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妖しの彼女  作者: 鎖
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まだらなお姫様(4)


「これはどういう事だろう」


放課後、僕は学校の屋上のフェンスに磔にされていた。


綾篠さんが僕の携帯を目の前にぶら下げている。その画面には『明日の放課後、二人で会えないかな?』と井上さんに送信されたラインが表示されている。


「これはどういう事なの?」

「これはどういう事なのかしら?」


綾篠さんと井上さんが口を揃えて言った。

待て。落ち着け僕。自分の行動を冷静に振り返ろう。まず今日僕は携帯の目覚ましで起床した。朝ご飯は食べる事なく登校した。学校での振るまいについては心当りは全くない。このラインを送信した記憶もない。なぜこうなったのか全く理解不能だ。しかし何かしら弁解しないと、このフェンスから飛び立つ可能性もゼロじゃない。携帯をぶら下げたまま綾篠さんが顔を寄せる。


「死刑です」


・・・やはり。極刑は免れないだろうと思っていた。しかしこのままでは理不尽すぎる。本当に身に覚えがないのだ。


「綾篠さん、ちょっと待って! 本当に誤解なんだ」

「私が何を誤って理解してるのか説明して頂戴」

「僕はそんなラインをしてない!」


井上さんが携帯を開く、もちろんそこには僕からのラインが履歴にある。もはや言い訳の一つも通らない状況ではあるが、何とか弁解しないといけない。


「浅木君。よくそんな事が言えるわね」


と言うか何で井上さんに送ったラインを綾篠さんが知ってるのか・・・。しかしそこに関しては問題なんだが問題じゃない。


「ちょっと目を離すと好き勝手する・・・」


綾篠さんの瞳が暗く沈んでいく。僕が普通の生きていく人生の中で、何度体験できるだろう。人の放つ殺意というものを。僕は確信した。死ぬ。それは僕か井上さんか、他の誰かなのか。おそらく僕であろう事は分かる。


「けれど浅木君。私は菩薩のような寛大な慈悲を以ってこれを許そうと思うの。有難さに涙を零し、これまでの自分を悔い改めなさい」

「・・・」

「けれど浅木君。ただ、というわけには、いかないわ」

「そうだと思ったよ」


「おいたするその右手を貰います」


「あ、綾篠さん・・・?」

「悪い浅木君の右手はホルマリン漬けにして私の部屋の棚のアルバムの横に飾ると言っているの。 意味が分かるかしら?」

「もちろん分からない」

「それで命が助かるなら喜びに打ち震えるべきだと思うけれど」

「童貞にとって右手は命だ」



「綾篠さん、待って。他の誰かの仕業かもしれないよ?」


さすが井上さん。良いところに目を付ける。


「そんな事、百も承知」


承知なのかよぉ!


「下世話な蜘蛛女の浅知恵を上手く利用して、浅木君を懐深く手に入れる作戦だったのに、まさか井上さんを利用しようとするとはね。大人しく私と浅木君のキューピットしていればいいものを・・・」

「まさか・・・マダラオオヒメ?」

「萎れたババァにもう力なんてないと思っていたら、こういう悪戯をするなんてね。仕方ないから浅木君の右手を頂く事にしたわ」

「待って! 他に方法はないの!?」

「あるわ」

「あるのかよ!」

「ただ、方法があるのとそれを実行するのは話が別というだけの事。できるか、できないか。と言えばできるわ。したいか、したくないか。と言えばしたくないの。分かる?」

「もちろん分からない」

「往生際が悪いのね」

「僕の右手だよ!?」

「世の中には右手を失った人も大勢いるわ。そんなに悲観する事ではないと思うのだけれど」

「理不尽に失うなら仕方ない。でも綾篠さんに切られるのは違うだろ?」

「では私に理不尽に切られる。という事でいいかしら?」

「いいわけないだろう」


「では・・・浅木君が右手を使う様子を、事細かに私に報告する事で今回の件は見逃してあげる」

「そんなの断る」


「安心して。浅木君に言ってるわけじゃないわ」


僕は何を安心すればいいのか。





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