災害級聖女の旅[※旅先各国は要警戒。対応を誤ると国家消滅の恐れあり。]
私の名前はリナ。かつて私は地球の日本という国でごく普通の女子高生をしていた。
それが何の因果か今はファンタジーな異世界で聖女をやっている。
転移魔法で召喚されて早一年。魔獣と戦う人類のためにひたすら聖女として力を尽くしてきた。
いや、厳密に言うならひたすらじゃない。正確には、有給休暇ありの週休二日制で聖女として力を尽くしてきた、だ。
日本からの転移者は私以外にも世界各国に大勢いて、皆で連携して自分達の権利を保護する労働組合を設立した。私達転移者は人類が魔獣に勝つまで元の世界に帰還できない。さらに、この魔獣との戦争は数年掛かるようなので、無事に帰還するために健全な労働環境は必須だった。
そんな背景があって、近頃人類のために働き詰めだった私は有給休暇を使うことに。
現在、奪われた青春を取り戻すべく異世界旅行のまっただ中にあった。できれば恋愛もしてみたい。
「うーん、『社会福祉? 何それ?』なブラック異世界だけど、唯一の救いは食べ物が美味しいことだよね」
呟きながら私は先ほど買ったハンバーガーにかぶりついていた。
それから、携帯していた地図を広げる。
私は今、とある王国の王都にいる。なかなか大きな町だけど、どうも物騒な雰囲気が漂っているような気が……。
気になったので調べてみることにした。
魔力を耳に集中させて聴力を強化。町の人々の会話に耳を傾ける。
……なるほど、この国は先日国王が逝去したらしい。それで、第一王子が王位を継承したようなんだけど、これを認めない第二王子が蜂起。両派閥を巻きこんで大きな紛争に発展してしまっているのだとか。
はぁ、今日はこの町で宿を取るつもりだったけど、早々に出発した方がいいかも……。
人類はその存亡を懸けて魔獣と戦争をする一方で、内部ではまだ人間同士での争いをやめられずにいるようだった。
思わずため息が出たその時。
「いてっ」
私の頭に、飛んできた何かがカンッと当たった。髪の中を探って引っついているそれを手に取る。
「ひしゃげた鉛玉……、ああ、銃弾か」
どうやら流れ弾に当たってしまった模様。
油断した……。まさか町中で銃撃されるとは思っていなかったから、魔力も全然纏っていなくてちょっと痛かったよ……。
それにしても危ないなー、住民に当たっていたら即死していたじゃない。
視線を通りの向こうにやると、すぐに派手な銃撃戦の音が聞こえてきた。
周囲の人々は慌てた様子で我先にとその場から逃げはじめる。
と五歳くらいの女の子が足をもつれさせて転倒。その母親らしき人が娘を庇うように上から覆い被さった。
「危ない! 幼女とお母さん!」
咄嗟に私は手をかざして魔法を発動していた。
これを受けて親子の全身が光に包まれる。
直後に私達のすぐ近くでも銃撃戦が始まった。大量の流れ弾が親子のいる所に。
カカカカカカンッ!
二人は全ての銃弾を跳ね返していた。不思議そうな表情で互いに顔を見合わせる。
さらに、流れ爆弾が親子のいる所に落下。
ド――――ンッ!
激しい爆発で一帯の地面は吹き飛んだものの、二人は無傷だった。
きょとんとする彼女達の所に私は歩み寄る。
「大丈夫ですよ。私の魔法が効いているので人間の兵器程度ではあなた達は傷一つ負いません」
「私達を助けてくださったのですか……? あなたはいったい……」
母親からの問いかけに「旅の聖女です」と返していると、騎士らしき若い男性がこちらに駆けてくるのが見えた。
「旅の方! 住民を守ってくださってありがとうございます!」
彼は私に向かって深々と頭を下げる。
ふーむ、どうやら軍の中にも巻きこまれた人達を気遣える人間がいるらしい。
しかもこの騎士さん、ちょっとかっこいい。この異世界は私達の世界で言うところの西洋風の人種が多く、日本人の私からすれば美男美女がゴロゴロだった。
私は先ほど銃弾が当たって乱れた髪をささっと直す。
「大したことではありません。聖女として当然のことをしたまでです」
「では、あなたは異世界からの……」
「はい、転移者です。あの、よろしければ一緒にハンバーガーを食べませんか? さっきとても美味しいお店を見つけまして」
「今はそれどころでは……。しかし、これほどの防御魔法をお使いになるとはすごいですね」
「あ、いえ、私が二人に施したのは防御魔法ではなく……」
そう言いかけた時、私が魔法をかけた推定五歳の幼女がキッと撃ち合いをしている人達を睨む。
「この! よくも、まちのみんなをっ!」
転がっている石を掴んで力いっぱいに投げた。
すると石は高速で一直線に飛び、戦車の砲塔にズドンと穴を空ける。
中に乗っていた人達が慌てて外に脱出し、直後に戦車は爆発。炎上するそれを眺めつつ、石を投げた当の幼女は呆然としていた。
親子も騎士さんも私に説明を求めるような眼差しを。
「……私が二人に施したのは防御魔法ではなく、強化魔法です」
これを聞いた騎士さんがハッと我に返る。
「いくら強化魔法でもここまで強くなるなんてありえません! どうなっているのですか!」
「えーと、私、転移特典で強化系統の最上位を引いちゃいまして。いわゆるアルティメットギフトというやつなんですけど。他系統は一切使えない代わりに強化魔法は効果抜群なんです」
「強化系統の最上位……。まさか、あなたは【武神】のリナ様では……?」
「はい、よくご存じで」
「もちろんです……、我々人類の最高戦力のお方ですので……」
私達転移者は召喚された際に一つずつギフトを授かる。
どういうわけか私が発現したのはアルティメットギフトの一つ、強化系統の最上位【武神】だった。
アルティメットギフトの特性は、他系統の魔法が習得できなくなるのと引き換えに、自系統の魔法の威力が格段に上がるというもの。私の強化魔法の場合、幼女が石で戦車を破壊できるほどだ。
なお、他系統の魔法が習得できないのは私の魔力自体が強化の性質を帯びてしまうことに起因する。これはつまり、私は普通に魔力を纏うだけで異次元の強化人間になることを意味していた。どれだけ油断していても銃弾で死ぬことは起こりえない。
ちなみに私が聖女と呼ばれているのは、召喚された国では転移者をそう呼ぶから。一緒に召喚された仲間達の中にはもっと聖女っぽいギフトを授かった者もいる。
この一年間、ずっと神様に問いかけてきた。
どうして私のギフトは破壊の権化のような【武神】なのか……。
全く聖女っぽくないし、こんな能力じゃ紛争で苦しむ人々を救うことも、かっこいい騎士さんとゆっくりハンバーガーを食べることもままならない。
「素晴らしい能力です……。……つまり、私と娘には今、武神様のご加護が宿っているということですね……?」
私が強化魔法をかけた母親の方がぼそりとそう呟いた。
彼女はおもむろに近くに転がっていたサッカーボールほどの石、いや、岩石を拾い上げる。
「……私の夫は、この紛争で大怪我を負って、今も家で苦しんでいるのです」
話を続ける彼女の目は瞳孔が開いていた。
なんかやばい! と思っているうちにその語気はどんどん強くなっていく。
「民を苦しめるこの王国が憎い! くだらない権力争いで私達一家を苦しめるこの王国が憎い! いっそ滅んでしまえばいいのです! 滅んでしまえー!」
と母親は手に持った岩石を空中に向かって投げる。
岩石は高速で数百メートル離れた王城へと飛んでいき、その壁にドーンと穴を空けた。
……幼女といいお母さんといい、かなり鬱憤が溜まっていたみたいだね。そして、どちらもかなり投擲のコントロールがいい。これは危険な親子を強化してしまった。
などと考えている間に親子はさらにエキサイトしていた。
幼女の方が石畳の地面をガンガン叩いて岩石砲弾を作り出し、それを次々に母親へと手渡す。
「いいぞー、おかあさーん! もっとやっちゃえー!」
「ええ! お城を穴だらけにしてやります!」
その言葉通り、絶え間ない砲撃で王城の壁はどんどん穴が増えていく。きっと今頃、内部は大パニックに違いない。
この状況に騎士さんが慌てた様子で私に。
「リナ様! 彼女達の強化を解いてください! このままでは……」
「いいえ、これこそまさに民の怒りです。私、内紛を収めるよい方法を思いつきました。ハンバーガーもすぐに食べにいけるはず」
「え……?」
「ところで騎士さんは第一王子と第二王子、どちらの軍の所属ですか?」
「私は王国の正規軍なので現国王様、つまり元第一王子様の下におりますが……」
「それはちょうどよかった。ではその現国王様に伝言をお願いします」
私の伝言は実にシンプルだった。ざっくり説明するとこんな感じになる。
現在、あなたの居城を砲撃しているのは内紛にぶちきれた母子です。あなたと弟が和平を結ばない限り、私は民達を守るために、彼女達のように強化魔法で保護しなければならないでしょう。(最大で数百人まで同時に強化可能です)民の怒りで物理的に王国を滅ぼされるか、それとも即刻和平を結ぶか、よくご検討ください。
伝言というより脅迫に近い感じだ。
まあ、実は親子にかけていたのは私の手持ちの中でも相当上位の強化魔法で(そうでないと銃弾や爆弾から普通の人間である彼女達を守れなかった)、同時に強化できるのはせいぜい数人程度なんだけど。
ただ、幼女と母親の奮戦ぶりを見る限り、数人でも王国が滅びそうではある。
それから、母親の方が第二王子が拠点にしている軍部の建物も知っていたので、そちらにも平等に岩石を投げてもらった上で同様の伝言を送付。
なお、強化魔法は体力や持久力など身体能力全般が底上げされる。
「おかあさん! なぜかわたし、ぜんぜんつかれない!」
「私もです! さすが武神様のご加護! どんどん岩石を投げましょう!」
親子はその日の深夜まで絶え間なく砲撃を続けた。
ドーン……。
ドーン……。
ドーン……。
ドーン……、…………。
きっと紛争を起こしていた両陣営は眠れない夜を過ごしたことだろう。
――翌日、現国王とその弟が私の前で和平文書に調印する。
カチカチに緊張した面持ちで署名する彼らを見ていて、そういえば仲間が『私が【武神】を発現したのはたぶん私の思考回路がそれ寄りだったからだろう』と言っていたのを思い出した。
どういう意味か今一つ分からないけど、ともかく王国の内紛は終結したのだからよかったと思う。
そうそう、あの岩石を投げまくっていた母子は決して処罰したりしないように、と調印の場で釘も刺しておいた。二人の奮戦ぶりは人々の記憶に刻まれ、紛争を収めた英雄としてのちに銅像が作られたらしい。
そして、ここからが私にとって重要な話になる。
調印式の翌日、私はあの騎士さんと約束通りハンバーガーを食べることに。
ところが、彼はなぜか飲みこむようにハンバーガーを速攻でたいらげると、「この度は本当にありがとうございました……」という言葉を残し、怯えた様子で去っていってしまった。
……改めて思う。この異世界で恋愛をするのは難しいと……。
「やっぱりままならない……」
少し切ない気持ちと呪いのようなギフトを抱えて、私は残りの有給休暇を消化させるべく王国を後にした。
私はモブキャラが好きで、よくおかしな感じに書いたりします。
……ですが、さすがに今回の母子はエキサイトさせすぎた気が。
楽しんでいただけたなら幸いです。
お読みいただき、有難うございました。
また、新作短編も書き上がりました。
『愚かな妹よ、身代わりにお見合いさせてくれてありがとう。素敵な人に巡り合えた上に侯爵夫人になれるようです。』
同様に5~10分でさくっとお読みいただけます。
こちらはタイトルを裏切らない展開になっています。
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