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HAWK  作者: 大藪鴻大
8/19

都市伝説

 今回の物語から、サブタイトルを毎回考えているのですが、なかなか読者の方の興味を引きそうなタイトルが思いつきません。今回も、考えに考えた末にこんなサブタイトルになってしまいました。

 前回まで、タイムトラベルの話をしていましたが、考えれば考えるほど疑問が生じ、話が複雑になってしまいそうなので、ここで一度終わりにしたいと思います。最後に、ひとつだけ付け加えておくと、私の考えでは、たとえ将来、タイムマシンが完成して未来人が過去に飛んだとしても、別の時間軸が生まれるだけで、その未来人のいた時間が消えてしまうということはありません。

 

 タイムトラベルの話と称して荒唐無稽な話をしてきましたが、何かのきっかけになればいいな、と思っています。次回からは、もっとラフな感じの雑談をしていく予定です。

それから、何も変わったこともなく日々が過ぎていった。いや、変わったことはあった。鳶に会った次の日、いじめられていたあいつは転校し、いじめていた二人組は、行方不明になったと話題になった。家出しただの、誘拐されただのいろいろ噂されていたが、結局、その二人組は見つかったかどうかも定かにならないまま、皆も徐々にそのことを忘れていった。鳶の言った通り、本当に忘れてしまった。俺も忘れた方がいいのだろうか?


春が訪れ、俺は高校入試を難なく突破し、地元で有名な高校に入学した。養い親は、まるで自分のことのように喜んだ。それを見て、自分の成果を喜んでもらうのも悪くはないなと思った。

 鳶とは、あの後一回だけ会った。いつかと同じように、マンションの公共出入り口に立っていた。学校のことを聞かれるかと思っていたが、鳶は、今、暇か、と聞いてきた。そのころ、入試も間近であったため、そのことを伝えると、じゃあ、無事高校に入学したらまた来る、と言い残して去っていった。それ以来、鳶には会っていない。

 中学の卒業式の日、俺はなんとなく美術室を訪れた。いつか描いた、光の絵が気になったのだ。残っているかどうかも分からなかったが、意外に簡単に見つかった。真っ黒いカンバスの真ん中に、光が放射状に広がっている。とても、光には見えなかった。光を描くにしても、もっと効果的な手法、たとえば、コンクリートの部屋に差し込む昼の日差しなどの方がはるかに光らしい気がした。俺は、机に置きっぱなしになっていた黒の絵の具を手にすると、その光を塗りつぶした。

 高校に入学しても、俺の生活は何も変わらなかった。俺は中学と同じように、一人で本を読んで過ごしていた。みんな初めのうちは、友達をつくるためか俺に話しかけてくるやつらもいたが、それも中学のとき同様、一ヵ月も経つと俺に話しかけてくるやつはいなかった。一人を除いて。

「君も同じ学校だったんだあ。ねえ、これって運命じゃない?」

 いつかの女だった。ある日突然、友達になりたいと言い寄ってきて、ひたすら俺に話しかけてきた女。入試期間以降、大人しくなったと思っていたが、まさか、同じ高校に入学したとは。

「やっぱり、私たち、友達になるべきなんだよ。」

「友達になりたいんだったら、そっとして置いてくれ。」

「それだと、友達って言わないでしょ。」

 人の気持ちも察することの出来ないやつの、どこが友達だ。彼女は、今のやり取りも友達としてのコミュニケーションと勘違いしている節があるのか、どこか満足げな顔だった。

俺は無視して、読書を再開しようとする。すると、本が見えない力で持っていかれる。彼女が本を奪い取っていた。

「うちの学校で、行方不明事件があったじゃない?」

「返せ。」

「君が関わっているんじゃないの?」

 そう言われれば、そうだ。直接は関わっていないが、直前まで一緒にいたのは間違いない。しかし、そこのあたりの経緯を彼女に説明しても無駄な気がするので、返事をしないことにする。

「やっぱり、君が烏?」

 烏?なぜ、その単語が出る。思い返せば、彼女は今までにも何回か、烏がどうたら、と口にしていた気がする。偶然ではないだろう。だとすると、この女は何者なのだろうか。

「何を言っているのか、さっぱりなんだが。」

 そう言った時点で、俺が動揺していると相手に悟られるのではないかと思った。普段の俺なら、何も言わないはずだからだ。

「烏って言ったら、あの烏だよ。都市伝説で有名な。神隠しのやつ。」

 女は、躊躇することなく言う。何かを隠そうとしている素振りもない。もしかして、本当に都市伝説なのか。

「黒い羽を残すってやつか。」

「そうそう、それそれ。なんだ、知ってるんじゃない。昔、小学校のときぐらいに流行ったでしょ?」

 そうだったのか。周りとつながりの薄かった俺だが、学校の流行は把握しているつもりだった。だが、都市伝説みたいなものになると、一部の人間の間にしか流行らなかったのか、俺の耳には届かなかった。俺の耳に届いた都市伝説は、トイレの花子さんとコックリさんというあまりにも有名なものだけだった。

「ね。あの事件も烏の仕業だと思わない。」

 女が顔を近づけ、得意げな顔を見せる。香水の匂いが鼻につく。俺は少し混乱する。鳶とこの女。全く接点のないはずの二人だが、二人とも烏を知っている。鳶を信用するべきか、この女を信用するべきか。つまり、それに近いことは起きていると信じるか、ただの作り話だと一笑に付すか。明らかに、後者であるべきなのだが、俺には選ぶことが出来なかった。


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