008
「ヴァンパイア伯爵でしたか」
「そうだ」
俺の病室には、ナナミが見舞いに来てくれていた。しかも、丁寧なことにフルーツの入ったバスケットを持って。
「伯爵と言えば、かなりの強敵でしたでしょう。そのせいでこんな傷まで」
「いいんだよ。俺が引き受けたんだから」
「すみません……」
ナナミは無表情ではあるが、そこからは反省の念が伺えた。
「ところで、わたしと入れ替わりに出て行ったあの方は?」
「ああ……えっと」
少しだけ、言葉が詰まり。
「友達だ」
「そうですか」
七節迷花のことを、友達と呼べる日が来るとは、微塵にも思っていなかった。
このまま、一生関わることはないと思っていたのだから。
「ところでナナミ、本当にこの世界に現れたヴァンパイアは一人だけなんだよな?」
「そうですよ。ヴァンパイアは一人です」
だったら。だったら、七節迷花は、一体何なのだろう。
彼女もヴァンパイアのはずだ。しかし、時空の歪みで現れた訳ではない。
(「わたしのことを知りすぎないことね。これはわたしの為じゃない、あなたの為よ」)
一体、七節は何者なんだ?アイツは、何を隠してるんだ?
考えれば考えるほど、答えが分からなくなる。
本当に、本当に、不思議なやつだ。
「何を飲んでるんですか?」
「ん?これか?」
缶の中には、赤い液体が入っている。しかし、それは血ではない。
「トマトジュースだ。美味しいぞ?」
それは、ヴァンパイアの少女が置いていった、お気に入りの一品だった。