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HAWK  作者: 大藪鴻大
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雉と鴇

 前にも述べた通り、この物語は、「Scare Crow」より過去の物語です。イメージとしては、十数年前です。読んでくださった方は、「この人物は、昔、こんな感じだったのか。」と思いながら楽しんでもらえると幸いです。

 さて、前回、パラレルワールドについて述べたと思います。そのことについて、私は面白いことを思いつきました。なぜ、未来人が存在しないのか、その仮説(それほど立派なものではないのですが・・・)を立ててみたのです。

 未来人が過去に飛んだとします。すると、その過去では、未来人が来る以前には存在しなかった「未来人がくる」という新たな可能性(選択肢)が生まれ、パラレルワールドが生まれます。

 つまり、いくら未来人がある時間軸(Aとします)上の過去に飛んできたとしても、そこから別の時間軸の世界に移行してしまうので、ある時間軸A上にいる人は、未来人を認識できないということです。だから、未来人は存在しないのです。

 ちょっと待って。いくら別の世界に移行しようとも、「自分」は「自分」だ。そもそも、パラレルワールドにいる「自分」はどうなっているんだ?そう思う方もいるでしょう。簡単に私の考えを述べると、物事を認識している「自分」は別の時間軸上には存在しません。その話は、また次回します。

「ちょっと。君、何してんの。」

 その声は、この場の三人の誰かが発したものではなかった。男が振り返り、倉庫の入り口を見る。少女が腕に噛みつこうとするが、それを見ているかのようにナイフを首に突きつける。もはや、銃口を向けている俺に対しては無関心だ。

「なんだ。現場まで来たのかよ。よくここが分かったな。」

 その口ぶりからすると、男の仲間らしい。女性が男に近づく。女性は若いとは言えないが、顔が整っており、スタイルもよく、女性としての魅力が衰えているとも言えなかった。

「そりゃあ、それが私の特技だからね。それで、雉は?」

 女性が腕組をし、首を傾け尋ねる。ここにいるぜ、と男が女性に少女を見せる。女性は少女を見ると、安堵の表情を浮かべた。まるで、家出した少女を見つけた母親のような表情だった。女性は少女に近づくと、こんにちは、と言って微笑む。男が邪魔になって、そのときの少女の表情を見ることは出来なかった。

「怖い思いさせてごめんね。私、鴇っていうんだ。このお兄さんに、あなたを見つけるようにお願いしたんだけど、このお兄さん、デリカシーがなくて。」

「おい。言っとくがこんなことになったのは、こいつのせいだからな。こいつが敵の真ん中に突っ込んでいくから、こんなことになったんだ。」

 男が俺を指さす。そこでようやく、拳銃を下ろすことが出来た。極度の緊張のせいか、腕の筋肉が疲れ切っていた。女性が、男の身体から顔をのぞかせる。

「この子、誰?」

「俺のターゲットを横取りしようとしやがった。こいつもプロだよ。いや、プロじゃないな。駆けだしってところだな。何の考えもなしに敵に突っ込むわ、簡単にターゲットを手放すわ。そんなんじゃあ、長続きしないぞ。」

 男がこちらを向き、説教を始める。説教をされても、一体この人たちが何の話をしているのかはっきりしなかった。女性と視線が合う。女性が首を傾ける。

「君、名前は?」

 素直に名前を言うほど、愚かではない。この人たちが何者であれ、物騒な人であることには変わりない。そんな人に情報を与えたくなかった。だったら、逃げ出すべきじゃないか。そうだ。逃げよう。足に力を込め、走り出す。男の横を通り過ぎるとき、腹部に衝撃が走る。息が出来ない。その場でうずくまる。

「さっき拳銃奪っていたときの方が反応よかったなあ。まだ、気緩めちゃダメだろ。それより、せっかく質問しているんだから、答えろよ。」

 さっきといい、今といい。この男の視界は一体どうなっているんだ。草食動物みたいに、後ろ側まで見えているんじゃないか?

「たぶんこの子、プロじゃないよ。」

「だから、そう言ってんだろ。駆けだしなんだよ。」

「違うよ。この子、一般人だ。」

 「なに?」と怒っているのか、驚いているのかよく分からない男の声が聞こえる。胸倉を掴まれたかと思うと、無理やり立たされる。男が顔を覗き込む。フードの奥の顔が微かに見えた。薄い唇に、やや釣り上がった目が印象的だった。まだ若い。せいぜい二十代後半くらいだ。

「なるほどな。道理で、やり方が滅茶苦茶だったわけだ。じゃあ、なんでこんなところにいるんだ?」

「同級生がいじめられているって聞いて。ここに呼び出されたって聞いたから、せめて近くにいてやろうと思って。そしたら、あのスーツの三人組が現れて―」

 俺にしては、よくしゃべるな。そのことに気がつくと、なぜだか情けなくなり、話の途中で口を閉ざした。

「いじめ?麻薬を運ぶことがか?おまえ、嘘ついてんじゃねえだろうな。」

 男が再び胸倉をつかむ。そんなこと言われても、本当なのだから仕方がない。女性は少女と一緒に床に転がっている男三人を見下ろす。

「麻薬って、本当なの?」

「それは、本当です。私、その手伝いをしに来たんですから。」

 少女は女性に心を開いたのか、女性の側に立ってそう答えた。

「で、その麻薬はどこにあるの?」

 それならそこに、と俺は胸倉を掴まれたまま、スポーツバックの置いてある場所を指す。

「なんもねえぞ。やっぱり、おまえ嘘ついてるな!」

 そんな馬鹿な。俺は慌てて振り返る。確かに何もなかった。少し考える。そして、結論が出る。まさか―

「まさか、持って行ったんじゃあ―」

「あらら。どうしましょ。」

 女性が間の抜けた言葉の割に、冷静につぶやく。

「探さなきゃ。」

「いいんじゃね、別に。おまえ、何の関係もないわけだし。面倒なだけだぞ。」

 男の返事は投げやりだった。俺が依然として嘘をついていると思っているのかどうかはよく分からなかったが、そもそも関心がなくなったように思えた。一言で表すならば、飽きた、だ。

「だけど、放っておくわけには―」

「おまえ、立場分かってんのか。目の前で何が起きたか思い出してみろ。」

 男がそう言うので思い出そうとする。少女に拳銃を突きつけられ、スーツ姿の男たちに銃口を向けられ、少女から拳銃を奪った。そして、フードを被った目の前の男が現れ、少女を渡せと言われ、鴇という名の女性が現れた。ただ、それだけだ。それを告げると、男は首を傾け、大きな溜息をつく。

「おまえ何者だよ。少しは怖がれよ。これだから最近の若者は困るよ。自覚がないんだ。」

「怖かったと言えば、怖かったです。それより、早く探しに行かないと。」

 男が舌打ちをする。このガキ、面倒くせえよとつぶやくのが聞こえる。

「姉ちゃんはその女連れて帰ってくれ。報酬は約束どおりな。」

「もちろん、そのつもりだけど。君はどうするの。」

 女性が意味深な笑みを浮かべて、男に尋ねる。答えは分かってる。そういう表情だ。

「俺はこのガキと、バッグ持って行ったやつを探しに行く。」


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