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HAWK  作者: 大藪鴻大
2/19

孤独な少年

 このあたりは、会話が少ないですね。主人公の設定上、こういう表現方法もいいのかなと思って試してみたのですが、どうでしょうか?

 後々、はっきりしてくると思うのですが、この物語も「Scare Crow」と世界観が全く同じです。「こんな話しか書けないのですか?」とか、「こんな話が好きなんですか?」と言われてしまいそうですが、そういうわけでもありません。たまたま、これを書いていた頃、この物語がうまく書けたといえばいいのでしょうか。

 また、今回も最後におまけコーナーを設けたいと思っています。貢献したいと思ってくださる方は、感想かなにかでコメントをくださるとありがたいです。ご協力お願いします。

学校で、俺はいつも一人だった。部活動も美術部で、一人で絵を描いていた。成績が優秀であったためか、何人か無理をして話しかけてくるやつもいたが、それもすぐになくなった。何を言っても、表情を変えず、「ああ。」とか、「いや。」しか言わない人間とコミュニケーションをとるのは極めて困難だ。

何をそんなに必死になっているんだ。そう思いながら話を聞き続けていると、皆必ず苦笑いになっていった。苦笑いをし、さりげなくその場を立ち去る。俺は再び本を読み始める。文芸部があればよかったな、と思ったこともあったが、結局は現状と何も変わらないのだろう。変えるつもりもなかった。

そんな俺だったから、暴力やいじめなどとは無縁だと思っていた。無視をされても、直接手をくだされることはない。しかし、見えるものは見えてしまう。見ないふりをしても、見えてしまう。

俺の通う学校にも、いじめられているやつがいた。自然界に食物連鎖という抗うことのできない暗黙のルールが存在するのと同じように、学校にはいじめが存在する。紛争がなくならないのと同じように、いじめはなくならない。いじめの現場を目撃してなくとも、外見も精神的にもボロボロになって席に座っている姿を見れば、いじめられているのは一目瞭然だった。

なぜか、俺はそいつに話しかけていた。もしかしたら、不条理に阻まれたそいつと自分が重なったせいかもしれない。そいつを救う気は微塵もなかった。救える気もしなかった。

もちろん、もともと無口だった俺だ。そんなに上手くコミュニケーションがとれるはずもなく、会話は五分も持たなかった。時折、周囲の訝しげな視線を感じていたが、気にしなかった。

何度かそいつと話しているうちに、そいつも徐々に心を開いてきた。心開いたところで、そこから溢れてくるのは、いじめに対する苦しみだけだった。ある日、どんな脈略があったのか覚えていないが、そいつがつぶやいた。

「誰か助けてって叫びたいのに、叫べないんだ。まるで、見えない手で口を塞がれているみたいに、息苦しくなって声がでなくなるんだ。」

 「そんな馬鹿な。」とも、「だからどうした。」とも思わなかった。いじめられた経験のなく、感情もないはずの俺だったが、そいつの気持ちが分かった気がした。

「暗闇の中で手を伸ばしても、向こう側からは見えない。自分が手を伸ばしているのかどうかさえも、はっきりしない。おまえが言いたいことは、そういうことか?」

 そう言うと、そいつは驚いたように目を丸くすると、そうかもしれない、とつぶやいた。何かに安心したかのような様子だった。


その日、俺は美術室に入ると、書きかけのカンバスを台からはずし、名も知らない先輩が残していったカンバスを立てかける。この学校の美術部は、経費削減のためか、代々先輩が描いたカンバスの上に上書きするというのが主流だった。そのためか、一人で何枚カンバスを使おうが、文句を言われることはなかった。

俺はまず、黒でカンバスを真っ黒にし、そこに黄色や白を駆使し、色を塗っていった。何を書こうとしたのか。簡単だ。闇の中の光を描こうとしたのだ。浅はかといえば、浅はかなのかもしれないが、あいつの話を聞いた後、闇の中の光がどんなふうに見えるのか、俺がどう感じているのかを知りたくなった。名前も知らない画家の模写よりも何倍も意味があるように思えた。

一体何を描いているんだ。光です。美術部の先生との会話はそれだけだった。俺は一日そのカンバスに向かっていたが、結局、闇の中の光が一体何なのかは分からずじまいだった。きっと、明日にでもこのカンバスには別の絵が描かれているのだろうな。そう思いながら、カンバスをはずし、前に置いてあった描きかけのカンバスを台に置いた。机の上に果物が置いてあるという、ただ色彩を学ぶためだけに描いている絵だった。


 それから、季節が移ろい、春になった。俺は相変わらずの好成績で三年になった。二年の終わる直前にあった保護者面談では、入試は問題ないでしょうと担任が養い親に報告していた。養い親は、嬉しそうにこう言った。

「この子は、真面目ですから。自慢の息子です。」

 正確には、息子ではないのだが。担任もそう思ったのか、愛想笑いを浮かべていた。でもまあ、そう思って満足しているなら、それでいいか。世話にもなっているし、少しくらい、いい思いをしてもらってもいいだろう。

 その時期になると、俺は一人の女性に告白された。告白というのか、何というのか、よく分からないが、彼女はこう言った。

「私、君のことずっと気になってたんだ。よかったら、友達になってよ。」

 「ああ。」とも、「いや。」とも言わなかった。勝手にすればいい。そう思っていた。そのうち、諦めるだろう、と高をくくっていたところもあったかもしれない。それが失敗だった。

 彼女はしつこかった。俺を見かける度に、話しかけてきた。趣味は?美術部だよね?ということは、絵を描くのが趣味なの?そういえば、よく本読んでるね。本を読むのが趣味なの?ねえねえ、カラスって知ってる?俺は、ことごとく無視した。無視しても話しかけてきた。非常に邪魔だった。おかげで、恋人付き合いをしているやつらの気持ちが分からなくなった。一体何がいいんだ、と思った。いや、俺がいま直面しているこれは、恋愛とは言わないのかもしれない。

 そのことを、養い親に相談してみた。鬱陶しい同級生がいる。どうすればいいんだ、と。まず、それに反応したのはセイジだった。

「タカ兄ちゃん、そりゃあ、我儘でしょ。せっかく彼女が出来たんだから、楽しまなきゃ。」

「いや、邪魔なだけなんだ。」

 俺の一言にセイジは信じられないというように、口をポカンと開けている。

「でもいいじゃない。その子が誤解しているのはともかく、話し相手が出来て。コミュニケーションのリハビリだと思えばいいじゃない。」

「たぶん無理だ。」

 彼女は自分の言いたいことしか言わない。おそらく、俺が何か喋ったとしても、聞いてはくれないだろう。あいつは、俺を人形か何かだと勘違いしている。

彼女がいくらまとわりついていようと、それ以外に大きな変化はなかった。例のあいつは二年のときと変わらずにいじめられているし、俺は三年になっても、俺の成績は相変わらずだった。さらに、全国模試とやらで俺の成績の良さが強調された。皆、陰ながらすごいと称賛し始めたり、どうせ勉強しか出来ない、と妬み始めるやつらも増えてきたが、全く気にならなかった。誰が何と言おうが、そんなことで成績が上下するはずがない。


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