蜃気楼の島
「イヤダ イヤダ」 「仕様が無いでしょう。父さんに急なお仕事が出来たのだから・・我がまま言ったら駄目よ」 今日は祭日です。ヒロ君は一週間も前から 今日を楽しみに待っていたのでした。「イヤダ イヤダ」 「何時までもそんな事いわないで」 「ヤダー母さん嫌い 父さんはもっと嫌いだ・・・」 外へ飛び出したヒロ君。 「お・ととっと なんだヒロ君・・どうした?」 近所のお爺さんが声をかけましたが 返事もしないでプイと走り去ってしまいました。 海へ一目散にきたヒロ君 しょんぼりと突堤に座り海を眺めています。口を真一文字に結び 必死に涙 をこらえる目にも うっすらと・・前がぼやけて・・。 おだやかな波が 次から次へ岸に運ばれてきています キラキラキラと・・・。???アレレ・・ 遠く水平線にモコモコと不思議なものが湧き出て ニョロニョロと形はくずれ 横長になったと思った ら 今度はニョキニョキとのびたのです。 突堤に立ち上がったヒロ君 目をこすり その目をいっぱいに広げ まばたきしないで まばたきする と消えてしまいそうだから・・。 そんなヒロ君の耳に声が飛び込んできたのです。 「フフフ驚いたか・・・ナーニあれはシンキロウだよ」 驚いたヒロ君 あたりをキョロキョロしましたが・・「誰・・何処にいるの・・・ねえ・?」 「フフフ・・ワシか ワシはつまり何だな・・そうアレと一緒で蜃気楼」「シンキロウ?」「そうだ蜃気楼といって 今日のように温かい日に起こる自然現象さ。どうだあの島 幻の島へ行ってみるか」 「ヱ・・」ヒロ君は驚き迷いました。でも今日は折角のお出かけが駄目になったので 「うん 行く」元気に答えました。「そうか・・・よし でも途中で帰りたいと言っても駄目だ それに行くのもお前一人だ それでも良いか」 少し考えましたが「うん いい」げんきに答え パチンまばたきしたヒロ君です。「?ヱェ・アァ・アー??」わけが分かりません。 ほんの一つまばたきしただけなのに その島に自分立ってがいるのです。 目の前に広がる真っ青な海 右を見ても左を見ても 今までに見たことも無い青く緑色に輝く海だけなのです。 ー本当に来てしまった・・どうしょうー チョッピリ不安になったヒロ君の耳へ 「さあ着いたぞ ここは日本から遠く離れた南の島。名も無い小さな島だ でもな小さくたって人は住んでる。さあ行ってごらん」 ヒロ君は声が聞こえてホット安心しました。そして元気よく歩き出しました。 しばらく歩いていると 向かい側からモジャモジャ頭に顔中髭だらけのお爺さんがやって来ました。 -どうしょう 怖そうだな 挨拶はどうする?日本語がわかるかなー そんな事を考えているうちにドンドン近ずいてきました。 「こんにちわ・・」ペコりと頭をさげました。するとお爺さん 立ち止まってヒロ君を睨み 太く長い眉毛をあげて 胸をドンとたたいたのです。 ーアレー怒ったんだー ヒロ君は咄嗟に逃げようとしました。 「ハハハ・・怖がる事はないさ 挨拶だよ あれがこの島の挨拶だ。お前の挨拶が通じたんだよ。これからお前もやればいい。フフフ・・なんだ挨拶が出来るじゃないか」 ヒロ君の耳に聞こえる‘耳おじさん‘の声。そうこれからは耳おじさんと呼ぶ事にしよう。 耳おじさんの言うように 近所のお爺さんに会った時のことを思い出したヒロ君。ーこれからは挨拶をしょうーと思いました。 高床式の家が並んで建っていました。その一軒の家の前で 女の人がなにやらこねています。傍にいる小さな男の子もお手伝いしています。 ヒロ君は早足で近ずき さっきの挨拶 びっくり顔して胸をドン。 すると子供も立ち上がり 胸をはってドン。通うじたのです。嬉しくなってきました。 今度は裸の女の人が 頭の上に物を乗せてやってきました。 ーそういえば この島の男の人はふんどしだけ 女の人は腰に布を巻いているだけの姿で オッパイは出ていますー「恥ずかしくないのかな・・」思わず声を出したヒロ君です。「恥ずかしくなんて無いさ 見てごらん 皆同じ格好しているだろう。お前の方がおかしぐらいさ さあ服を脱いでふんどし姿になって・・」 ふんどしなんて 今まで一度だってしたことありません。褌はお相撲さんがするものだとおもっていたから・・。ヒロ君何だか歩きにくそうです。 褌姿の大人たちが ブラブラしながら大声を出して 喧嘩しているようにも聞こえます。「いいなー楽チンだ」 ー祭日なのに仕事に出かけたお父さんの事を思い出したのですー 「楽チンに見えるか?何も好きでブラブラしているわけじゃない この島にあった たった一つの工場が無くなったんだ。仕事が無いってつらい事なんだぞ・・」 ‘耳おじさん‘の言うように 島の人々には これと言った仕事がありません。 でも 仕事が無くても食べるにはあまり困りません。海へ行けば魚が取れます。小さな畑もあります。だからと言って 仕事をしなくていいのでしょうか・・。「したくても出来ないのは辛い・・お前のお父さんが いつもブラブラしていたら嬉しいかナ?・・」 ヒロ君は黙って歩いて行きます。 幽霊屋敷のようになった工場の前に来ました。ヒロ君はジーと工場を見つめています。ー今朝の出来事を思い出すヒロ君ー 「・・ウン どうした・・」「なんでもない・・・」「ハハハ よしよし それでいい ハハハ・・ワハハハハ・・」ビックリしたヒロ君 目をパチリとした途端 あの突堤に戻っていたのでした。 キョロキョロと周りを見廻しますが 茜色に染まった空 キラキラ夕日に波が揺れている海だけでした。 「ヒロー・ヒロー」お母さんの声です。 「さあお帰り・・」‘耳おじさん‘の声がしたようでした。 「耳おじさん ありがとう」海に向かっていいました。「ありがとうーありがとうー・・」 「ヒローヒロー」 「おかァさーん・おかァさーん」 了