくても、知らず知らずのうちに生みだしてしまう事もある。嫉妬や欲望、羨望や固執。ただそれだけで生霊は生まれるから。そんな程度の微々たる存在は決して強い力を持たないし、その存在を維持し続けるのは難しい」


綾篠さんがベットから立ち上がり、でもその猫は。と言葉を繋げる。



「視えるほどに」


「言葉は話すほどに」


「自我を持つほどに」


「とても『幽霊』なのよ浅木君」



綾篠さんがゆっくりと僕に近づき頬をそっと指でなぞった。ふわりと良い香りがして柔らかい感触が残る。僕には綾篠さんの言っている事があまり理解できなかった。そもそも幽霊と生霊の大きな違いすらもよく分かっていないのだ。


「そ、それが・・・ミコが幽霊に近いのが問題なのか?」


僕の質問を無視して綾篠さんが顔を寄せる。そしてそっと耳元に口を当てた。


「問題?問題なのはどうして浅木君がそんな事できるのか?って事よ」

「そんな事って・・・」


綾篠さんがぐいと僕の肩に手をかけ体を離すと、怪しげな笑みを浮かべた。




「浅木君は幽霊を『作る』ということよ」




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