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HAWK  作者: 大藪鴻大
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 突然ですけど、私が好きなキャラクター像について話したいと思います。

 私は、『自分の信念を貫き通す』キャラクターが好きです。『信念』というか、『自分の芯』みたいなものがぶれているキャラクターは、どうにも魅力にかけているように思います。『自分の信念』さえ持っていれば、悪人でも(善人であるに越したことはありませんが・・・)魅力があるように思います。

 具体例をあげると、『なんとかなる』、『うるさいのは嫌いなんだ』、『つながる心が、俺の力だ』、『目の前に落ちてるもん拾うだけで精一杯だ』などです。私も、こんな『自分の信念』を一言で言い表してみたいものです。

 

 ちなみに、最後に列挙した『一言信念』は、それぞれ引用元があります。「ああ。あれのことかな。」と分かる人は、もしかしたら、私と感性が似ているのかもしれません。 

一人で校門を出ると、声をかけられた。そこで待っていたわけではなく、ちょうど出くわした形だった。ただ、本当に偶然なのかどうかは疑わしい。

「久しぶりだなあ。どうだ、高校ライフは?充実してるか?」

 鳶が笑みを浮かべる。髪が少し伸びたのか、髪の先がその重さで垂れ、ライオンのような髪型になっていた。校門を出てくる生徒が、訝しげにこちらを見ながら通り過ぎる。相変わらずの口調ではあったが、何となく、親しみやすい感じになっていた。

「場所を変えませんか?聞きたいこともありますし。」

 鳶は目を丸くしたかと思うと、吹き出す。何がおかしいんだ。

「おまえ、相変わらずだなあ。きっと、退屈な高校生活なんだろ。いいぜ。場所を変えよう。」

 退屈ではない。心の中でそう指摘する。鳶が俺の横を歩く。こいつは一体誰だ、と周りの視線が刺さる。鳶がそちらに視線をやると、皆目を逸らした。こちらから鳶の表情を見ることは出来ないが、おそらく、睨んでなどいないだろう。そんなことせずとも、十分、人の恐怖をあおることが出来る。そういう生き方をしてきたのだろう。


「それで、聞きたいことって何だ?」

 俺と鳶は家から近いファミレスにいた。面倒だが、俺は一度家に帰り、養い親に断ってからではないと外に出られない。鳶も、俺が制服だと面倒だと思っていたのか、文句を言わずについてきた。

「烏って何なんですか?都市伝説ですか?」

 鳶は腕組をし、背もたれに寄り掛かる。ちょうどそのとき、パチパチと音を立てるハンバーグを乗せた鉄板が運ばれてきた。二人分、机に置かれる。

「烏ってのは、伝説の―。―伝説なんだよ。誰にも姿を見られたことがない。神隠しの証拠は黒い羽一枚。それがなかったら、神隠しされたかどうかも分からない。」

 鳶は、伝説の、と言いかけて言葉に詰まっていた。おそらく、伝説の犯罪者とでも言いたかったのだろう。

「作り話じゃないんですか。」

「誰だ?そんな適当なこと言ったやつ。」

 どちらかというと、適当なことを言っているのはそちらだと言われるのではないだろうか。

「みんな知っているものなんですかね?」

「一般人でもって意味か?知ってるやつは知ってるんじゃねえの。一時期、流行ってたみたいだしな。」

 鳶はナイフでハンバーグを切り分け始める。俺も、それに合わせて切り分け始める。

「それで、他に質問は?」

 鳶はそう言って、ハンバーグを口に運ぶ。傍から見ていたら、人殺しだとは思えないだろう。この人、人殺しなんです、と俺が大声で叫んでも、変な目で見られるに違いない。

「いつまで付きまとうんですか?」

「いい質問だ。俺はあの日おまえに会ってから、ずっとこの日を待っていた。随分、待たされたよ。」

 鳶はナイフとフォークを置く。いつの間にか、ハンバーグは半分以上なくなっていた。

「おまえ、今、暇だろ。」

 鳶が笑みを浮かべる。羽のある鳶は笑わないはずなのに、目の前の鳶は笑う。

「まあ、暇と言えば暇ですね。」

「俺の弟子になれ。」

「はい?」

 弟子?なんの?あの日の光景が蘇る。声もあげず倒れる男たち。倒れた後に男たちを染める黒い影。同じ色で染まったナイフを片手に、平然と会話をする鳶。鳶は喋れないはずなのに、目の前の鳶はしゃべる。

「おまえは才能があるよ。頭の回転も速そうだし、運動神経も悪くない。なにより、何にも動じない、その度胸だ。俺はそれを身につけるだけで数年かかったぞ。まあ、命を奪え、とまでは言わないさ。強くしてやるよ。」

「いやです。」

 物騒なことは御免だ。俺は迷わなかった。身体を横に動かし、そのまま通路に出ようとする。幸い、店の出口は男のいる側と反対側にある。男の横を通る必要はない。

「おまえは、俺の顔を見ている。俺の仕事も目撃しちまった。なのに、今まで生き延びてきた。これが何を意味するか、分かってんだろうな。」

 立ち上がろうとするとき、鳶の鋭い声が飛んでくる。またその脅しか。さすがに、これ以上はこの男に関わってはいけない。この男の言葉に耳を貸すな。そう思うが、動くことが出来なかった。

「おまえはもう、俺の弟子になるしかないんだよ。人生なんて、そんなもんだ。みんな、望まれて生まれたとしても、望んで生まれたわけじゃあないし、人生設計も自分で設計できるのはほんのごく一部だ。実現するのは、さらにその一部だ。それとも、おまえも可能性は無限大だって思っているくちか?」

 それは、説得の言葉なのだろうか。だから、あきらめて物騒な世界に入れ。逃げられはしない。そう言っているのだろうか。

「俺の未来を奪わないでくれ。」

 さんざん悩んだ挙句、心にもないセリフが出てきた。元からそんなものなんてないじゃないか。ひたすら本を読んで、だいたい世界はこんな感じかな、と想像しているだけの日々だ。

「どうせ、そんなものないんだろ。おまえはそんなものに目を向けちゃいない。多分、おまえは周りなんか見ずに、自分を見つめて、何で世界はこんなに空っぽなんだろう、と首を捻っているタイプだ。」

 そうかもしれないし、そうじゃない気もする。確かに、感情のないということは、自己中心的であることと両立するのかもしれない。ただ、だからといってそのことを不思議に思ったことはない。それすらも、そういうことになっていると諦めている。ただの現象にすぎない。

「どうして俺の邪魔をするんだ。俺は誰にも迷惑をかけていない。放っておけばいいだろう。なんで、おまえは俺に手を出した?」

 鳶は目を細めると、後ろ髪をかき乱す。面倒臭いな、とでも思ってくれただろうか。

「まあ、即決することは出来ねえよな。せめて、忙しくならないでくれよ。そのうち、おまえは決断する。断言しよう。近いうちに、おまえは俺の弟子になる。俺の弟子になって、俺を超える。」

 話は終わったのか、鳶は黙り込んでしまった。帰っていいのだろうか。俺はおそるおそる、立ち上がる。何も起きない。数歩歩く。何も起きない。振り返る。男は笑う。作り笑いだろうか?


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