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HAWK  作者: 大藪鴻大
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無口な少年

 初めての方、はじめまして。そうでない方、ありがとうございます。大藪鴻大です。

 先日、活動再開をして何日たったのでしょうか。お待たせしました。本日から、また連載をします。

 今回の物語は、「Scare Crow」のスピンオフで、鷹の過去の物語です。(以前「勢いで書いた」と言っていたものです。)「Scare Crow」を読んだという方ももちろん、まだ読んでいないという方にも楽しんで(?)いただける物語になっています。ただし、いきなり物騒な描写から始まってしまうので、その点は本当に申し訳ありません。

 また、今回も前書きはできる限り充実したものにしていきたいと思っていますので、お付き合いのほどよろしくお願いします。

 それでは、前回の連載ほど長くはならないと思いますが、「HAWK」をよろしくお願いします。

「人を殺さないと生きていけない?笑わせるな。」

 目の前で小刻みに震える男を見下ろす。包丁の刺さった胸からは、赤黒い液体が音も立てずに、ゆっくりと流れ続ける。血がログハウスの床を染める。醜い。そう思った。

 返り血を浴びた手が生温かい。俺は、男の血で染まった自分の手を見つめた。俺は汚れていく。その血は洗い流されることはない。これからも、ずっと。俺は汚れ続ける。

「汚れるのは、俺だけで十分だ。これは俺だけの使命で、義務だ。そうだろ。」

 俺は振り返る。その視線の先には、黒いコートを着た男が立っていた。男は困ったように肩をすくめる。

「まあ、そう思いたいなら、そう思えばいいさ。」

 黒いコートを着た男が、地面に転がる男の側に近寄り、しゃがむ。男の顔を覗き込むと、笑みを浮かべた。

「見ろよ。苦しそうだ。こんなことしなけりゃ、苦しまずに済んだのによ。」

 想像力が欠如しているんだ。コートを着た男は、そう言うと再び立ち上がる。俺は、身動きしないもう一つの身体に近寄る。

 そこにいたのは、子供を抱えた母親。しかし、それはもう生命としての機能を失っていた。まるで、剥製のようにピクリとも動かない。もう、生きていない。

 死んでしまったのは、俺の方かもしれない。いや、思えば随分昔から、この男と出会う前から、俺は死んでいたのかもしれない。



 俺は、無口な少年だった。大人しい子、お利口さん。そう言われたこともある。無口な上に、無愛想だ。そう言われたこともある。確かに、そう言うこともできるだろう。しかし、本当に俺のことを言い表すとすれば、一言で済む。無感情。それだ。

 俺には、感情がない。不感症というやつだ。感情がないから、何も話さない。話しても仕方ないだろ、とそれこそ言葉を話し始めたときから思っていたのではないかと思うくらい昔からそう思っていた。

 俺に、本当の両親はいなかった。気が付けば、俺と似た境遇にいる子供が集まる施設にいた。無口なためか、友人も貰い手もなく、そのまま施設で育ち、小学校に入学した。このまま、中学を卒業してしまうのではないか。そう思っていた矢先、ようやく貰い手が現れた。

 どうして、いまさら貰い手が現れたのか、よく分からなかった。もしかすると、成績が優秀だったからかもしれない。貰い手が現れたという知らせを聞いたその日も、いつも通り、俺は一人本を読んでいた。断って施設に留まることも出来たが、そうはしなかった。施設の職員が、早く施設を出てほしいと仄めかしていたからだ。

 別に留まる理由もなく、中学を卒業したら施設を出ていくつもりではあったので、俺は中学生で施設を出ることにした。決意というほど強い思いがあったわけではない。ただ、そういうことになっただけだ。

 貰い手は、シングルマザーだった。俺よりいくつか年下の男の子が一人いた。一応、少し古くなったマンションの部屋を持っていたが、経済的にも裕福とはいえなかった。俺を引き取ることになった経緯については、聞かなかった。そんなことはどうでもよかったからだ。俺は、本さえ読めればいい。

 こんな風に、俺は少し風変わりだが、平穏な日々を過ごしていた。



 「タカヒロも、そろそろ高校入試のこと考えなくちゃね。」

 俺は、自分の名前がタカヒロであったことを忘れていたため、反応に少し遅れた。ここでの生活をはじめてまだ数週間だったため、慣れないところがあった。養い親は何を勘違いしたのか、笑みを浮かべる。

「ほら、やっぱり今の時代中卒っていうのも、あまり印象がよくないと思うのよ。タカヒロは頭もいいし、せめて高校までは勉強していてもらいたいのよ。大丈夫。お金なら十分にあるから。」

 そうか。高校か。高校に入れば、もっといろいろな知識を学ぶことが出来るのだろうな。それはそれで悪くない。経済的にもそれが可能だということは、この数週間の生活で分かっていた。この俺は養い親の言葉に頷いた。

「へえ、タカ兄ちゃん、高校に行くんだあ。頑張ってね。」

 あんたも行くのよ、と養い親が少年に笑いながら言う。「僕は、中高一貫校に行くもんね。」とどこか自慢げに返事をする。僕はタカ兄ちゃんより優秀なんだ、とアピールしたかったからかもしれない。確かに、セイジは頭がよかった。中学入試もそれなりのところには、問題なく突破できるだろう。俺は再び、本に意識を集中させる。

 引き取り先の家での生活は、そんなに不自由ではなかった。本もたくさんあったし、部屋も清潔だった。一緒に暮らしている少年も、俺を警戒する様子もなく、その母親も、まるで本当の母親のように俺に接してくれた。俺に感情があれば、ようやく報われたと涙を流して喜んだのだろう。

 しかし、そこでの生活を続けているうちに俺の心を占めていたのは、別の考えだった。

 人はどうせ、いつか死ぬ。死んだら、そこには何も残らない。なぜ、人はそれでも生きようとするのだろうか?なぜ、この養い親は俺のために無償の愛を捧げるのだろうか?特に俺の場合、死なずとも、そこには何も残らないのにだ。


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