001
長く入院をしている間、俺には同居人ができた。
英城雄菜。小学五年生の元気な少女だ。
彼女には父親しかいない。母親は、数年前病気で亡くなってしまったらしい。
父子家庭。
それでも、彼女は笑っていた。とても、健気な笑顔だった。
もし、彼女が俺だとしたら、あんな風には笑えていなかっただろう。とても、気持ちの強い子だ。
彼女の病室のデスクには、いつもヒーローグッズが並んでいた。
父親がヒーロー好きであり、その影響を受けたとか。お気に入りは仮面ライダーらしい。小学五年生の女子にしては、とても珍しいタイプの子だった。
弟と妹が俺の見舞いに来た時は、よくヒーローごっこを病院の中庭でしていたようだ。なんでも、弟と妹が年下の彼女にダメだしをされていたとかいないとか。
とにかく、ヒーローには目がない女の子だった。
しかし、俺が退院する一週間前に、彼女は先に退院してしまった。
それから一週間後、俺は退院した。
更に三日後、五月二六日。
この場所に入る時、俺は確かに見た。ここは湯川東公園。
つまるところ、近所の公園だ。
俺が何故この公園へ来たのかと言うと、まあ、特に意味はない。
長い時間病院にいたから、もしかしたら、あるいは、外が恋しくなったのかもしれない。
目的もなしに、ただ目の前にあった公園に入ってみた。いや、もしかしたら目的があるのかもしれないが、気づいてないだけなのかもしれない。それとも、思い出せないだけだろうか。
とにかくだ、目的は何だっけ?
重大なような気がするが、そうでもないような気がする。
ひたすら一人、ベンチに座って考える。
滑り台や鉄棒などの遊具もあるが、もうそんな物で遊ぶ歳でもない。
最後にここで遊んだのは……何歳の時だったか?
いや……さっき逆上がりを久しぶりにしてみて、できなかったことに挫折したばかりだった。
公園には、俺しかいない。俺しかいなかったからこそ、逆上がりをすることができた。
こんな不甲斐ない姿、誰にも見られたくない。
見られたら、それこそ恥だ。
あれ?これってもしかして……。
フラグか?