ミコミコ(1)
唐突だが僕は幼女を飼っている。
この言葉だけでは、とてつもなく危険な奴に聞こえるかもしれないがそうではない。正確には幼女の姿をした猫の幽霊にとり憑かれているのだ。元は僕の飼っていたミコ(猫)だったのだが、死んでしまって幽霊として蘇ってしまったのだ。
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
「ただいま。いい子にしてたかい?」
そう言って僕はミコの頭を優しく撫でるとミコはごろごろと喉を鳴らした。
年齢にして8歳くらいだろうか?僕のシャツにくるまるそれは猫ミミと尻尾が生えている事を除けばどう見ても普通の人間だ。もちろん除いたその部分が問題なのは分かっているが、どんな形であれ死んでしまった家族が戻って来た事にどこか嬉しさもある。
「時にお兄ちゃん」
「何だい?」
「何でその女がここにいるの!?」
ミコはそう言って僕の隣に立つ綾篠さんを指さした。
「あら。ここは私の場所よ?何か変かしら?」
「いやミコの場所なんだから!」
「いや僕の部屋だ」
「いいかしら?ここは浅木君の部屋。もちろんそれは知っているわ。私が言っているのは私の場所だという事。誰も私の部屋だとは言っていないでしょう?それに彼女が彼氏の部屋にいる事に何の問題も理由も必要ないじゃない?もし仮に私がここにいる事に理由や目的が必要という話をするならば、そうね。年頃の男女が一つの部屋にいる事。それだけで分かりそうなものなんだけれど、その目的を私に説明させるつもりなのかしら?浅木君は本当にいやらしいわ。けだもの」
「どうしてそうなった!?」
綾篠さんはおもむろにベットに腰を下ろして足を組んだ。そして目のやり場に困る僕に言う。
「そして浅木君。さっきの言葉はそのままそのバカ猫にお返しするわ」
「さっきの言葉って・・・」
「何でそのバカ猫はここにいるの?」
何でここにいる?
だって、ここはミコの家だから。
「よく考えて浅木君。本当のミコちゃんはもう死んでいる」
ミコが僕を見つめる。
「『そこにいるそれ』は決してミコちゃんではないわ」
そんな事は分かっている。だけど僕には彼女をどうする事もできない。曲がりなりにもミコであったものの霊だからだ。人は死んでしまったら家族ではなくなるのだろうか?答えはないし、それは哲学だ。もし自分の親が死んでしまったとき、その親は家族ではなくなるだろうか。いや、もし死んでしまってもそれは家族だ。だからミコはこんな形になっても家族なんだ。少なくとも今の僕はそういう気持ちでいる。
「浅木君。根本的なものが間違っているのよ」
「根本的?」
綾篠さんがベットに座りながらその足を組み直して、冷ややかな眼差しをミコに向ける。
「それはミコちゃんの霊なんかじゃないわ」
あヤしノ×かノじョ