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ビニール傘

作者: あると

雨が降ると、彼女は沈んだ顔になる。

道の真ん中で座り込んでしまうこともあった。


スカートが濡れてしまうよ、と声を掛けても、彼女は顔を上げない。

そう言うときは、たいてい泣いていた。


少しすれば、私の心配をよそに、また歩き出す。


彼女はいつもビニール傘だ。

彼女の年頃なら、鮮やかな色のものや、花柄などが似合うはずなのに、透明の傘を手放さない。


どうして、と彼女の友達が聞いたことがある。

彼女は、周りがよく見えるから、と答えた。


私は胸を締め付けられた。

ビニール傘を好む本当の理由を知っていたからだ。


あの日、彼女はおろしたての傘を楽しそうに回していた。

夢中な彼女に、危ないよ、と言っても、大丈夫だよ、という返事しかなかった。

ずいぶんと、新しい傘を気に入ってくれたようだ。プレゼントした甲斐があった。


その直後のことだった。

雨でスリップしたトラックが私たちに突っ込んできた。


私は彼女を突き飛ばした。

若葉色の傘と、透明の傘が空を飛んだ。


彼女は青い顔で濡れていた。

大丈夫か、と声を掛けたが、彼女の目は雨よりも多くの涙を流していた。


それ以来、彼女は透明の傘を使い続けた。

彼女が言うように、周りがよく見えるからなのだろう。


でも、私のことは見えないらしい。

しかたがないことだ。


雨が降ってきた。

一人でいる彼女のそばで、私は今日も見守る。


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― 新着の感想 ―
[一言] 意味がわかった時鳥肌立ちました
[良い点] 短い中にもちゃんとドラマが仕上がっていてよかったです^^
[一言]  始めまして。  なんか、最初は寂しいのに  途中まで悲しいのに  最後であったかいなぁと思いました。  疎い文ですみません   長文失礼しました。では。
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