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田中太郎物語  作者: レッドキサラギ
第三章 ファンタジーガール
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005

 七節が戻って来たのは、文化祭が丁度終わった直後だった。

 学校では、撤去作業が行われていたため、一般人は強制退場。

 仕方なく、行く宛ても無く校門の前で立っている俺を、七節は見つけたらしい。

 


「成程、だからこんな所で突っ立っていたのね」



「まあ、そういう事だ」


 ある程度事情を説明し、俺と七節は駐輪場へと向かう。

 それにしてもだ。



「なんか七節のジャージ姿って、新鮮に見えるな」


 紺色に、ピンクのラインが入ったジャージ。

 何と言うか、様になっていた。



「このジャージを着ることで、わたしの力は一二〇パーセントまで跳ね上がるのよ」



「お前のそれは戦闘服か!」



「サイヤ人仕様よ」


 伸縮自在という、あれの事か。

 しかし、肩パッドを忘れているようだが、まあいいか。



「しかし、本当に戻って来るのに時間掛かったな」



「前もって言っておいたでしょ。遠いって」



「まあ、な」


 それにしても、スクーターで往復三〇分だ。

 それなりに、距離はあると思う。



「ちょっと待てよ……という事は、この前公園に来た時も、それに今日も、そんな長距離を往復しているって事だよな!?」


 それに、俺と遠山の話を盗み聞きしていた、あの日も。



「心配は無用よ田中君。ここからは家の近所までの直通のバスがあるから」



「そうか……いや、でもなあ」


 交通手段があるのは良いが、毎回バスを使って、ここまで来てもらうばかりでは、こちらとしても心苦しい。

 このままでは、本当に甲斐性無しになってしまう。



「時々は俺がそっちの方に行くよ。そうしないと、不公平だろ?」



「ふうん、田中君にも、思いやりの心というものはあったのね」



「まあな。こう見えても、思いやりだけで生きてきた人間だからな」



「寂しい人生ね……」



「憐みの目を向けるな!冗談だよ、冗談!」



「とんだ茶番ね」



「素に戻った!」


 まあ、確かに茶番だった。

 くだらないと言えば、くだらない。



「でも田中君、その配慮は不要よ。正直、わたしの住んでいる場所は繁華街から遠いし、住宅しか立ち並んでいないの」



「そうなのか」



「その代わり、迎えに来てくれないかしら?その方が、わたしとしても助かるわ」



「迎えか……まあ、オッケーだ」


 そういえば、俺のスクーターって、二人乗り出来たんだっけ。

 いつも荷物置きにされているので、その本来の存在意義を忘れてしまっていた。

 乗せる人も、今までいなかったし。



「それに田中君、わたしはこの町、結構気に入ってるのよ」



「この町が?」


 意外な発言。



「だって、この町では色々と不思議な事が起きてるじゃない。興味があるわ」



「まあ……確かに」


 ヴァンパイア伯爵に、ダークヒーロー。

 必ずと言って良い程、時空の歪みの原因はこの町近郊に現れる。

 摩訶不思議アドベンチャーを体験したい奴には、うってつけの場所だ。



「という事で、しばらくはお世話になるわ、田中君」



「まあ、俺が言い出した事だからな」


 それに、ここで否定したら、どんな毒舌を浴びる事になるか、分からないからな。

 お茶を濁す。

 けっして、七節の前ではしてはならない。



「田中君の下手な運転は、少し心配だけど、きっと大丈夫よ」



「気持ちが濁された!」


 肯定しても、否定しても、結果は同じ。

 その先には、毒しかない。



「さてと、スクーターも止めたから体育館に向かいましょ、田中君」



「そうだな……」



「どうしたのかしら田中君?顔が干乾びているわよ」



「俺は海藻じゃない!」


 日干しにすると、水分が抜けて干乾びる。

 心の潤いが、俺には抜けていた。

 干し人間。



「でも田中君、わたしはあなたに感謝しているわ」



「何だよ急に」



「そうね、田中君のおかげで、人嫌いでは無くなったわ。少し、他人に興味を持てるようになったってところね」



「他人に興味をか……」


 俺のおかげかはとにかく、七節は確実に成長していた。

 人嫌い。

 何故そうなったのか、経緯は分からないが、心の病はそう簡単に治るものではない。

 人を拒み、疑い、関係を持つ事を恐れる。以前の七節は、きっとそんな人間だったのだろう。

 けれど、七節は変わる事が出来た。短期間で、克服までとはいかないが、それなりに人とも接するようになった。

 もう、初めて話した時の七節とは、違う。



「じゃあ、今は人嫌いじゃなくて、何なんだよ」



「そうね……」


 七節は、いつもの澄まし顔ではなく、上品に微笑してみせる。

 おそらく、俺だけが見た、七節の顔だ。



「人見知り、かしら?」

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