表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田中太郎物語  作者: レッドキサラギ
第一章 ヴァンパイアガール
7/24

007

 少し前。

 詳しく言うと、五月八日。

 その時七節は、この世界に居てはならない存在と出会ってしまった。

 吸血鬼。名は、伯爵。

 黒衣に身を包んだ紳士だったそうだ。

 この世にはもういないと思っていた。ヴァンパイアは、滅び去った種族だと思っていた。

 しかし、いた。自分と同じ、ヴァンパイアが。

 自分は、孤独ではなかった。

 気持ちは、満たされた。

 だがそこに、心の隙というものができてしまう。今まで固く閉ざしていた心は、あまりにも脆くなっていた。

 伯爵は、七節に近づいた。ある野望を抱いて。

 そして彼女は、心を許してしまった。

 伯爵という男を、受け入れてしまったのだ。親近感とは、そこまで人の心を緩くすることができ、信頼させることができる。

 人間を、容易く騙すことができる。

 そして五月九日、あの広場での出来事。

 伯爵がヴァンパイアのために提案したのは、全人類奴隷化計画というものだった。

 全ての人類を奴隷にし、餌とする計画。

 冷酷なヴァンパイアの伯爵だったからこそ、考えついた作戦。

 それを聞いた七節は、そこで気づいた。

 自分はこの男に騙されていた。巧く手駒にされそうになっていた。

 他人を信じたせいで、また他人を信じることができなくなってしまった。

 悔しくもない、怒りも込み上げてこない。

 ただただ……寂しかったらしい。



「あの時は人間不信になってたわ。もう二度と、他人を信じたりしないって心に決めたもの」



「…………」


 国立病院の一室。

 そこでは、七節の声だけが響いていた。



「今までだって一人で生きてこれたのだから、これからだって人に頼らなくても生きていけると思ったの。孤独を選ぶのはわたしの自由だし、誰にも迷惑なんてかけないもの。正直言わせてもらうと、田中君が出てきた時、腹が立ったわ。舌打ちはしなかったものの、踏み潰したいくらいにね」



「それ酷くなってないか?」



「レベルとしては一〇ある内の〇.五ね」



「最高レベルはどうなってるんだ!……いたた」


 ツッコミが傷に響く。

 シャーレに貫かれた俺の体は、重症だったそうだ。

 数分病院に運ばれるのが遅れていたら、死んでいた。それくらいに。

 今は集中治療室から抜けて、普通の病室にいるが、絶対安静。立つことさえも、許されない。

 胸のあたりは包帯で包まれ、ミイラにされたような気分さえ覚えてしまう。あまり気持ちの良いものではない。



「そろそろ田中君もツッコミ卒業ね。寿退社よ」



「俺はまだそんな歳じゃない」



「ツッコミに迫力がないわ」



「身体の傷のせいだ!イタタッ!」


 これ以上、体を苛めてまでツッコむのはよそう。体がもたない。



「でも田中君、わたしはあなたにお礼を言うわ」



「なんだよいきなり……」



「助けてくれてありがとう」


 七節にしては素直なお礼だった。

 ボケてもなく、ツンツンでもない、素直な言葉。



「あれは良いブザービートだったわ」



「……お前、それが言いたかっただけだろ」



「そうよ」


 訂正。礼儀なんてものは無かった。

 七節迷花というやつは、礼儀を惜しんでも、自分のウケを狙うことを優先にするらしい。ある意味根性が据わっていて、ある意味芸人魂のあるやつだ。



「ところで田中君、一つお願いしてもいいかしら?」



「何だよ急に……」



「わたしと友達になってほしいの」



「何だよ急に!」



「いや違うわ……お友達になってよね。いや、ブラザーになろうぜベイベーかしら?」



「もう原形が見当たらないところまでいった!」


 傷に響くけど、これくらい耐えられる。

 七節は今、それ以上に大切なことを、俺に 言おうとしているのだから。

 心の傷から解放されるための、第一歩。



「とにかく田中君、わたしと友達になりなさい」



「結局そこに治まるのか」



「嫌なの?」



「別に」



「じゃあ今後はわたしと田中君はお友達よ。メルアド寄越しなさい」



「早速かよ!」


 でも、まあ、結局のところはだ。

 七節迷花は、満面の笑みで笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ