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HAWK  作者: 大藪鴻大
6/19

他言無用

 物語そのもの以上に、前書きに力を入れているような気がするのですが・・・。

 それはさておき、前回の続きです。パラレルワールドにいる自分は「自分」ではない、という話で終わったと思います。そうです。簡単に言えば、別の時間軸にいる「自分」は、「自分と全く同じ存在であるにもかかわらず、自分の意識から独立した存在」というところでしょうか。

 「自分の意識から独立」と言われても、よくわからないと思います。一番近いイメージとしては、一卵性双生児です。遺伝情報が全く同じにもかかわらず、彼らは別々の意識を持ち、行動しているはずです。

 そして、別の時間軸上にいる「自分と全く同じ存在であるにもかかわらず、自分の意識から独立した存在」を証明する手段を考え(妄想?)ました。ドッペルゲンガーの存在証明です。続きは、また次回にしたいと思います。

 私の勝手な考えですので、「それは違う。」と反論なさる方も多いと思いますが、作り話だと思って読んでみてくれれば幸いです。

 男と倉庫の外に出る。車の通る音も虫の声もない夜だった。俺たちは世界から切り離されたのではないかという錯覚に陥る。

「さあて。どこから探すんですかね。探偵さん。」

 俺は黙ってあいつと通った道をたどる。根拠があったわけではない。しかし、あそこまで慌てていたならば、無意識に一度通った道を通るのではないか、と思っていた。男は黙って俺の後をついてくる。一緒に探すというよりは、俺を監視しているようだった。

 しばらく、来た道をたどっていると何か落ちているのが目に映った。近づいてみると、それがダークブルーのスポーツバッグだということが分かった。先程スーツ姿の男たちが持ってきたバッグだ。どうやら、ここまで逃げてきて、我を取り戻したらしい。自分の抱えている物がなんであるかを思い出し、投げ捨てていったのだろう。

 もうあいつを探す必要がなくなった。この後、あいつがさらにいじめられるか、逃げ切ったかは分からないが、これ以上必死になる必要はないと思っていた。

あとは、どうやって男から逃げるかだ。隙を窺うために、男に視線を送る。男はこちらを見ていなかった。何が気になるのか、スポーツバッグの辺りに視線を落としているようだった。

「帰るぞ。」

 男が言う。気のせいか、その声に先程の明るさがない。

「どうしたんですか?」

「どうしたって、怖くなったんだろ。だから、ここに投げ捨てていった。」

「そうじゃなくて、気になることでもあるんですか?」

 男がこちらを向く。風が吹きつける。男は微動だにせずに、こちらを見る。言うべきか言わざるべきか、頭の中で考えているのかもしれない。

「なあ、明日学校に行くか?」

 初め、男が何を言ったのかよく分からなかった。そんなことを聞かれるとは思っていなかったからかもしれない。この質問の意図はよく分からなかったが、少し遅れて、俺は頷く。

「だったらよ、今日は見逃してやるから、明日の学校の様子、俺に伝えてくんねえかな。」

 伝えるわけがないだろう。こんなに恐ろしい目にあっているというのに、わざわざ自分から飛び込む人はいない。とりあえず、今はこの男から離れるために頷く。

 途中まで送っていってやるよ。男はそう言って、あいつと待ち合わせた公園まで付いてきた。別れ際、男はこう言い残した。

「今日おまえが見たことは、他言無用だからな。」

 こんなことでいいのだろうか。しかし、男に言われなくても、今日の出来事は口にしないだろう。そういうふうに生きてきたからだ。


 自宅に帰ると、それはそれは大変だった。養い親が飛び出し、肩をつかんだかと思うと思い切り前後に振った。俺は、ごめんとだけ言い続けた。ごめんと言いつつ、隣の部屋から人が出てくるのではないかとヒヤヒヤした。しばらくすると、養い親が泣きながら抱きついてきた。俺の身体に顔をうずめ、泣いていた。涙で服が濡れる。

 奥を見ると、セイジが意味深な笑みを浮かべていた。何か勘違いしているようだ。どうやら、俺が例の彼女と一緒にいたと思い込んでいるようだった。実際、養い親から解放されると、セイジが同じ笑みを浮かべ、「充実してるねえ。」と話しかけてきた。俺は、そうだなと言って自分の部屋に入った。あんなに怖いことがあったというのに、あっという間に眠りに落ちていた。


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