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8:二人目

 SIDE IN~クールびゅーてぃー冷泉陽菜~


 翌日、食堂に新沼が現れなかった。

 霧島は目下私達の御世話係を志願してくれているので、5人での食事となる。

 三日目になるが、ここでの食事は変わり映えはあまりしないけれど、それなりにおいしいものだった。

 見た目と味とのギャップも、リーシュ以外はそれほどでもない。

 あれは、本当に意表をつかれたといっても過言ではなかった。

 自分の味覚さえ疑った。

 今では慣れてしまって、向こうでリンゴを食べたときに物足りなく思ってしまうかもしれないが。

 「昨晩、また魔物の襲撃がありました」

 霧島が厳かに言った。

 またか。

 険しい表情を浮かべていて、その内容を知る。

 どうりで、彼が食事に顔を出さないわけだ。

 皆も、楽しい雰囲気から一転して様々な表情を見せた。

 心配している小山田。しきりに彼の容体を聞いている。

 苦々しく顔をしかめる灰田。連日かよ、と小さくぼやいていた。

 真摯に受け止めているが、内心は不安でいっぱいな平野。眼鏡を触るのは癖なのだろう。

 そして、そして。

 「そう」

 内心穏やかではない、私。

 こちらにきて初日の夜に維新が襲われた。

 新沼に抱っこされて部屋を訪れたときは何事かと思ったけれど、その怪我を見て息を飲んだ。

 そして、昨日はその新沼だ。

 隣の部屋なのに、全く気がつかなかった。

 激しい訓練をして、余程疲れてはいたが、それでも音には敏感だとおもっていたのだけれど。

 どうやら思い違いだったのか。

 「気合いいれてかねぇとな」

 灰田が、真剣につぶやいた。

 誰にでもないような、皆に向けた言葉。

 昨日からそうなのだが、灰田にはリーダー気質のようなものがあった。

 無意識だけれど、皆の意識を引っ張っていっている。

 小山田も平野も、それには気付いているのか微妙な関係の変化があった。

 私としても、そうだ。

 信頼のようなものが、出来ている。 

 平野以外は剣や武道といった近接的な戦闘訓練を行っているのだが、そこでの彼の成長は目覚ましいものがあった。

 ありえない速度で、成長している。

 達人が1年かけるものを、彼は一カ月とかからないだろう。

 一日休めば取り返すのに三日かかるというが、彼は一日訓練すれば、10日は短縮できる。

 激しい訓練のおかげかもしれないが、それでも異様な成長速度であった。

 これが、勇者たる証なのかもしれないが。

 私としては、少しだけ悔しい。

 達人の気持ちが分かるから。

 選定の剣を抜き放ち、揺れる心をたち切った。

 一番上手く使えるという理由から、私が授かった。

 確かに、現状では間違いなかった。

 幼いころから剣舞を教わっていたから、造りが似ているこの剣は扱いやすく、御しやすかった。

 けれど、と不安が過る心がぬぐえない。

 私は剣を扱えるけれど。

 これは舞なのだから。

 とても戦いに向いているとは思えない。

 確かに実戦の中から取り入れている動きではあるが、これは舞に変化させてしまったものだ。

 通用するか、と問われれば、分からない、と答えるしかない。

 自信がないのだ。

 まだ灰田のほうが通用する気がする。

 そういう意味でも、私は悔しい思いをしていた。

 「お見事!」

 「よっ!」

 灰田と小山田のお気楽な声に、少しだけ苛立ちを覚えるが、非がないだけに、何も言えない。

 「ありがとう」

 無愛想な私の声に、混ざってしまったかと思ったけれど、そういうこともなさそうだ。

 全く気がつく様子はないのだから。

 「さて、と」

 「食後の休憩はそろそろ終わりかな?」

 これは別段取り決めがあったわけではない。

 だが、習慣的に私が食後に舞を練習していたら、彼らはそれが終わるのを合図に訓練を開始する、という雰囲気ができるのだ。

 ちょうどよかっただけである。

 だから私も何も言えない。

 気を引き締めるには、ちょうどよいのかもしれない。

 こうして、小山田は武術を、私と灰田は剣術を、それぞれの師に教わり始めるのだった。

 本来、舞とは誰かのためにあるものかもしれないな、という私の想いとともに。


SIDE CHANGE~寝るつもりだった維新幸樹~


 その日の夜に皆がやってきた。

 直と冷泉さんは、武装をして。

 直は西洋の剣を腰に提げ、冷泉さんはその手に大事そうにあの選定の剣を持っていた。

 訓練の帰りだろうか。

 疲れはおくびにも察せない。

 かろうじて、冷泉さんが若干寝むそうに見えるぐらいだろうか。

 わずかにしか違いはないけれど。

 あんまり表情変わらないんだよね。

 皆が口々に挨拶を済ませてから、各々椅子を持ち出して近くに席を作る。

 冷泉さんだけは、ベットにひかれたのか明人さんのベットの足元側に座っていた。

 明人さんと俺は自室で取っていた食事を近くのナイトテーブルにおく。

 明人さんも、見事に俺の仲間入りだった。

 歩けるぐらい軽いものらしいが、一応、ということである。

 世話係は部屋付きの女の人がしてくれるらしい。

 こちらでいう、看護士さんだろうか。

 中々可愛い人だった。

 どうでもいいことだろうけど。

 「どうしたんです?」

 「御見舞」

 「それはわざわざどうも」

 「大丈夫・・・ですか?」

 陽菜ちゃんが、明人さんの足を触る。

 それが意外な感じがして、ついつい見てしまう。

 「俺は軽いものさ」

 「そう」

 今度は、俺のところまで来る。

 一応、気を使ってくれているのだろうか。

 「包帯を代えましょうか?」

 「あ、んーとね」

 今日の昼に一度代えてもらったけれど、あまり良い状態とはいえず、女の子にみせるにははばかられる様な状態だった。

 痛みも熱も引いて良くなってはいるのだろうけれど、見た目的には少し悪化してみえる。

 「さっき代えてもらったから」

 笑顔で答えておく。

 さっき、なんて曖昧だけど、便利な言葉で片付ける。

 こちらの顔をしばらく見ていたけれど、右肩へとその小さな手を伸ばしてきた。

 気を使うように、優しくなでられる。

 傷に触らないように、くすぐられているようだった。

 「冷泉さん?」

 「・・・・・」

 そっと手を引いて、そのまま今度は僕のベットに腰かけた。

 なんなんだろうか。

 何か気になることでもあったのか。

 全くその表情からは読めなかった。

 「元気そうで、少し安心した」

 「そうですね」

 直と平蔵さんが、苦笑いをしながら言った。

 怪我をしている本人の前だけに、素直には笑えないみたいだ。

 そんなことはおかまいなしに小山田さんは笑っているけれど。

 明人さんをちらりと見ると、ナイトテーブルに置いたままの煙草の箱を手にとって、中をみて戻した。

 中身、相当少なくなってるみたいだ。

 これを気に禁煙でもすればいいとも、似合っているからやめなくてもいいとも思う。

 「これじゃあ、夜に安心して寝ていられないよな」

 直が、溜息まじりにはきだした。

 疲れているのだろう。

 安眠できないことが、堪えるほどに。

 同意とばかりに平蔵さんと小山田さんが溜息。

 僕はその様子を見て、気になることを思い出す。

 「毎晩、一匹だけ、か」

 明人さんがぼそりと呟いた。

 一度に送り込んでくれば、おそらく簡単に僕らは殺せるだろう。

 何かしらの理由があるとしか、考えられない行動だった。

 理由。

 なにがあるだろうか。

 戦力の問題。防衛網の問題。目立つからという問題。

 どれもが何か違う気がして、どれもが正しい気がする。

 相手の事が分からない僕らには答えの出ない水掛け論でしかないのだけれど。

 「試されている、とか?」

 「試す意味があるのかわからないけどな」

 「偵察ついでに攻撃されてるとか?」

 「なくもない、がそんなまだるっこしいことを考えるあいてか?」

 「遊んでいるのでは?」

 「一番線が高そうでしゃくにさわるな」

 「・・・・・」

 遊ばれているのに、こちらは瀕死である。

 その状況は、出来れば認めたくない。

 そんな答えの出ない状況がつまらなくなったのか、あくびがでてしまった。

 つられるように、冷泉さんまであくびをする。

 珍しい。

 そう思わないこともないけれど、年相応に見えるから、言わないでおく。

 ちらりとこちらを見て、何か言いたそうにするが、彼女もまた、何も言わない。

 「さーて、元気な姿も見たことだし、私達は戻ろうか」

 小山田さんが気を利かせて、早々に自室に戻って行った。

 入れ替わり立ち替わりで部屋に警備の兵が入ってくる。

 連日連夜の襲撃に、室内は遠慮していたのだけれど、それはもう甘いと判断された。

 夜通し警護してもらうのは悪い気がするが、それも仕方がないとおもえた。

 お仕事、お疲れ様です。

 そう思いながら、僕はベッドでまどろんでいくのだった。


 SIDE OUT

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