第二章 春はお嬢様と共に訪れる
その日はとても天気がよかった。
隣の家は朝早くから家族で出かけたらしい。
高校受験という呪縛から解放された中学生はそれぞれがクラスの打ち上げや何やらで大忙しだ。
1週間前に中学校の卒業式を終えた柏木 竜也もその1人である。
と言っても竜也は私立専願で受験したので2月には受験を終えていた。
竜也と仲の良かった友達も同じ頃に受験を終えたので、ずっと2人で遊んでいた。
そして、他のみんなも受験が終わり、今日はクラスの打ち上げ会だ。
参加、不参加は自由だが、竜也はこういったイベントは嫌いじゃない、というか大好きである。
竜也のクラスの打ち上げはカラオケ大会に決まった。
みんなで電車に乗って遊園地に行くという案もあったが、春休み中だから電車も混むだろうし、遠出になると親が許してくれない、という人が出てきた。
それならカラオケでどんちゃん騒ぎやろう、となったわけである。
竜也は朝食を済ませ、外出の準備を始める。
歯を磨き、顔を洗う。
ファッションセンスの悪い竜也のためにと、妹の買ってきてくれた服に着替える。
立ち鏡を見て竜也は思わずにやけてしまう。
「なかなかかっこいいじゃん」
1人で呟き、妹に感謝する。
寝癖でくしゃくしゃになった髪をセットし、準備完了だ。
集合時間までに集合場所に行くには少し余裕があるようだ。
しかし打ち上げにテンションの上がっている竜也はもう家を出ることにした。
竜也は集合場所に向かい川沿いに自転車を走らせる。
花見スポットであるこの川沿いの桜の木は少し早めに満開である。
きれいだなぁー
竜也がそんなことを思っていたその時・・・・・・・
ドォン!!
何かが爆発した・・・・・・?
ビリビリと大気が震えている。
竜也は驚きのあまり自転車を倒し、地面に放り出された。
何が起こったのか。
わけのわからないまましゃがみこんでいる竜也の目の前をピンクの紙吹雪が舞っていた。
いや、違う。
桜だ。
桜が舞っている。
竜也は桜の木に目を配る。
そして驚愕した。
竜也の後ろに立つ桜の木の枝の部分、花が咲いているはずのところにぽっかりと大きな穴が空いていたのである。
わけがわからなかった。
何が起こったというのか。
「三沢~!!」
どこからか声がした。
竜也は声のする方を見た。
そこには自分と同じくらいの歳の少女が立っていた。
「三沢!! お前何をやっている~!!」
少女は川の反対に向かって叫んでいるようだ。
竜也は少女から目を離し、対岸に目をやる。
そこにはいかにも高級そうな1台の黒い車と白い髪に白い髭をはやしたスーツ姿の老人がいた。
「申し訳ございません、お嬢様!!」
老人も叫ぶ。
「バズーカの種類を間違えておりました!!」
何と恐ろしい会話をしているのか。
「まったく、奴にもついにボケが始まってしまったか・・・・・・ん?」
少女が竜也に気付いたようだ。
「ど、どうも・・・・・・」
竜也は少女を見上げて一応挨拶をする。
「しまった・・・・・・一般ピープルを捲き込んでしまったか・・・・・・!!」
少女は顔を歪め、髪をくしゃくしゃとし、何かを考え込んだ。
「また、お父様に叱られてしまうだろうが、仕方ない」
少女はそう言うと竜也をキッと見下ろす。
「お前、私と一緒に来い」
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