失くしものセンター
短編です
今年の春、子供が成人して家を出た。
あんなに騒がしかった家の中が、まるでモデルルームみたいに、広く、静かになってしまった。
ソファに座って一息つくと、体が沈んでいく。
旦那は定年した職場の仲間とゴルフに行ったから、今日、私は家に一人だ。
平日の真昼間、子供たちは学校へ行っている時間。そろそろ買い物に行っておいた方が・・・。あぁ、そうか、もううちには子どもはいないんだな。なんて、ふとした拍子にそう思う。
今日のお昼は何にしようかな、冷蔵庫・・・冷凍庫に何かあったかしら。
体が重い。ソファの優しさから逃れられない。どうせ昼ご飯は自分用に作ればいいだけなんだから、何でもいいや。そう思うと、作る気力も、食べる気力もなんだか失ってしまって、ソファから動き出すことが出来ない。
だんだん目が塞がっていく。お昼を食べて、とかならわかるけど、なんでこんな変なタイミングに眠気が来るんだろう。
目が閉じる、意識が遠のいていく。
目を覚ますと、目の前に、「失くしものセンター」と書かれた看板が現れた。一発で夢だとわかったけど、こんなリアルな夢初めて見た。ソファで寝るのなんか今まで何度もあったのに。
地面は雲でできていてなんだかふわふわとしているし、世界観がまるでメルヘンで、ちょっとそわそわしてしまう。
“失くしものセンター”のドアが開いて、ナカから羊が顔を出した。眠る、夢、羊なんてなんか出来過ぎているなぁと考えていると、羊が私に気が付いた。
「おや、失くしものですか?」
「え、あ、いや・・・別に」
「失くしたものが何か、もわからない?では、一緒にお探ししましょう」
羊は勝手に店の中に入っていく。私は仕方なくそれを追う。この際夢なんだから、羊がしゃべっているのは良いのだけど、私こんなメルヘン趣味だったかな・・・。
羊はカウンターの中に入ってパソコンを操作していた。やだぁ、妙にリアル。
「さて、ではあなたの失くしたものをお探ししましょう」
「え~、若さとか?」
「時間経過とともに失われるものは、当方ではちょっと」
「あ、はは」
なぁんだ、夢でくらい、若い姿になりたい。私だって若ければ、夢の一つや二つ・・・。あれ、私の夢って何だっけ?
「子供のころの夢とかは?」
「お探ししましょう」
カタカタとキーボードを叩く音がして、マウスをカチカチと操作すると、コピー機から紙が出てきた。
「こちらがあなたが失くされた夢になります」
お花屋さん、スポーツ選手、ソロキャンパー、アイドル、芸能人、などなど、確かに子供のころ、なりたいと思っていた職業などがずらりと並ぶ。しかしその中に、アレが入っていない。
「あの、絵画とか、絵を描く、イラストレーターみたいなのって?」
「ふむ・・・・」
またしばらくパソコンを弄った羊は、にっこりと微笑んだ。
「ありません」
「無いって・・・どういうことですか?」
「失くされてはいない、ということになるかと」
「・・・・つまり?」
「イラストレーター、画家など、絵を描くことへの情熱は、今もあなたの中にある、ということですよ」
そう言って羊の蹄が私の胸を軽く押した。
目が覚めると、未だ私はソファの上にいた。時計はあれから三十分ほどしか経過していない。
なんだか、頭はスッキリとしているし、心臓がトクトクと早く動いている気がする。
——絵の具セットどこにやったかな・・・——
さて、まずはお昼でも食べますか!




